artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

真下慶治記念美術館

真下慶治記念美術館[山形県]

山形県にて、高宮眞介が設計した真下慶治記念美術館を見学した。画家の愛した最上川を見下ろす、ほとんど最高のロケーションに位置する。それゆえ、絵のなかの構図と同じような風景を建物から見ることができる。川沿いの画家のアトリエも視界に入る。張弦梁の同じ天井の構造が連続するシンプルな断面ながら、奥にいくにつれ、横に、あるいは縦に膨らみ、最後は川が眼下に広がり、どんどん空間が変化する構成が絶妙である。

2012/02/22(水)(五十嵐太郎)

『ニーチェの馬』トークショー

会期:2012/02/19

シアター・イメージフォーラム[東京都]

トークのために、劇場にて鑑賞した。前はコメントを寄稿するため、DVDだったが、これは「映画館」で見るべき作品である。上映終了後、再び光に包まれる劇場の意味は家では絶対にわからない。また絶えず吹きすさぶ強風も大きな画面が必要だ。鑑賞しながら、長回しを時計で確認したが、ワンカット平均5、6分だった。実際、2時間半で30カットらしいので、計算通りである。『ニーチェの馬』は日常の反復を描くが、じゃがいもを素手で食べるシーン。1日目は父、2日目は娘を中心に映し、3日目は窓側から2人を、5日間は室内側から2人を、そして6日目は……という風に、反復しながら、状況に合わせて変容していく。繰り返される窓の外を眺めるシーンも、四日目に初めて屋外側から映すのも興味深い。家に閉じ込められているかのようだ。これは窓映画である。タル・ベーラの『ヴェルクマイスター・ハーモニー』や『倫敦から来た男』にも類似したショットはある。前者はそれ以外にも開口の人影の印象的なシーン、後者は窓まわりの光と影の美しい効果を表現しているが、『ニーチェの馬』がもっとも窓の実在を考えさせる。

2012/02/19(日)(五十嵐太郎)

京都工芸繊維大学工芸科学部 造形工学課程 卒業制作展 ゲストによる学生作品講評・ゲストトーク

会期:2012/02/18

京都府京都文化博物館[京都府]

中村竜治らと、京都工芸繊維大学の卒計展の講評とレクチャーを行なった。建築の卒業設計のほかに、卒論やプロダクト・デザイン系なども混ざっているのが、興味深い。そうなると、見慣れた建築よりも、もの珍しさも手伝い、実物が展示できるプロダクト系にどうしても目が向く。講評では、3点選ぶということで、卒計、卒論、デザインからひとつずつ選ぶ。震災絡みの提案はひとつもなく、被災地との距離も改めて感じさせられた。

2012/02/18(土)(五十嵐太郎)

女川(保存される倒壊ビル、RC造の被災ビル、浸水した高台の病院、坂茂「コンテナ仮設住宅」)

[宮城県]

数カ月ぶりに訪れた女川町は、保存される倒壊ビルやRC造の被災ビルをのぞき、ほとんどの瓦礫が撤去され、更地に近い状態になっていた。震災直後に目撃したカオス的な廃墟の風景はもう存在しない。また浸水した高台の病院も、一階の復旧工事中だった。各種のメディアでとりあげられた坂茂によるコンテナを積んだ仮設住宅は、野球場に並んでいた。ほかの仮設住宅より、確かにスペックがよく、恵まれた居住環境を提供している。

2012/02/16(木)(五十嵐太郎)

猪苗代町立猪苗代小学校

猪苗代町立猪苗代小学校[福島県]

青島裕之が設計した猪苗代町立猪苗代小学校を見学した。南面教室と北側廊下という通常のセオリーとは逆に、南側にオープンスペース、安定した光の注ぐ北側に教室を配置した意欲作である。トップライトや断面の形状を工夫し、北国ならではの採光を巧く処理している。またランチルームとそれに隣接する図書室を全体の中心に置き、共同体の統一感をあらわす。東日本大震災の直後は、地元の住人が一時避難し、公共施設として活躍している。

2012/02/14(火)(五十嵐太郎)