artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
五十嵐研ゼミ合宿 2日目:藤本壮介《T-HOUSE》、生物建築舎《天神山のアトリエ》《萩塚の長屋》ほか
[群馬県]
2日目は、藤本壮介の《T-HOUSE》、生物建築舎の《天神山のアトリエ》と《萩塚の長屋》、CAn+Catの《ぐんま国際アカデミー》、宇野享の《太田の長屋》をめぐり、太田駅前にて飲んでから解散する。今年は学生が増え、OBも参加したことで、30名近い大所帯で移動した。前橋のアート・コレクターが暮らす《T-HOUSE》では、近くにコインパーキングを見つけられず、そばの神社の境内に止める際、地元の人に声がけすると、やはりこの住宅はよく知られていた。筆者は2度目の訪問だったので、常設展のように、固定して置かれている作品も、空間を決定する重要な要素になっていることに興味をもった。別ルートから前橋工科大学の学生も見学に合流したのだが、施主によると、同時に室内に人がいる最高記録だったらしい。《天神山のアトリエ》は、まわり四方を壁で囲み、天井すべてガラス、床は土が連続しており、ほとんど外部空間と変わらない室内だった。四季や気候の変化、あるいはまわりの状況をダイナミックに反映する空間といえよう。さらにドラキュラの棺と呼ばれる地下の寝床をもち、建築家自身が暮らす驚くべき実験住宅である。そして《太田の長屋》では、2つ賃貸部屋を見せてもらい、一見どのユニットも似ているけれど、想像以上に異なるバリエーションで空間が展開していることに感心させられた。
写真:上から、藤本壮介《T-HOUSE》、生物建築舎《天神山のアトリエ》、宇野享の《太田の長屋》
2011/12/29(木)(五十嵐太郎)
五十嵐研ゼミ合宿 1日目:隈研吾《太田市金山地域交流センター》、小嶋一浩《OTA HOUSE MUSEUM》ほか
[群馬県]
年末恒例の五十嵐研ゼミ合宿を行なう。今年は主に群馬県のエリアをまわり、住宅の見学が多かった。初日は、隈研吾の《太田市金山地域交流センター》、小嶋一浩の《OTA HOUSE MUSEUM》、磯崎新の《群馬県立近代美術館》、隈の《高崎駐車場》、レーモンドの《群馬県立音楽センター》を訪れ、映画『千と千尋の神隠し』のモデルとされる、温泉の《積善館》で宿泊した。《OTA HOUSE MUSEUM》は、2人のアーティスト夫妻のプライベート・ギャラリー、アトリエ、居住スペースから構成される。フロアごとのまったく異なる空間が展開し、それを本棚に囲まれた階段室が垂直に突き刺す。スペース・ブロックのコンセプトがとてもよく表現された建築である。いったん、2階の屋外に出てからアプローチする寝室は、《住吉の長屋》を思わせる大胆な構成だ。翌日、《ぐんま国際アカデミー》前で通行人としゃべっていても、《OTA HOUSE MUSEUM》の存在を知っていて、遠くからの視認性も効いている。
写真:上から、隈研吾《太田市金山地域交流センター》、小嶋一浩《OTA HOUSE MUSEUM》、《積善館》
2011/12/28(水)(五十嵐太郎)
You Make The Rule 再描写を試みる家 展 PeclersParis × 谷尻誠
会期:2011/12/15~2012/01/31
リビングデザインセンターOZONE 3F OZONEプラザ[東京都]
2階建て以上のヴォリュームの巨大発泡スチロールをくり抜き、部屋をつくる。根源的な空間への欲求を表現すると同時に、どこかの地中海の集落を連想させるような風景が吹抜けに生まれ、楽しい展示なのだが、しつこいまでの「撮影禁止」の表示が残念。この楽しい空間をみなが撮影し、それぞれネットにアップすれば、もっと人が来るだろうに。
2011/12/25(日)(五十嵐太郎)
感じる服考える服:東京ファッションの現在形
会期:2011/10/18~2011/12/25
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
目的はファッションというよりも、中村竜治による会場構成である。ちょうど目の高さだけに梁が縦横にとび、空間を仕切る思い切ったデザインだ。多くの出品者のエリアを分けつつ、連続性も確保し、さらにほかの来場者の顔の部分だけを隠すために、その人たちのファッションだけが強調される。室内において不思議な高さに水平面を設定する方法は、2010年に開催された代官山のLLOVEプロジェクトにおける中村竜治のデザインも想起させるだろう。おそらく頭をぶつけるから、監視員はみなヘルメットを脇に置いているし、梁も下部が養生されている。また腰が痛い人にとっては、にじり口ではないが、いちいち身をかがめさせられる地獄のような展示で、問題がないわけではない。しかし、この方法は支持したい。
2011/12/25(日)(五十嵐太郎)
キルコス国際建築設計コンペティション2011(テーマ:変わること/変わらないこと)
北川啓介が企画した新しいタイプのアイデア・コンペである。20組の審査委員がいるのだが、最優秀賞をひとつに絞っていくのではなく、それぞれが金賞、銀賞、銅賞、佳作を決めるために、大量の受賞者を生みだす。とくにユニークだったのが、結果発表がユニークである。12月25日の正午から、建築系ラジオを用いて、約20分程度の講評を連続的に配信していく。立ち上げからかかわっている筆者にとっても、建築系ラジオの斬新な使い方だった。まだ気づいていない可能性を発掘している。建築系ラジオに対し、何が「目的」なのかと聞いて批判する人がいるが、新しいメディアは使ってみないとわからないことが多いことを改めて痛感させられる。
2011/12/25(日)(五十嵐太郎)