artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

椿昇 2004-2009: GOLD/WHITE/BLACK

会期:2009/02/17~2009/03/29

京都国立近代美術館[京都府]

2003年の「国連少年」(水戸芸術館)以来となる椿昇の大規模個展は、いかにも彼らしい挑発に満ちた内容となった。2004年以降、椿が目の当たりにしたのは、あらゆる天然資源を掘り尽くす米国・ユタの鉱山及び鉱山労働者が体現するグローバリズム経済の歪みや、イスラエルとパレスチナの間で永遠に続くかのごとき宗教的・政治的対立など。そうした体験を基に本展では、全長約30メートル(実物大)のミサイルのオブジェや、十二使徒とだぶらせた鉱山労働者の肖像、パレスチナの壁を再利用する国際宇宙ステーションのプラン、スターバックスのロゴマークと宗教的モチーフとバングラデシュの犠牲祭の映像が融合した祭壇のごときインスタレーション等が設営され、まるで斎場のような空間が出現した。また、彼の一貫したテーマである「ラディカル・ダイアローグ(根源的対話)」の実践として、さまざまなジャンルで活躍するゲストを招いたトークイベントが毎週開催される。椿いわく「利潤と簒奪を礼賛する高度資本主義社会が限界を迎えた今こそ、シェアと共存を旨とする新たな社会システムを構築するチャンスであり、そのためには各人が徹底的に思考する必要がある。本展はそのための装置である」(筆者要約)。しかし、メッセージを解説する文字資料は敢えて省略されており、観客は作品のみを通してアーティストの意図を読み取るしかない。この不親切な設定をどう捉えるかで、本展への評価は二分されるだろう。事実、記者発表時にも「言葉」の解釈をめぐって椿と某新聞記者の間で激しいやり取りがなされた。自分自身はもちろん、観客、美術館、メディアに対しても安易な対応を許さない厳しい態度は、知的武闘派の椿らしい愛のムチといえる。しかし、視覚体験のみで本展の意図を正しく理解するのは非常に困難だし、椿の挑発にメディアがどこまで応えるのかも心もとない。やはり何らかの形で言説を前面に出す工夫が必要ではあるまいか。

2009/02/16(月)(小吹隆文)

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京都オープンスタジオ 4つのアトリエ

会期:2009/02/13~2009/02/15

Antenna AAS/桂スタジオ/陀里/ウズイチスタジオ[京都府]

京都市立芸術大学の作品展(=卒業制作展を兼ねる)に会期を合わせて、同校出身者による共同アトリエ4つがオープンスタジオを実施。20代後半から30代の作家22組が参加した。画廊ほど自由な展示はできないが、作業現場での展示とあって、より生々しく作品に向き合えるのがオープンスタジオの魅力だ。リラックスした雰囲気の中で作家たちとの歓談も弾む。京都市内には美大が多いので、彼らのような共同アトリエはほかにもあるはず。同様の動きが他にも広まれば、卒展シーズンの新たな名物になるかもしれない。

2009/02/15(日)(小吹隆文)

吉原治良賞記念アートプロジェクト contact Gonzo:「the modern house──或は灰色の風を無言で歩む幾人か」project MINIMA MORALIA section 1/3

会期:2009/02/11~2009/02/20

大阪府立現代美術センター[大阪府]

どつき合いの喧嘩がそのままダンスになるcontact Gonzoのパフォーマンス。3年前に彼らを知った時の驚きは今も鮮明だが、同時に一発屋の懸念も抱いていた。久々に彼らのパフォーマンスと活動記録を見て、その表現には大きな可能性があることを改めて実感した次第。彼らの今回の活動は、刷新され約3年もの月日をかけて展開された「吉原治良賞記念アートプロジェクト」によるもの。同賞の主旨はさておき、3年間にわたって観客の注目を維持し続けるのは、やはり不可能と言わざるを得ない。私も途中で脱落したため、プロジェクトの全体像は把握できていない。この点は次回以降見直しが必要だと感じた。

2009/02/14(土)(小吹隆文)

FIX

会期:2009/02/09~2009/02/15

元立誠小学校[京都府]

元小学校の校舎2フロアを会場に、今村遼佑、SHINCHIKA、鈴木宏樹、谷澤紗和子、羽部ちひろ、桝本佳子、本武史、吉岡千尋の8作家がグループ展を開催。面白いのは、作品の配置が2つのフロアでコピーされたように同じだったこと。各作家が同タイプの作品2点を持ち寄り、上下階の同じ位置に作品を設置していたのだ。何も知らず次の階に行くとデジャヴに見舞われ、幾つもの「?」がやがて「!」へと変わる。エコー効果で作品への印象をより強めようということか。校舎を会場に選んだのは、同じ部屋(=教室)が並ぶ構造が展覧会の意図と合致しているからだろう。とにかく、珍しい試みだったことは確かだ。

2009/02/11(水)(小吹隆文)

人生劇場 鬼海弘雄 写真展

会期:2009/02/05~2009/03/01

GALLERY RAKU[京都府]

鬼海が1973年以来撮り続けているポートレイト写真のシリーズから、約50点を紹介。すべて東京・浅草寺の壁の前で撮影されており、被写体は市井の人々ばかりだ。とはいえ、誰もがあまりにも個性豊かで、臭ってきそうな濃いオーラを放っている。なかにはとても平成の世とは思えない人も。浅草の土地柄が彼らを呼び寄せるのだろうか。そういえば大阪の新世界にも彼らと似た雰囲気の人々がいる。一貫して真正面から撮影し、肖像画を思わせる高潔な作風にすることで、かえって素の人間性を露わにしているのが見事だ。

写真:《革の背広を着た男 1985》

2009/02/11(水)(小吹隆文)