artscapeレビュー
artscape編集部のレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス | 2023年11月1日号[テーマ:「保存・修復」の視点から、美術館スタッフのニッチな奮闘を覗き見る5冊]
美術館の社会的役割のうち普段注目される機会の少ない、所蔵作品や文化財の「保存」。ダリをはじめ同館所蔵作品の保存・修復のプロセスを見せていく諸橋近代美術館「ミュージアム・ワークス─みんなの知らない美術館」(2023年11月12日まで)の開催に際し、普段見えにくい美術館の仕事の現場のニッチな醍醐味に出会える本たちをご紹介。
今月のテーマ:
「保存・修復」の視点から、美術館スタッフのニッチな奮闘を覗き見る5冊
1冊目:文化財と標本の劣化図鑑
Point
こんな図鑑があったとは。保存方法や環境に細心の注意を払っていても、完全には止めることは難しい「劣化」。京都大学総合博物館の所蔵品から劣化の進んだものの特徴を分類し、その状態をじっくり観察できるだけでなく、プロはそこにどう対応し食い止めるのか、その悪戦苦闘も含め知ることができるユニークな一冊です。
2冊目:国宝 普賢菩薩像 令和の大修理全記録
Point
東京国立博物館の所蔵品を代表する国宝「普賢菩薩像」が、2019年からつい最近まで3年間に及ぶ修復を施されていたことはあまり知られていません。最新技術を用いた作業前の調査と分析や、修理方針の変更、そしてまさかのコロナ禍の到来──1作品だけにフォーカスし、蟻の目で見届けるその修復過程はまさにドラマです。
3冊目:学芸員の観察日記 ミュージアムのうらがわ
Point
ある博物館での学芸員やスタッフたちの日常を4コマで描くお仕事マンガ。保存・修復に焦点を当てた第4章「まもって、のこす」をはじめ、ほのぼのとしたタッチとは裏腹に、著者の実際の体験が凝縮されているであろう「職業病」的な描写の連続に心くすぐられます。読後に美術館を訪れる際には新たな視点が加わっているはず。
4冊目:あっけなく明快な絵画と彫刻、続いているわからない絵画と彫刻
Point
現代の作品も、歴史的作品と同じくもちろん美術館の保存・修復の対象。現代を生きる作家たちは、自作の劣化や損傷に対してリアルタイムでどう感じ、何をするのか。2019年の東日本台風で被災した近藤恵介と冨井大裕の共作シリーズの修復と、それを踏まえた新たな制作、再展示までの過程と心境を綴ったドキュメント。
5冊目:カビの取扱説明書
Point
文化財のみならず日常の至るところに偏在し、気を抜くと発生しているカビ。食の世界ではポジティブな存在にも反転したりと、私たちは彼らと共生していると言っても過言ではないものの、その具体的な習性や種類まで考える機会は少ないはず。その文化的背景から対応策まで、カビたちに少しだけ親近感が湧いてしまう一冊。
ミュージアム・ワークス─みんなの知らない美術館
会期:2023年7月15日(土)~11月12日(日)
会場:諸橋近代美術館(福島県耶麻郡北塩原村大字桧原字剣ヶ峯1093-23)
公式サイト:https://dali.jp/exhibition
2023/11/01(水)(artscape編集部)
カタログ&ブックス | 2023年10月15日号[近刊編]
展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
◆
中園孔二 ソウルメイト
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催された企画展「中園孔二 ソウルメイト」の記録を収めた日英バイリンガル仕様のカタログ。作家が最期の時を過ごした香川県において約200点の作品を展示した過去最大規模の個展をふりかえる。
未来社会と「意味」の境界 記号創発システム論/ネオ・サイバネティクス/プラグマティズム
AI・ロボットと人間が共存する未来社会における「意味」の意味とは何か。大規模言語モデルを超えて新たな意味の学理を構想する。
はじまりはクロマニョン 1
舞台はおよそ2万年前、描いた絵を恋人に見せたい──その純粋な心から、クロマニヨン人の少女レイナは、画家を目指すのだが……。
