artscapeレビュー

鶴巻育子「芝生のイルカ」

2022年12月15日号

会期:2022/12/01~2022/12/25

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

鶴巻育子は、ふとした機会から「視覚障害者の外出をサポートする同行援護従業者」として活動するようになった。目を使って仕事をする写真家である自分とは対照的な存在である彼らが、どんなふうに世界と接しているのかを知りたくなったためだという。鶴巻は視覚障害者たちと一緒にいて、彼らが発する言葉に強く惹かれるようになる。「ガラスは透明ではない」「月は穴ぼこ」「体温で感情を感じる」「境界線が変わる感じ」──今回のコミュニケーションギャラリーふげん社での個展の出品作では、それらの言葉を手がかりにしてインスピレーションの幅を広げ、「イメージを拾う」ことを試みていた。

ややトリッキーな動機の作品だが、結果的にはとてもうまくいっていた。視覚障害者という、まったく異なる状況を生きる者たちと自分の感覚とのズレを、むしろ積極的に活用することで、思いがけないイメージを収集することが可能になったからだ。それは鶴巻自身の予想をはるかに超えた世界の断片だったのではないだろうか。それらを注意深く選別し、大小のフレームにおさめて、撒き散らすように壁に掲げたインスタレーションも、とてもうまくいっていた。

鶴巻は普段は自らが主宰する東京 目黒のJam Photo Galleryで、日常のスナップ写真を中心とした作品を発表している。今回の展示は、それとはまったく違った水脈によるもので、自らの作品世界をより広げていこうという意欲を強く感じた。ただ、写真の間に言葉をバラバラに挟み込む展示構成だと、特定の言葉と写真との関係のあり方がうまく伝わってこない。その対応関係を、もう少ししっかりと明示すべきだったのではないだろうか。


公式サイト:https://fugensha.jp/events/221201tsurumaki/

2022/12/04(日)(飯沢耕太郎)

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