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小吹隆文のレビュー/プレビュー

松井紫朗 亀がアキレスに言ったこと──新しい世界の測定法

会期:2011/06/11~2011/08/28

豊田市美術館[愛知県]

点数こそ多くはないが、1980年代から現在までの作品がバランスよくピックアップされており、新作の巨大なバルーン作品のインパクトもあって、見応えのある展覧会に仕上がっていた。広大な展示室1に設営されたそのバルーン作品は、観客が中に入ることができ、内外の気圧差だけで膨らんでいるというから驚きだ。また、昨年の「あいちトリエンナーレ」出品作を想起させるフォルムにも懐かしさを覚えた。松井の作品には、彫刻の大前提である量塊性を疑ったり、表と裏や内と外が視点ごとに入れ替わるチューブ状の構造という特徴があるが、多様な作品が並ぶことで彼の仕事の一貫性が明示されたのも有意義であった。

2011/08/15(月)(小吹隆文)

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太田三郎「出石町の家」─戦後66年岡山空襲に寄せて─

会期:2011/08/01~2011/08/15

アートスペース油亀[岡山県]

第2次大戦をテーマにした「POST WAR」シリーズの新作展。テーマは岡山市が昭和20年6月29日に受けた大空襲で、今も市内に残る戦災跡を取材した切手状の作品をメインに、染色や人形を用いた作品、ダルマとこけしによるインスタレーション、体験者の証言映像など、バラエティ豊かな展示が見られた。会場の窓ガラスに防災用のテープ補強を施したり、アンティークの扇風機や家具を用いる演出も効果的で、ホワイトキューブの画廊で見るよりもリアリティがあった。会場は築約130年の古民家をそのままリユースした空間であり、戦災をくぐり抜けてきた建物という事実も説得力の一助となった。

2011/08/13(土)(小吹隆文)

小谷元彦 展 幽体の知覚

会期:2011/07/22~2011/09/04

高松市美術館[香川県]

昨年に東京の森美術館で行なわれた個展を大幅に再構成した本展。東京展を見ていないのでその違いは知る由もないが、小谷の現時点での全貌を知るうえで、過不足のない内容に仕上がっていた。作品はほぼ年代順に並んでいたが、初期の作品はグロテスク趣味や様式性が強く、年代を経るにつれて超越性を喚起させる方向にシフトしていると感じた。年代に関わらず一貫しているのは造形の完成度に対する情熱で、細部まで一切の妥協を排したその制作態度には敬服せざるをえない。個人的には、展覧会のクライマックスを飾った「Hollow」シリーズと「インフェルノ」がひときわ印象深く、特に、滝の映像が360度周囲を包む「インフェルノ」をラストに配したのは大正解だったと思う。

2011/08/13(土)(小吹隆文)

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リメイク・ザ・ウォール 西垣肇也樹 展

会期:2011/08/09~2011/08/14

同時代ギャラリー[京都府]

自作パネル18枚からなる、全長約33メートルの超大作絵画が展示された。画廊内に新たな壁面が出現したかのような展示プランも効果的で、久々に圧倒的迫力を持つ絵画作品に出会った気分だ。作品はオールオーバーの抽象画だが、それらが18点並ぶことにより、ある種の物語的起伏が感じられる。作者の西垣はまだ美大の大学院に在籍する新人だが、こんなインパクトたっぷりの個展を見せつけられると、今後の活躍を期待せずにはいられない。

2011/08/09(火)(小吹隆文)

土田ヒロミ写真展「ヒロシマ・コレクション」「俗神」

会期:2011/08/02~2011/08/14

LADS GALLERY[大阪府]

土田ヒロミの代表作である2つのシリーズが同時に展示された。冷厳な眼差しに徹した「ヒロシマ・コレクション」も見応えがあったが、それ以上に惹かれたのは「俗神」だ。1960年代後半から70年代前半にかけて日本各地を取材し、風物や祭礼、芸能、世俗の人々などを捉えた作品からは、まさに聖と俗が渾然一体となった日本文化の深層が感じられる。そういえば、国立国際美術館で開催中の「森山大道 展」でも、1960年代末の作品が同種の匂いを放っていた。やはり大阪万博(1970年)前後のこの時期が、日本の文化史における分水嶺だったのかもしれない。

2011/08/06(土)(小吹隆文)