絵画の起源とされる「洞くつ」壁画を題材に、クロマニヨンの主人公レイナが様々な困難にぶつかりながらも、画家として成長していく愛と成長の物語。記念すべき第1巻です。
メディア論の冒険者たち
メディアについての議論百出諸説紛紛。ベンヤミン、マクルーハン、ボードリヤール、エーコ、マクロビー、キットラー、マノヴィッチ、ラマール、ホイ……。彼ら/彼女らがメディアに関して紡いだ思考の核心を浮かび上がらせる。第一線で活躍するメディア研究者が執筆するメディア論を知り学ぶための最強テキスト。
「第11回ヒロシマ賞受賞記念 アルフレド・ジャー展」カタログ
第11回ヒロシマ賞の受賞者アルフレド・ジャーの受賞記念展(広島市現代美術館)を記録したカタログ。作家にとって日本国内で初の本格的な個展となる本展は、その代表作から新作までを総覧するものとなった。
新版 卒業設計コンセプトメイキング リサーチ・デザイン・プレゼンテーション
卒業設計は、学生自らがテーマを探し出し、論理的思考プロセスを積み重ね、オリジナリティある提案をすることが必要となる。実際の学生の作品をもとにした対話を軸に解説。新版では、課題設定、フィールドワーク/リサーチ、建築的・空間的なアイデア、プレゼンの4つに再編成。より本質的なコアな部分に絞り込む内容とした。
アートベース・リサーチの可能性 制作・研究・教育をつなぐ
アートをベースにするとはいかなることか。最新の研究動向をとらえ、美術研究者・芸術家がアートベース・リサーチを多角的に分析。
建築思想図鑑
建築思想を理解すれば、つくる建築、語る言葉の説得力が増す。いま知っておくべき建築思想63項目の基本を、本質を押さえたイラストと、気鋭の執筆陣による解説で理解できる入門書。難しそうな言葉でも、まずはイラストを眺めて一歩を踏み出し、建築の奥深さに触れてみよう!時代の流れや項目同士の結びつきも見えてくる。
K-PUNK 夢想のメソッド──本・映画・ドラマ
ポスト左翼がブレグジットに直面した際に、旧来の左翼の惰性を非難し「右傾化」することが「大人」だとされたときも、マーク・フィッシャーはその惰性をどうしたら脱却できるのかと向き合い、安易な「右傾化」に同調することもなかった。
アカデミックになることなく、つねにポピュラー・ミュージックや映画、大衆文学を出発点としながら大衆迎合主義に陥ることも回避しつづけてきた知性の、彼の人気を決定づけた原点にしてすべて──それが彼の伝説のブログ『K-PUNK』だった。
坂本龍一のメディア・パフォーマンス
坂本龍一が「パフォーマンス元年」と称する「1984年」に注目し、生涯にわたって「メディア」を革新し続けた芸術家としての足跡をあらためて紐解く。
メディア戦略としての出版社「本本堂」、書籍というメディウムそのものによるパフォーマンス、世界最大級のテレビ「ジャンボトロン」を用いたメディア・イベント「TV WAR」……
多彩なプラットフォームで発表された作品群、その時々に遺された発言、そして、坂本龍一へのインタビューをもとに、「マス・メディアの中の芸術家像」を「メディア・パフォーマンス」というキー・タームから解き明かす。
戒厳令下の新宿 菊地成孔のコロナ日記 2020.6-2023.1
神田沙也加、瀬川昌久、上島竜兵各氏への追悼、村上春樹氏との邂逅、コロナ感染記……。音楽業界を壊滅的状況に陥れたコロナ禍、その抑鬱と祝祭の二年半の記録。
写真よさようなら 普及版
写真集史上の永遠の問題作にしてロングセラー。1972年に写真評論社より刊行された『写真よさようなら』を底本とし、2019年に月曜社より刊行された『森山大道写真集成(3) 写真よさようなら』における構成をもとに、装丁を新たにし判型をコンパクトにした普及版。中平卓馬との対談全文掲載。収録写真145点。「写真というものを、果ての果てまで連れて行って無化したかった」(森山大道)というそのラディカリズムは、刊行後50年以上を経てなお、その衝撃力を失っていない。
絵画の解放 カラーフィールド絵画と20世紀アメリカ文化
ヘレン・フランケンサーラー、モーリス・ルイス、ケネス・ノーランド、ジュールズ・オリツキー、フランク・ステラら、20世紀半ばのアメリカで隆盛したカラーフィールド絵画の代表的画家5名を取り上げ、同時代の展覧会評や批評、美術動向に関する言説を丹念に読み解き、20世紀アメリカ文化との豊かな関係性を明らかにする。
