artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
畠山浩史 写真展『きみへつながるもの語り』
会期:2009/06/01~2009/06/13
Gallery Vie[兵庫県]
神戸から故郷の熊本へと移住した畠山が、近況を伝える写真展を開催。のんびりした空気と濃い緑に包まれた故郷で、地域の人々と新たな関係を構築しつつある彼の様子が生き生きと伝わってきた。親から自分へ、そしてやがて生まれてくる彼の子どもへと受け継がれて行くであろう物語を、慈しみに満ちた眼差しで捉えているのだ。部外者であるわれわれにも、その息づかいがリアルに伝わってきて、ほっこりとした柔らかい空気に包まれる。作品に充満する“愛しさ”が畠山作品の何よりの魅力だ。
2009/06/07(日)(小吹隆文)
別府現代芸術フェスティバル2009 混浴温泉世界
会期:2009/04/11~2009/06/14
別府市内各所[大分県]
ジャンル:美術、パフォーマンス、その他
会期終了目前に訪れ、1日だけ流すように会場巡りした私に、このアートフェス全体を語る資格はない。が、遠方から訪れた身で実感したのは、アートだけを目的に別府を訪れるのはもったいないということ。温泉やグルメ、観光と組み合わせ、連泊して別府の街を味わい尽くすことで、初めて語れる催しなのだろう(主催者の目論みもそこだろうし)。作品で印象深かったのは、レトロな市街地の空気と絶妙にマッチしていたチャン・ヨンヘ重工業の映像作品と、犬、鶏、鼠、蛇、サソリなどをひとつの空間に放ち、阿鼻叫喚の戦闘シーンを記録したアデル・アブデスメッドの映像作品。特に後者は動物愛護団体が見たら卒倒ものだが、「混浴温泉世界」の理念と現在の国際情勢を象徴的に表わしており、短時間の作品ながら大変インパクトがあった。
2009/06/06(土)(小吹隆文)
関口正浩「うまく見れない」
会期:2009/05/30~2009/07/11
児玉画廊[京都府]
一見、色面を塗り重ねた抽象絵画。よく見ると表面がぬるっとした感触で、あちこちに皺がある。ビニール系のシートに絵具を塗ってコラージュしているのかもしれない。そう思ってギャラリーのスタッフに尋ねると、思いがけない答えが返ってきた。自作の樹脂製の板の上に油絵具を流し、生乾きの状態で引き上げ湯葉よろしく剥がしてキャンバスに貼り付けているのだ。絵具の生々しい質感が印象的で、見る者の生理に訴えてくるような存在感がある。この特徴をより鮮明にして行けば、独自の存在になれるかもしれない。
2009/06/02(火)(小吹隆文)
小沢さかえ個展「珠玉のポエジー 」
会期:2009/05/30~2009/07/05
京都在住ながら東京での発表が続いていた小沢。ようやくその世界を直に見ることができた。現実と非現実、夢や妄想、具象と抽象などが混在する作品は、彼女の頭の中のイメージを素直にトレースしたものなのか? 胸の内にある大切な何かを見つけたような、ほのかに温かい気持ちになるが、同時に絶望的な孤独を感じたりもする。技量とオリジナリティを兼ね備えた画家であることがわかったので、今後も作品を見続けたい。なお、彼女は来年1月に国立国際美術館で開催される
「日本の現代絵画」(仮称)への参加が決定している。
2009/05/31(日)(小吹隆文)
聴竹居との出会い 栗本夏樹 漆芸展
会期:2009/05/22~2009/05/31
聴竹居[京都府]
聴竹居とは、建築家の藤井厚二が昭和3(1928)年に京都府大山崎町に建てた自宅兼実験住宅。西洋のモダニズムと日本の伝統が絶妙に調和したデザインで評価が高く、近年は通風と採光に対する工夫からエコ建築の先駆としても注目されている。この建築遺産を舞台に、漆芸家の栗本夏樹が個展(というより建築とのコラボ展)を開催した。作品は、客室、居間、読書室、寝室、縁側等に配置されたが、出色だったのは縁側の隅に置かれた2点の作品。竹の根を素材にしたオブジェで、まるで最初からそこに置かれていたかのように空間と馴染んでいた。作家が声高に個性を主張するのではなく、空間に寄り添うことで、むしろ互いの魅力が際立ったのだ。そこには理想的なコラボレーションの姿が凛として感じられた。
2009/05/27(水)(小吹隆文)