artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
山本太郎 展~ニッポン画物見遊山~
会期:2009/05/22~2009/06/14
美術館「えき」KYOTO[京都府]
日本画ならぬ“ニッポン画”を提唱し、伝統的画題と現代の風俗がハイブリッドした独自の絵画世界を創造する山本太郎が、30代にして活動10周年を記念した回顧展を開催。といっても大上段に構えたものではなく、「歌手がベストアルバムを出すような感覚」(本人談)らしい。とはいえ、過去の代表作が一堂に会した現場を見て、思う所が幾つかあった。まず画題の変化。パロディ色が前面に出た初期作品に対し、近年の作品では謡曲に題材を取るなど、作風に渋みが増している。次に技量。私が言うのも僭越だが、新旧作品を見比べると明らかに腕前が向上している。そしてホスピタリティ。残念ながら私は見られなかったが、会期中に数々のイベントが催され、何度も自身の言葉で作品が説明された。山本は以前から、芸術家ではなく“絵師”として生きることを意識的に選択した旨語っていたが、本展により初めてその言葉をリアルに受け止められた。百貨店の美術館という微妙なロケーションも、彼にとっては格好の場と言うべきである。
2009/05/26(火)(小吹隆文)
After School:放課後の展覧会
会期:2009/05/23~2009/05/31
元立誠小学校[京都府]
1+1が2でなく5や10になるのがグループ展の魅力だとすれば、本展はまさにそれを地で行く展覧会だった。言いだしっぺの木内貴志以下11人の美術家が、元小学校の教室や講堂などをひとり一部屋ずつ使ってハイパフォーマンスを披露。なかでも碓井ゆい、木藤純子、宮永甲太郎の作品は非常に見応えがあったことを強調しておきたい。キュレーター主導の企画展ではなく、意識の高いアーティストが集えばそれだけで質の高い展覧会ができるはず。本展にはそんな隠れテーマもあったのだが、彼らは見事にそれを実証した。
2009/05/23(土)(小吹隆文)
安藤忠雄建築展2009 対決。水の都 大阪vsベニス 水がつなぐ建築と街・全プロジェクト
会期:2009/05/23~2009/07/12
サントリーミュージアム[天保山][大阪府]
「水」との親和性を基軸に、安東忠雄が現在進めているプランや過去の仕事を俯瞰した。圧巻は大阪・中之島のプロジェクトを紹介する全長20メートルを超すジオラマ。その精巧さはもとより、安藤のプランが(実現しなかった過去の提案も含めて)ふんだんに盛り込まれており、さながら一建築家の理想を具現化したかのようだ。JR大阪駅北ヤードの再開発案も、誰に頼まれるでもなく自主的に提案したもの。この辺りのバイタリティはさすがで、安藤忠雄いまだ衰えずの感を新たにした。記者発表では大阪の経済・文化・行政への不満、憂いを盛んに述べていたが、その言葉にさえ地元への深い愛着が感じられた。
2009/05/22(金)(小吹隆文)
田村実環 展
会期:2009/05/19~2009/05/31
ギャラリーマロニエ[京都府]
プリント柄の布地をモチーフにして、千変万化する光の表情を描いてきた田村だが、布地の存在感は明らかに縮小しており、もはや絵のきっかけに過ぎない。今や布地ではなく半透明のレイヤーといった感じだ。一方、水槽の水草を描いたり、蝶のシルエットが浮き出た新作も発表され、新展開の萌芽が感じられた。田村の作品は新たな段階に入りつつある。
2009/05/19(火)(小吹隆文)
日野田崇 個展「変形アレゴリー」
会期:2009/05/16~2009/06/13
イムラアートギャラリー[京都府]
漫画の語法を大胆に導入した陶オブジェで知られる日野田。今回は、邪鬼らしきものを踏んづけてポージングする2体と、葱坊主のような1体、内と外の区別がない抽象的な形態のオブジェ2点、土下座のようなポーズで壁面に貼りつけられた1体などが出品された。オブジェの表面はグラフィティー調の絵で埋め尽くされ、刺青のよう。会場の床と壁面には、カッティングシートによる漫画のコマや記号を思わせる模様が貼られている。陶芸が持つ質感やリアリティを残しつつも、どんどん立体と平面が融合した世界へ進みつつある日野田の現状が良くわかった。
2009/05/16(土)(小吹隆文)