マルクス解体 プロメテウスの夢とその先
いまや多くの問題を引き起こしている資本主義への処方箋として、斎藤幸平はマルクスという古典からこれからの社会に必要な理論を提示してきた。本書は、マルクスの物質代謝論、エコロジー論から、プロメテウス主義の批判、未来の希望を託す脱成長コミュニズム論までを精緻に語るこれまでの研究の集大成であり、「自由」や「豊かさ」をめぐり21世紀の基盤となる新たな議論を提起する書である。
2023/10/13(金)(artscape編集部)
カタログ&ブックス | 2023年10月1日号[テーマ:荒川修作+マドリン・ギンズと「意味」の湖を楽しく泳げるようになる5冊]
「意味」とは何か。「荒川修作+マドリン・ギンズ《意味のメカニズム》全作品127点一挙公開 少し遠くへ行ってみよう」展(セゾン現代美術館にて2023年10月31日まで開催)で出会えるのは、我々が思考のなかで圧倒的な力をもつ言語や論理を超えて、意味の構築を探る実験場。“少し遠く”への補助線となる5冊を紹介します。
今月のテーマ:
荒川修作+マドリン・ギンズと「意味」の湖を楽しく泳げるようになる5冊
1冊目:22世紀の荒川修作+マドリン・ギンズ 天命反転する経験と身体
Point
死なないための方法を模索していた荒川の、没後10年に編まれた書籍。巨匠から若手まで幅広い書き手による論考・エッセイだけでなく、三鷹天命反転住宅でのワークショップのレポートや、そこに住む人々の素朴な所感に触れられる対話録まで、さまざまな形の荒川+ギンズとの接点や思い入れに触れられる賑やかな一冊。
2冊目:荒川修作の軌跡と奇跡
Point
荒川の生涯通じての作品や仕事、その変遷をある程度俯瞰して知りたい人におすすめ。生前の荒川+ギンズと深い親交のあったダダイスム・シュルレアリスム研究者の塚原史氏だからこその親密な視点が端々で垣間見えます。豊富な図版や対談を通して、荒川が一貫して希求していたものが読む前よりも立体的に見えてくるはず。
3冊目:絶滅へようこそ 「終わり」からはじめる哲学入門
Point
上で紹介した『22世紀の〜』にも寄稿する気鋭の哲学研究者・稲垣諭による論考集。人類はすでに絶滅に向かっているという仮定に立って考える、現代の私たちの「生」との距離。その思索の入り口として登場する、iPhoneなどのデバイスや、セルフレジ、K-POPのアイドル、村上春樹といったトピックの並びも絶妙。
4冊目:数学する身体
Point
学生時代に荒川に出会い衝撃を受け、数年後に三鷹の養老天命住宅に入居。晩年の荒川と時間を共にし、大きな影響を受けた1985年生まれの数学者・森田真生のデビュー作。本書で綴られる荒川とのエピソードの面白さはもちろんながら、身体的な思考の道具として数学を捉え直すきっかけとして、数学アレルギーの人こそぜひ。
5冊目:考える練習
Point
荒川にまつわるテキストをたびたび書いている小説家・保坂和志による語りの連なり。文学についてだけでなく社会問題、スポーツ、経済といった身近な話題を通じ、いかに論理的思考や「わかる」ことから遠くに行って思考できるかのを模索をテーマにしているという点でも《意味のメカニズム》との強い共振を感じさせます。
荒川修作+マドリン・ギンズ《意味のメカニズム》 全作品127点一挙公開 少し遠くへ行ってみよう
会期:2023年4月22日(土)~10月31日(火)※会期延長
会場:セゾン現代美術館(長野県北佐久郡軽井沢町長倉芹ケ沢2140)
公式サイト:https://smma.or.jp/exhibition/shusakuarakawamadelinegins
2023/10/01(日)(artscape編集部)
カタログ&ブックス | 2023年9月15日号[近刊編]
展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
◆
明日少女隊作品集「We can do it !」
「第4波フェミニズム」期のまっただなか、2015年に誕生した社会派アートグループ「明日少女隊」。これまでの作品や活動を網羅するだけでなく、ジェンダー学の基礎知識や時事問題をふんだんに盛り込み、「フェミニスト×アート」を実践的に学べる入門書決定版!
