2023年12月01日号
次回12月15日更新予定

artscapeレビュー

飯沢耕太郎のレビュー/プレビュー

野村浩「KUDAN」

会期:2022/10/19~2022/11/20

POETIC SCAPE[東京都]

野村浩は写真作品を中心に発表してきたアーティストだし、会場のPOETIC SCAPEも写真専門のギャラリーである。今回の展示でも、当然写真作品が出品されていると思っていたのだが、大小の油彩画と立体作品だけが並んでいた。もっとも、東京藝術大学で油画を専攻した野村は、これまでも絵画作品を多数制作、発表してきている。『EYES WATERCOLORS』(マッチアンドカンパニー、2008)のように、純粋に絵画だけの作品集もある。今回も、テーマによって表現ジャンルを巧みに使い分けてきた彼の志向を貫いているということだろう。

今回の展示作品のテーマは「件(くだん)」である。頭が牛で体が人間というキメラ状の怪物は、ギリシア神話や中国の伝承に登場してくるだけでなく、内田百閒にも同名の小説がある。どうやら展覧会の会期が迫っていた時期に、急に思いついたモチーフだったようだが、作品を見ているうちに、不気味だがどことなくユーモラスなそのキャラクターは、野村の作品世界の登場人物にふさわしいものに思えてきた。まん丸の「眼玉」は、これまでも野村が固執し続けてきたイメージだが、今回も効果的に使われている。マネの「草上の昼食」やアメリカンコミックなどを巧みに換骨奪胎した作品もあり、野村のこのテーマに対する「ノリ」のよさが観客にも伝わってくる展示になっていた。さて、次は何が出てくるのか。まだしばらくはアイデアが枯渇しそうにもないので、その作品世界の広がりを楽しめそうだ。

公式サイト:http://www.poetic-scape.com/#exhibition

2022/10/27(木)(飯沢耕太郎)

石塚公昭「Don’t Think, Feel!寒山拾得展」

会期:2022/10/13~2022/11/06

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

本業は人形作家である石塚公昭の写真作品は、ほかに類例を見ないユニークなものだ。彼はまず、実在の作家、ミュージシャンなどだけでなく、物語の登場人物など架空の存在も含めて、彼らをモデルとした精緻かつリアルな人形を作成する。それらを撮影し、背景や小道具などの画像と併せて画面に自在に配置し、あたかも活人画の舞台のような場面を作り上げていくのだ。今回は寒山拾得、蝦蟇仙人、鉄拐仙人、達磨大師、一休宗純など、中国や日本の神話、伝説、説話などに登場する人物たちにスポットを当て、なんとも奇妙なイメージの世界を織りあげている。

これらの仕事は、もはや写真作品の範疇を超えている。とはいえ、その画像形成のシステムを、写真的なプロセスに委ねていることも間違いない。写真と絵画のはざまの表現というよりは、石塚の脳内に花開いたイメージ世界を忠実にプリントアウトした作品としか言いようがないだろう。前回のふげん社での個展「椿説 男の死」(2020)では、三島由紀夫という特定の個人に収束する作品が展示されていた。今回は幅広い題材を扱っているため、やや印象が拡散してしまったことは否定できない。だが逆にその分、石塚の脳内世界がより活性化し、自由奔放に伸び広がりつつあるともいえるだろう。

技術的にはまだ完成途上のものもあり、主題についてもいろいろなアイディアが蠢いてきているようだ。さらなる展開が期待できるのではないだろうか。

公式サイト:https://fugensha.jp/events/221013ishizuka/

2022/10/26(水)(飯沢耕太郎)

大森克己「山の音─sounds and things vol.3」

会期:2022/10/20~2022/10/30

MEM[東京都]

大森克己がMEMで2014年、2015年に「sounds and things」と銘打って開催した連続展は、写真と言葉、見えるものと見えないもの、時間と空間などの意味を問い直す、意欲的な展覧会だった。コロナ禍による空白の時期もあり、やや間を置いて7年ぶりに開催された本展にも、その延長上にある作品が出品されていた。だが、前回と大きく変わったのは、スマートフォンで撮影された作品がかなりの比率で登場してきていることだろう。

大森に限らず、スマートフォンの普及が写真の撮り方、見せ方、伝え方を大きく変えつつあることは間違いない。だが、SNSなどにアップされる写真画像についてはよく言及されるのだが、それがギャラリーでの展示や写真集などを含めた写真表現のあり方にどんな影響を及ぼしつつあるのかについては、まだ未知の部分が大きい。大森は元々、写真や言葉によるコミュニケーションのあり方に、鋭敏に反応してきた写真家であり、スマートフォンを使った写真の可能性をかなり強く意識しているのではないかと思う。そのことが、「暮らしのなかで自然光で撮影された写真群」を中心にした壁面の構成、及びボックス状のデスクに、スマートフォンの画面と同じ大きさにプリントしたたくさんの写真をアトランダムに収め、観客が自由に手にとって見ることができるようにしたインスタレーションによくあらわれていた。「スマホとSNSの時代」の写真のあり方が、どんな風に動いていくのかを、あらためて問いかける展示といえるだろう。

なお展覧会に合わせて、大森が1990年代以来書き継いできたエッセイ、対談などを収録した『山の音』(プレジデント社)が刊行されている。

公式サイト:https://mem-inc.jp/2022/09/28/221016omori/

2022/10/26(水)(飯沢耕太郎)

