artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

3.11東日本大震災の記録 DVD上映会&講演会/ハノイ建築めぐり

会期:2012/03/10

ベトナム国立図書館[ベトナム・ハノイ]

ベトナム国立図書館にて、震災復興セミナーを行なう。まず震災と復興、世界への感謝と観光を呼びかけるDVDを上映し、高成田享による震災の教訓について講演、そして筆者の3.11以降の建築と都市のレクチャーが続く。午前8時スタートというのは、今まで経験したこの手のものとしてはもっとも朝が早いが、会場は満員だった。ベトナムに地震や津波の自然災害はないが、原発の事故には大きな関心があるようだった。
午後はハノイの建築めぐり。劇場や大聖堂など、フランス仕込み様式建築や近代建築がよく残っている。エルネスト・エブラールらの建築家が挑戦した、ゴシックや古典主義と、ベトナムの現地スタイルを折衷させたデザインも興味深い。

2012/03/10(土)(五十嵐太郎)

平松伸之「Bricolage」/栗山斉「impermanent preservation[sunflower project]」/名古屋芸術大学“メディア系”シリーズ展示7

アートラボあいち[愛知県]

会期:2012/02/22~03/10、2012/02/29~03/11、2012/03/03~03/14
名古屋の長者町にあるアートの拠点では、各階でいつも若手作家の展覧会を行なっている。やはり当たり外れはあるのだが、今回は3フロアともにおもしろい作品が重なった。地下では、平松伸之の名古屋を舞台にした演歌のカラオケ風映像とあいちトリエンナーレ2013の芸術監督である筆者へのメッセージ、2階では、栗山斉のヒマワリと放射線の関係を示唆する静謐な作品、そして3階の名古屋芸術大学のメディア系シリーズ展示では、菅沼朋香による名古屋の昭和スポットめぐりのプロジェクトである。

写真:上=栗山斉、下=菅沼朋香

2012/03/08(木)(五十嵐太郎)

せんだいデザインリーグ2012 卒業設計日本一決定戦

会期:2012/03/05

せんだいメディアテーク、東北大学百周年記念会館川内萩ホール[宮城県]

今年の卒業設計日本一決定戦では、仙台に来てから初めて、予選からファイナルに至るすべての段階で審査を担当しなかったが、結果的によかったと思う。東北大の五十嵐研の卒計は、研究室が始まって以来の最強の布陣となり、大活躍したからである。まず予選では、6人のうち4人(松井一哲、曽良あかり、三浦和徳、伊藤幹)が100選に入っている。もっとも、ここからもれた関谷拓巳によるサドの小説『ソドム120日』の建築化も、椚座基道の国会議事堂に複数の直方体が突き刺さる作品も、相当にユニークだった。建築棟が大破し、十分な教育環境がないと同時に、普段以上に負荷がかかるなか(引越や海外巡回展、学科60周年記念など)、震災の年に不思議なめぐり合わせとなった。
研究室からは3人がファイナルに進出している。さらに日本一となった今泉絵里花も加えると、東北大から4人も残った。今年10回目を迎える卒計日本一だが、筆者の記憶では過去9回にファイナルにまで東北大が残ったのは、2人くらいしかいない。うちひとりは2008年の五十嵐研の鈴木茜で、卒計ではベスト10止まりだったが、その2年後、東京ケンチクコレクションでは最優秀を獲得した。ともあれ、これまでも完全にばらばらにファイナルに残るというより、京都大学がまとめて3人くらい入ったり、理科大が2人、日本大学が2人、芝浦工大が2人という風に、年度によって同じ大学がかぶる傾向が認められる。やはり同学年に勢いがあるときとそうでないときが存在するからだろう。
卒計日本一は審査委員長の伊東豊雄の関心が強いことから、震災関係のプロジェクトが議論の中心となり、津波で流された家を模型を使いながら復元する、松井の「記憶の器」は日本二になった。東京に戻る最終新幹線で、ファイナルの審査員を担当した伊東、塚本由晴、コメンテータの竹内昌義らと一緒になり、「記憶の器」について議論が続く。おそらく、この案自体が記憶に残る、2位になったのだろう。あまり語られていないが、これは「卒計」批判の作品でもある。学生が実現しない絵空事を設計するよりも、実在する誰かを喜ばせることができる模型を制作したからだ。

写真:上=松井一哲、中=三浦和徳、下=伊藤幹

2012/03/05(月)(五十嵐太郎)

2011年度京都造形芸術大学卒業制作関連イベント シンポジウム「万博へ、万博から」

会期:2012/03/04

京都造形芸術大学 京都芸術劇場 春秋座[京都府]

京都造形芸術大学の卒業制作展を訪れた。美術、建築、デザインだけではなく、テキスタイル、日本画など、いろいろなジャンルがある。1円玉を集めて103万円をかたどる作品、クリムト的な絵画がある和風の空間インスタレーション、壁が絵になった作品などが印象に残る。旅館の増築のように、傾斜に沿って、奥まで複雑に建物が続いていたことを初めて知った。坂茂による構築物も建設中だった。今回の卒制展のテーマ、万博にあわせて、浅田彰、五十嵐、ヤノベケンジ、岡崎乾二郎のトークイベントが開催された(当初、磯崎新も来る予定だったが、欠席)。五十嵐は建築、ヤノベは自作から大阪万博を中心に語り、岡崎は大阪万博と対極的な構造をもつ1967年のモントリオール万博を論じた。すなわち、丹下健三が全体計画を担当した大阪万博の未来都市がツリー構造だとすれば、モントリオールは逆に一枚一枚の葉がそれぞれの幹をもつ思想だという。

2012/03/04(日)(五十嵐太郎)

国際交流基金巡回展「3.11─東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」

会期:2012/03/02~2012/03/18

東北大学 都市・建築学専攻仮設校舎 KATAHIRA10[宮城県]

筆者が監修した「3.11─東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」の仙台展がスタートした。50組以上のプロジェクトを紹介するパネル、ドローイングや多くの模型、ダンボール家具などの実物のほか、地元枠の追加展示も入り、全体としてはかなりのヴォリュームに膨んだ。会場は、震災を受けてつくられた東北大学の仮設校舎の1階である。記者会見は、仙台駅からの交通の便が悪いところなので、プレスが集まるか心配だったが、おかげで会議室はいっぱいになった。半分以上は東京から来ていたようで、メディアの注目が高いことがうかがえる。こうした世界巡回展の最初は、東京で開催するのが普通だが、あえて被災地である仙台で行なったことは有意義だろう。遠くからこの展示に訪れた人も、さらに足をのばせば、実際に津波の被害を受けた仙台平野を直接見ることができるからだ。

2012/03/02(金)(五十嵐太郎)