artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

荒木由香里 展 Waltz

会期:2009/05/13~2009/06/13

studio J[大阪府]

ハイヒール、額縁、カメラなどに造花やガラス片を貼り付けたオブジェ、鳥の羽で覆われたメトロノーム、頭部が花に置き換えられた人形などのオブジェを出品。シュルレアリスムの影響というよりも、携帯電話やネイルに顕著なデコ文化に近い感じで、最初こそ不気味だったが、見慣れるうちに可愛らしいと感じるようになった。細部まで手抜きのない仕上げの美しさにも感心した。

2009/05/14(木)(小吹隆文)

佐藤貢 展

会期:2009/05/09~2009/05/31

PANTALOON[大阪府]

和歌山の海岸に流れ着いた廃品で詩的なオブジェを作り出す佐藤貢。作品の方向性はこれまでと変わらないが、本展では点数を少なめにして作品単体よりも空間全体をどう見せるかに意識が向いていた。漁網を多用したのも今回の特徴で、吹き抜け空間に吊り下げるなどして、複数の作品をつなぐ役割を果たしていた。

2009/05/09(土)(小吹隆文)

よりみち・プロジェクト いつものドアをあける

会期:2009/05/09~2009/05/24

岐阜駅周辺から玉宮町界隈に点在する5ヵ所[岐阜県]

街中で美術展を同時多発的に行なうアートイベントは今や珍しくないが、このプロジェクトの特徴はコンパクトさ。各会場の距離が徒歩10分以内なので、ゆっくり歩いても2時間弱で回り切れる。背伸びせずDIY感覚で各会場(画廊、雑貨店、神社、カフェ等)と街の魅力をアピールしており、その力みの無さに好感を覚えた。なかでも、藤本由紀夫がディレクションしたpand(雑貨店)での展示、GALL ERY CAPTIONでの画廊とpandと河田政樹のコラボ、後藤譲が八幡神社で行なったさりげないインスタレーションは秀逸だった。

2009/05/09(土)(小吹隆文)

松尾直樹 展─Spacing 3(登場と退場)─

会期:2009/05/05~2009/05/16

ギャラリー16[京都府]

ギャラリー16が進めている「シリーズ80年代考」の4回目。松尾直樹が1983年から85年に発表した4作品が展示された。いずれも一辺が2メートルを超える大作で、激しいストロークが特徴。ニューペインティングのブームが頂点を迎えた当時の作品であることが良くわかる。保存状態が良かったのか、四半世紀前の作品とは思えぬほど絵具の発色がフレッシュだったのも印象深かった。当時の関西では「関西ニューウエーブ」と呼ばれるほど絵画シーンが盛り上がりを見せたが、それをどう評価し位置づけるべきかという議論がきちんと行なわれていない。当時活躍した批評家や学芸員が現役のうちに美術館で企画展を行ない、再評価に着手してほしい。

2009/05/05(火)(小吹隆文)

カン・アイラン 鏡─ユートピアとヘテロトピアの間

会期:2009/05/01~2009/05/31

eN arts[京都府]

カン・アイランの作品といえば、書籍の形をした発光するオブジェ。半透明のプラスティック製ボディの中にLEDが仕込まれたものだが、技術の発展につれて作品の説得力が増していることを本展で実感した。なかには文章が表示される作品もあり、一瞬ジェニー・ホルツァーを連想したのだが、カンの場合は書籍の文章をそのまま表示しているのだった。これは、男尊女卑の気風が今なお残る韓国にあって、知性を得る手段であり、自身の内面を鍛えて自立するためのツールだった書籍に対するオマージュなのだとか。ただ、技術面の進化により発色が著しく向上しており、テキスト以上に色彩が主張しているようにも感じられた。かつて作曲家のスクリヤビンが音楽と色彩の融合を目指したように、彼女の作品も色彩による神秘主義的な表現が見込めるのかもしれない(本人がそれを望むかは不明だが)。

2009/05/02(土)(小吹隆文)