artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
南相馬市プロジェクト「塔と壁画のある仮設集会所」塔の完成
会期:2011/12/12~2011/12/13
南相馬市[福島県]
塔の建設を見届けるべく、南相馬市の仮設住宅地を訪れた。11月に建設資材は運び込み、基礎のコンクリートと中央の支柱はすでに完成していたので、この日はクレーンで三角形の木のフレームを持ち上げ、積んでいく作業が始まった。鮮やかに着彩されたユニット群が垂直に立ち上がっていく。彦坂尚嘉が和歌の形式にならって、5、7、5、7、7のパターンで色を塗り分けているが、高くなるにつれて、色の組み合わせ効果も見えてきた。機能をもたない純粋な塔は、幾何学的な抽象彫刻である。集会所の内部を見ると、さまざまな飾り付けが増えていた。天井から吊り下げられた折り紙群、カラオケ大会の記念写真、標語などである。三角形のユニットは、微妙にズレながら、回転しつつ空に向かう。近隣の仮設住宅地の人たちからも、ここに何ができるか、大きな関心をもたれているようだった。全部で90段を積み、8mの高さに到達する予定だったが、日が暮れるのが早く、初日は全体の1/3程度で切り上げ、翌日に完成した。そして後日、これを「復活の塔」と命名する。また12月23日には、NHK BSの番組「地球テレビ:エル・ムンド クリスマス・スペシャル」において現場から中継された。
2011/12/12(月)(五十嵐太郎)
特別展 フェルメールからのラブレター展 コミュニケーション:17世紀オランダ絵画から読み解く人々のメッセージ
会期:2011/10/27~2011/12/12
宮城県美術館[宮城県]
会場は満員御礼だった。17世紀のオランダ絵画は、全絵画史においても、とくに窓や室内の表現が抜群に面白い。そして窓辺で手紙を読んだり、書いたり、食事を行なう場面を描く構図が共有されている。特にピーテル・デ・ホーホは、重層的に空間を折り畳みつつ、絵と窓の置換可能性も感じさせるものだ。今回、フェルメールの絵画は3点が出品されている。うち2点は窓を描かずに、その存在をほのかに意識させる手法が興味深い。
2011/12/06(火)(五十嵐太郎)
五十嵐太郎研究室『山田幸司作品集 ダイハード・ポストモダンとしての建築』
発行日:2011/11/20
2009年に亡くなった建築系ラジオの創設メンバー、山田幸司の作品集+追悼文集である。名古屋工業大学の北川啓介研で集めた資料を引き継ぎ、東北大学五十嵐研(担当は平野晴香)の編集によって、2年かけてようやく完成した。彼の卒計、SDレビュー入選作、代表作の《笹田学園》を含む実作、幻の自邸計画などのアンビルドを収録し、強度あるポストモダンを味わうことができる。なお、装幀もヤマダ・グリーンを基調としたブックデザインとした。
2011/12/05(月)(五十嵐太郎)
生誕100年 ジャクソン・ポロック展
会期:2011/11/11~2012/01/22
世界中の美術館がコレクションに加えられるピカソとは違い、ポロックはそれほど作品が多くないから、本当によくこれだけの作品を日本で一同に集めたものだと思う。生誕100年の回顧展を開催したのも、世界で日本だけのようだ。初期のものから含めて、ポロックの作品集でおなじみの絵画と幾つも出会うことができる。今回、彼が絵画を制作していた小屋を、1/1スケールで再現していることが興味深い。行為の痕跡としての作品だけに、スケール感を確認できるからだ。言うまでもなく、絵画を床に広げて制作したこともあり、床には大量の絵の具が飛散した状態になっている。
2011/12/05(月)(五十嵐太郎)
ライブラリーセミナー 著者が語る、建築本の楽しみ方ーサバイバル住宅編ー第2回ダンボールハウス
会期:2011/12/03
ハウスクエア横浜 住まいの情報館3階ライブラリー[神奈川県]
『ダンボールハウス』(ポプラ社、2005)の著者、長嶋千聡は、実は筆者が中部大学で教鞭をとっていたときの最初の卒論生である。ほかの先生がダンボールハウスを研究テーマと認めず、引き受けることになった。しかし、それぞれの住人と知り合いになってから調査を始める今和次郎の考現学風スケッチによる観察と分析が評判を呼び、卒論がとうとう書籍になった。ダンボールハウスが決してユートピア的な「0円ハウス」ではなく、ここでもお金を介在するリアリティのうえに成立していることを明らかにした労作である。
2011/12/03(土)(五十嵐太郎)