artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

龍野アートプロジェクト2011「刻の記憶」

会期:2011/11/18~2011/11/26

うすくち龍野醤油資料館周辺の醤油蔵、龍野城、聚遠亭(藩主の上屋敷)[兵庫県]

薄口醤油や素麺の産地として知られる兵庫県たつの市。同市はまた、古い歴史を持つ城下町であり、三木露風をはじめ文学者を多数輩出した土地としても知られている。その城下町エリアの3カ所を会場に行なわれたのが本展である。出品作家は、尹熙倉、東影智裕、小谷真輔、佐藤文香、芝田知佳、井上いくみ他ルーアン美術学校の卒業生たち。また、京都市立芸術大学准教授の加須屋明子が芸術監督を務めた。本展で特に印象深かったのは醤油蔵の展示で、作品の質はもちろんだが、空間自体のポテンシャルが大変高く、その相乗効果で非常に素晴らしい展示が見られた。この醤油蔵は、是非今後も有効活用してほしい。たつの市の城下町は小さいが、古い街並みが比較的良好に保存されており、観光地としても魅力的だ。このプロジェクトを単発で終わらせるのではなく、地元の文化・観光資産として長期的に育ててほしいと思う。

2011/11/18(金)(小吹隆文)

村上三郎─70年代を中心に─

会期:2011/11/12~2011/12/17

ART COURT Gallery[大阪府]

村上三郎といえば、「紙破り」など具体美術協会時代の仕事に注目が集まりがちだが、本展では1970年代の活動をフォローしている。彼の1970年代の作品はコンセプチュアルで、写真や資料、パーツ以外はほとんど残っていない。それらを丹念に拾い上げ、一望できるようにまとめ上げたのだから意義深い企画展と言えよう。また、アトリエに残されていた1950~60年代の抽象表現主義絵画も、修復を施して出品されており、その意義も強調しておきたい。このような仕事は、本来美術館が行なうべきものだ。それが思うに任せない現状を憂うばかりである。いっそのこと、本展自体を美術館に売り込んでみてはいかがだろうか。

2011/11/16(水)(小吹隆文)

陶画塾 展

会期:2011/11/15~2011/11/20

ギャラリーマロニエ[京都府]

陶画塾という画塾があるのかと思いきや、それは若手陶芸家達が絵付けを勉強するために開いている勉強会のことだった。本展では同塾で制作された絵が展示されているのだが、これがめっぽう面白かった。有名な絵付けの模写や、実際の絵付けを前提とした下絵ばかりでなく、独立した絵画作品も多数あり、極めてバラエティに富む絵画展となっているのだ。作品はどれも墨絵で、書き初めで用いられる縦長の半紙に描かれている。それらが展示室の壁面を2段重ねで埋め尽くしているさまは、まさに圧巻。まるで新ジャンル誕生の瞬間に立ち会っているかのようだった。

2011/11/15(火)(小吹隆文)

大島成己 展「緑の触覚─haptic green」

会期:2011/11/05~2011/12/03

ギャラリーノマル[大阪府]

DMを見た第一印象は、雑木林を撮ったありふれた写真。しかし、大島がそんなストレートフォトを撮るわけがない。会場で実物に接して驚いた。ひとつの風景のなかに複数のパースペクティブが混在する、不思議な質感を持った情景が撮られているのだ。作家本人にうかがったところ、本作は一定の距離からアップで撮った画像をコンピューターで何百枚も繋ぎ合わせたもので、一種触覚的な視覚体験を誘発させる仕組みを持っているのだという。これまでも視覚を巡るさまざまな考察を行なってきた大島らしい、曲者の作品を楽しんだ。

2011/11/12(土)(小吹隆文)

mariane個展「人肌/body warmth」

会期:2011/11/12~2011/12/17

studio J[大阪府]

和紙にアクリルガッシュで生き物のような形態を描くmariane。描かれた形態は海の軟体生物や菌類を思わせるものがあり、一種毒々しい色合いもあって、爛熟した色香を漂わせている。新作は画面構成に大きな変化があり、タッチも一層細密になっているのが特徴だ。よりスケールの大きな世界を表現できそうなので、今後は襖絵のような大作に挑んでもよいかもしれない。

2011/11/12(土)(小吹隆文)