超老芸術
2023年10月3日~10月8日まで、アーツカウンシルしずおかで開催される展覧会の図録。
「超老芸術」とは著者の造語で、「老いを超える」という字のとおり、高齢になってから、または高齢になってもなお、精力的に表現活動をおこなっている人たちのことである。
本書は厳選した25名の超老芸術家の作品とインタビューをオールカラーで収録。長い人生の中で成功だけでなく身近な人の死、貧困、災害などさまざまな喪失体験も重ねながら、それらを表現へと昇華する超老芸術家たちはどういった人生を歩み、なぜその表現に至ったのか。
日本で唯一の「アウトサイダーキュレーター」である著者が、人生100年時代に長く楽しく生きるヒントを彼らのなかに探る。
なぜ美を気にかけるのか 感性的生活からの哲学入門
お気に入りの服を着る、おいしいものを食べる、好きな映画をみる──こうした日常のさまざまな美的選択は、人生にどのような意味をもたらすのか。人はなぜ美的な暮らしを送るのか。現代美学を代表する論者たちが3つの答えを提案する、哲学入門の授業向けに書かれた教科書。著者たちによる座談会とティーチングガイドつき。
小杉幸一(ggg Books 世界のグラフィックデザイン)
デザインでその企業や商品、サービスのキャラクターを明快にし、クリエイティブディレクション、アートディレクションを行う小杉幸一の活動の航跡をたどる作品集。ポスターやチラシ、装丁等のデザインをカラーで紹介する。
創造性はどこからやってくるか──天然表現の世界(ちくま新書)
考えてもみなかったアイデアを思いつく。急に何かが降りてくる─。そのとき人間の中で何が起こっているのか。まだ見ぬ世界の〈外部〉を召喚するためのレッスン。
Dance Fanfare Kyoto Document vol.01-04ダンスの閉塞感から身体の可能性へ
Dance Fanfare Kyotoは2013年から2015年の3年間、作品のクリエイションを通して、関西のダンスシーンの活性化と舞台芸術における身体の可能性の探究をめざす実験の場として活動。2020年の新型コロナウイルスの感染拡大によって受けた大きな打撃をきっかけに、Dance Fanfare Kyotoの成果やコロナ禍以前の関西ダンスシーンの再検証を目的にこのドキュメントが制作された。公式サイトの記事や書き下ろしなどによって構成。
ジョセフ・アルバースの授業──色と素材の実験室
2023年7月29日~11月5日まで、DIC川村記念美術館で開催されている展覧会の図録。
バウハウス、ブラックマウンテン・カレッジ、イェール大学という三つの重要な教育機関で教え、今日なお影響を与え続ける画家・デザイナー、ジョセフ・アルバース。制作と教育の両側面から、その全貌に迫る。
奥能登国際芸術祭2023公式ガイドブック「最涯の芸術祭、美術の最先端」
能登半島の先端、石川県珠洲市を舞台に2017年にスタートした奥能登国際芸術祭が2023年秋に第3回目を迎えます。珠洲市は、5月に震度6強の地震に見舞われましたが、アートを通して地域と地域を、また珠洲市と世界をつなぎ、震災からの復興にむけた光として、9月23日~11月12日まで芸術祭が開催されます。
本書は10のエリアに展開するすべての作品、イベントを紹介し、アクセスからモデルコースなどの巡り方ガイド、現地での飲食・宿泊・お土産など旅に必要な情報までを完全網羅した公式ガイドブックです。
藤森照信の現代建築考
明治初期に開拓した日本の建築という新しい領域にモダニズムが如何にして浸透してきたのか。日本の建築界は近代という激変の時代に、コルビュジエやバウハウスの影響を受けながらも対応してきた。時代を代表する建築家たちの45作品を通してその特質を考察する。
ル・コルビュジエ モダンを背負った男
ル・コルビュジエの評伝。生い立ちから最期までを描き、ル・コルビュジエの生きざまと思考に迫る一冊。『ジェイコブス対モーゼス ニューヨーク都市計画をめぐる闘い』を著したジャーナリスト、アンソニー・フリントによる巨匠ル・コルビュジエの包括的な評伝。
色から読みとく絵画 画家たちのアートセラピー
〈 一枚の絵が生きた人間の物語としてあらわれる 〉
生きることに困難を抱えた画家たちは、内面に渦巻く感情をキャンバスに解き放ち、心を癒やし、生命の歓びを描いた──。
色彩心理の研究をもとに長年アートセラピーに取り組み、絵は人の心の表現だと考える著者が作品を深く味わう見方をつづる。
Continuum 想像の語彙
2023年7月6日〜9月24日まで、東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の展覧会の図録。
