artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
ラグジュアリー:ファッションの欲望
会期:2009/04/11~2009/05/24
京都国立近代美術館[京都府]
「ラグジュアリー」を切り口に服飾史をたどるとともに、ラグジュアリー観の変遷をも考察する。端的に言うと、物質的ラグジュアリーから精神的ラグジュアリーへと価値観が抽象化していく過程を見せていた。展覧会の後半は川久保玲とメゾン・マルタン・マルジェラに割かれていたが、両者が服飾史において特別な地位を占めるのか、それともキュレーターの強い思い入れによるものかは、ファッションに疎い私には分からない。折からの不況時にラグジュアリー(贅沢)と銘打つのはいかにもKYだが、企画自体は約3年前から進められてきたものであり、その点は不運であった。「むしろこういう時期だからこそ前向きに」というキュレーターの言葉(記者発表時)は、後付けの理屈だが正しいと思う。
2009/04/10(金)(小吹隆文)
吉田重信「ヒカリノミチ」
会期:2009/04/07~2009/04/19
立体ギャラリー射手座[京都府]
揺らめく極彩色と画面中央部を踊るように動き回る光が印象的な吉田重信の映像作品。幽玄かつ神秘的で、ある種のトリップ感さえ体感させるその世界に、時間を忘れて見入ってしまった。てっきりコンピューターで加工した映像だと思ったが、実はビデオカメラのレンズの前にプリズムを設置して、分光された光を撮っているのだとか。本作は海面を反射する太陽光を撮ったもので、一切加工はされていない。シンプルだけど素晴らしいアイデアだ。
2009/04/07(火)(小吹隆文)
カズ・スズキ展
会期:2009/04/04~2009/04/18
ギャラリーギャラリー[京都府]
天井から吊るされた糸の塊のような造形が特徴のカズ・スズキの作品。毛糸玉や糸の塊を芯に縫い付けているのだろうと思ったら、すべて機織りだと知り、驚かされた。緯糸を左右に通すのではなく、一方向に通した後、布の外側をぐるっと回ってもう一度同じ方向から緯糸を通すことで、このような造形が生まれるのだとか。ビビッドな色使いとオリジナルな造形を前に「こんな手もあったのか!」と感心することしきり。染織以外の立体作家にとっても、参考になるのでは。
2009/04/07(火)(小吹隆文)
梅田哲也「ぬ」
会期:2009/03/28~2009/04/12
AD&A Gallery[大阪府]
画廊の3室でインスタレーション作品が発表された。作品は日用品を組み合わせて意外な効果を生みだしたり、家電製品を改造して動きのあるオブジェをつくるというもの。それぞれのオブジェは一見無関係なようでいながら、実はお互い緩やかにつながっていて影響を与え合っている。作品を見るうち「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざが思い出された。思いのほか抒情性が感じられるのも特徴と言える。
2009/03/30(月)(小吹隆文)
板倉広美 展
会期:2009/03/30~2009/04/05
信濃橋画廊[大阪府]
モーリス・ルイスが墨絵を描いたらこうなるのかしら、と思わせる絵画作品。麻と化学繊維で粗めに織られた布に水を含ませ、墨を置いた後、さらに水を流して画面を作っている。作者にルイスからの影響を訊ねると、ルイスどころか絵の勉強すら独学と聞いて驚かされた。知らない者の強みといえばそれまでだが、東洋的な美意識と西洋のスタイルが絶妙のバランスで融合した作品に、独特の深い余韻があるのは確かだ。
2009/03/30(月)(小吹隆文)