artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
ベルシー・ヴィラージュ
[フランス・パリ]
ワインの倉庫街をリノベーションしたベルシー・ヴィラージュを歩く。小さくてかわいらしい昔のスケール感と現代的な感覚を巧く接合した空間である。このエリアは、大蔵省、スポーツパレス、フランク・O・ゲーリーの建築、国会図書館、ボーヴォワール橋と、段階的に新しいものができるたびに訪れてきた。やはり、一度に開発して終わりという焼き畑農業的な手法ではなく、時間をかけた重層的な接ぎ木がパリという都市の力だろう。
写真:上から、ベルシー・ヴィラージュの街並み、大蔵省、スポーツパレス、フランク・O・ゲーリー《アメリカン・センター(現 シネマテーク・フランセーズ)、図書館とボーヴォワール橋
2014/01/03(金)(五十嵐太郎)
1930年代美術館
[フランス・パリ]
《1930年代美術館》は、その名称のとおり、《サヴォア邸》が生まれたのと同時代にあたる1930年代をテーマとし、美術、建築、デザインなどを横断的に展示する施設である。アール・デコや植民地芸術などのテーマも含む。ちなみに、このまわりには、市庁舎、郵便局、警察など、モダニズムがよく残る。特にトニー・ガルニエの手がけた庁舎は、保存状態も素晴らしく、ダイナミックかつ透明感あふれる内部空間の吹抜けが素晴らしい。
2014/01/02(木)(五十嵐太郎)
サヴォア邸
[フランス・パリ]
パリに戻り、ル・コルビュジエの《サヴォア邸》を訪問した。実は学生のとき以来だ。正確に言うと、10年くらい前に出かけたのだが、当日が休みと気づかず、門まで行って引き返したことはあるが。モノは同じままだが、以前に比べて、来場者は確実に増え、見る側の筆者も前回からだいぶ建築を学んだ。文章化された明快なテーゼと、本当はそれには回収できない複雑なかたちの組み合わせが、奇蹟の空間を生み出している。ただ、途中のスタディのプロセスが一階の部屋に展示されていたように、いきなりここに到達したわけではなく、紆余曲折を経て、現在のサヴォア邸が誕生した。
2014/01/02(木)(五十嵐太郎)
テート・ブリテン
[イギリス・ロンドン]
テート・ブリテンへ。巧みな構図で物語の場面をドラマチックに描く画家のウィリアム・ブレイクが、もし20世紀に生まれていたら、映画監督になっていたと思う。ターナーの絵画などを展示するクロア・ギャラリーは、約20年ぶりの訪問だが、ジェームス・スターリングが手がけた力作である。ただ現時点では、こうしたポストモダンよりも、ハイテク系のデザインによる古典建築の増築の方が優勢になったかもしれない。テートでは、フランシス・ベーコンの絵を年代別の部屋に分散して展示するが、キャプションにてナチスの影響を示唆していた。ナチスのプロパガンダ関係の写真とベーコンの絵の類似性を指摘する、マーティン・ハマーの著作にもとづくものだろう。この本は、彼の怪物的なイメージの源泉を探る興味深い試みである。
2014/01/01(水)(五十嵐太郎)
We Will Rock You
ドミニオン劇場[イギリス・ロンドン]
大晦日はドミニオン劇場にて、クイーンのロック・ミュージカル「We Will Rock You」を鑑賞。20曲以上をライブで聴けるのが嬉しい。原曲と異なる印象のアレンジも思った以上になく、特にブライアン・メイのギターのフレーズが、曲のアイデンティティを形成するうえで、重要なことが改めてよくわかった。ただし、物語はつまらない。ロック・ミュージカルは、(未来の)管理社会とそれを打破する自由と愛のロックというストーリーばかりだ。「Rock of Ages」も然り、ドラマ仕立てのStyxの「Kilroy Was Here」も、そうである。かつてはそういう意義もあったと思うが、本当にいまのロックにこれを期待してよいのか。以前、大槻ケンヂが、ロックには、こんな社会は嫌だと、僕は君が好きだの二種類の歌詞しかないと見事に指摘していたが、確かにロックのヒット曲を無理につなげてストーリーをつくると、こうなりがちなのもわからなくもない。ただ、クイーンの楽曲なら、もうちょっと物語のバラエティが出せるのではないだろうか。
2013/12/31(火)(五十嵐太郎)