川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり

会期:2022/10/08~2022/12/18

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

2012年に東京都写真美術館で開催された「照度 あめつち 影を見る」以来の、川内倫子の10年ぶりの大規模回顧展となる本展は、やや盛り沢山すぎるほどの充実した内容だった。区切られた部屋ごとに、「Halo」「4%」「One surface」「An interlinking」「Illuminance」「光と影」「A Whisper」「あめつち」「M/E」「やまなみ」といったシリーズが並んでいるのだが、そこには旧作と新作、プリントとスライド映写が入り混じっており、「Illuminance」のような二つのスクリーンに映し出す純粋な映像作品もある。川内の作品の幅が近年大きく拡張し、ごく身近な事象から、無限の広がりをもつ宇宙大の空間までを含みこむ、多次元性を備えつつあることがよくわかる展示だった。

とはいえ、川内の作品世界を貫く基本原理は、デビュー写真集であり、2002年に第27回木村伊兵衛写真賞を受賞した『うたたね』(リトルモア、2001)以来、あまり変わっていないのではないのだろうか。それは今回の展覧会のために組み上げられた新作「M/E」を見ればよくわかる。タイトルのMはMother、EはEarthであり、「母なる大地」というコンセプトの下に、アイスランドや北海道で撮影されたスケールの大きな風景写真が並ぶ。だが、その反対側の壁には、「コロナ禍の日常」に目を向けたプライヴェートな写真群が展示されていた。いわば神話的ともいえるような次元と、具体性を帯びた触覚的な世界とが、写真という媒体を通じて共振しあっているような作品世界を、彼女はデビュー以来、20年以上にわたって練り上げてきたということだろう。

とても興味深かったのは、同時期に東京都写真美術館で開催されている野口里佳の個展「不思議な力」との共通性を、多くの展示作品から感じたことだ。川内は1997年に第9回写真『ひとつぼ展』でグランプリを受賞し、野口は1995年の第5回写真『ひとつぼ』展、及び96年の第5回「写真新世紀」展でグランプリを受賞して、ほぼ同時期に写真家としての第一歩を踏み出した。初めの頃はかなり隔たった作風と感じていたのだが、時を経るにつれて、とりわけ家族を含む身近な被写体に向けられた親密な、だが時には過激な「実験」を試みるような眼差しのあり方が、重なり合って見えてくるようになった。二人の写真のなかに、1990年代以降の日本の写真家たちの表現の可能性が、最大限に凝縮して宿っているようにも思える。

公式サイト:https://rinkokawauchi-me.exhibit.jp

関連レビュー

野口里佳 不思議な力|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2022年11月15日号)

2022/10/25(火)(飯沢耕太郎)

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吉村朗の眼

会期:2022/10/11~2022/11/19

Gallery Forest[神奈川県]

東京綜合写真専門学校4階にあるGallery Forestでは、定期的に企画展が開催されている。2021年の「西野壮平×GOTO AKI」展に続いて、今回は同校研究科を1984年に卒業後、ユニークな活動を続けた吉村朗にスポットを当てた展覧会が開催された。

吉村は1980年台後半にアメリカの「ニュー・カラー」の動向を取り入れた作品や、路上のスナップ写真で注目されるようになるが、1995年に発表した「分水嶺」をひとつの契機として、日本だけでなく韓国、中国、東アジア各地を舞台にして、日本のアジア侵略の歴史と吉村家の家族史とを絡み合わせたドキュメンタリー作品を制作するようになる。川崎市市民ミュージアムの連続企画展「現代写真の母型1999」展に出品するなど、意欲的な活動を展開していたが、2012年に故郷の北九州市門司区で亡くなった。没後に『Akira Yoshimura Works─吉村朗写真集』(大隅書店、2014)が編纂・刊行されるなど、あらためて彼の仕事の再評価が進みつつある。

今回の展示では「分水嶺」以外にも、「闇の呼ぶ声」(1996)、「新物語」(2000)、「ジェノグラム」(2001)など、生前に発表された代表作に加えて、未発表作品、写真集や展覧会カタログなどの資料、使用していたカメラなども出品されていた。特に注目すべきなのは、これまで破棄されていたと思われていたカラー写真による路上スナップの連作「THE ROUTE 釜山、1993」のプリントが発見され、まとめて展示されたということだ。それらを見ると、日本の近代史を遡行していく吉村の試行のベースになる部分が、この時期にくっきりと形をとっていたことがわかる。また、これも最近になって発見された「ANTESPECTIVE/抗議する人」と題する2008年のシリーズには、下関で開催された「リトル釜山フェスタ」に参加する安倍晋三元首相の姿が写っており、吉村の関心の幅の広さがうかがえた。

吉村朗の没後10年にあたる年に、本展が開催されたことはとても意義深い。とはいえ、今回の展示で、彼の仕事の全体像がすべて明るみに出たというわけではない。この写真家には、まだ謎めいたところがたくさん残っており、今後も粘り強い解明の営みが必要になってくるだろう。

公式サイト:https://gallery.tcp.ac.jp/eyes-of-akira-yoshimura/

2022/10/17(月)(飯沢耕太郎)

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