いつの時代のものともしれない謎めいた建造物がぽつりと建っている。鑑賞者を時空を超えた世界へと誘う美術家・野又穫の初期〜最新作を紹介。
アートとフェミニズムは誰のもの? (光文社新書)
アートとフェミニズムは少なくない人びとから、よく見えていないのです。「よく見えていない」とは、見ていて良い気がしない、というのもありますが、どちらかと言うと、そこにあることはわかっているのだけど、見通しが悪くてその実態がよく見えないということです。いわば、アートとフェミニズムは、(中略)入門したくてもしにくい「みんなのものではないもの」なのです。(「はじめに」より)もともと、「みんなのもの」になろうとするエネルギーを持っているアートとフェミニズム。現代社会では両者に対する理解の断絶が進んでいる。この状況に風穴を開けるには──。美学研究者による新しい試み。
挑発関係=中平卓馬×森山大道
2023年7月15日~9月24日まで、神奈川県立近代美術館 葉山館で開催中の展覧会の図録。
現代写真史に大きな独自の足跡を残す二人の写真家の、若き日にともに過ごした葉山、逗子(神奈川)を起点に、世界のアートに越境的に影響を与えてきた二人の、その出発点と現在を貫く「挑発関係」の共振と発信を跡づける、初めての貴重な試み。「27歳になったばかりの中平卓馬とぼくが、逗子の海で、葉山の海で日々を過ごしていた頃の遠い夏の記憶は、ぼくとしてはまさに「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」ということになろうか。つまり、写真家・中平卓馬と写真家・森山大道の二人は、現在も終わることなき〈挑発関係〉を続けているのかもしれない」(森山大道〔あとがき〕より)。
庭のかたちが生まれるとき 庭園の詩学と庭師の知恵
徹底的に庭を見よ!
作庭現場のフィールドワークから、庭の造形を考え、庭師の生態を観察し、庭のなりたちを記述していく、新感覚の庭園論がここに誕生!
庭師であり美学者でもあるというユニークなバックグラウンドを持つ注目の研究者・山内朋樹の待望の初単著。
障害の家と自由な身体──リハビリとアートを巡る7つの対話
バリアフリーは「障害者」を「健常者」に合わせる考え方だが、社会の均質化につながるのではないか。本当のゆたかさは「障害」の側にあるのではないか。そうした意識から、アーティストである大崎晴地は、障害そのものを建築的に考える《障害の家》プロジェクトを進めてきた。三度の展示を経て、建設に向けた計画が始まっている。本書はこれまでの展示と連動して行なわれた対談・座談の記録集であり、「障害」「家」「リハビリ」「アート」を多角的に考えるための一冊である。「障害」が、真のゆたかさと自由につながる。哲学/精神医学/建築/アートを横断しながら、障害を考える対話集。
DRAWING ドローイング 点・線・面からチューブへ
ドローイングとはなにか? いまなぜ、ドローイングは世界的に重要視されているのか? その答えは、描かれたラインを「チューブ」として捉えたときに見えてくる──国際的に注目されるアーティスト・鈴木ヒラクが書き下ろす渾身の〈ドローイング原論〉。
2023/09/14(木)(artscape編集部)
カタログ&ブックス | 2023年9月1日号[テーマ:「物語る」表現と、それに触れる人の揺らぎを見つめる5冊]
災害の記憶から紡がれる言葉や、自らの状態を他者に伝える言葉。「物語る」と「話す」はどう異なるのでしょうか。6組の作家の表現から「物語ること」の多面性に触れる展覧会「物語ることも、物語らないことも、物語れないことも」(はじまりの美術館で2023年10月9日まで開催)に関連し、語りと人の関係性を見つめる5冊をご紹介します。
今月のテーマ:
「物語る」表現と、それに触れる人の揺らぎを見つめる5冊
1冊目:ハンターギャザラー
Point
2018年に秋田県立近代美術館で開催された展示の図録。同地でその4年前から始まり現在も続く、旅先で出会った人々の話を鴻池が聴き取り、描き起こした絵を語り手と共にランチョンマットにする『物語るテーブルランナー』のシリーズは、市井の人々の記憶への柔らかい目線と手仕事の集積に、静かに心揺さぶられます。
2冊目:やまなみ
Point
「物語ることも〜」展の出展作家でもある井上優が所属する、滋賀県の障害者多機能型事業所・やまなみ工房に川内が長期間通い、撮影した写真集。利用者それぞれが抱く「これをすることが幸せである」という思いから生み出される数々の豊かな表現と、それらを包む空間の光。素朴で端正な造本からも工房の空気が伝わります。
3冊目:10年目の手記 震災体験を書く、よむ、編みなおす
Point
「時間が経ったいまだからこそ、言葉にできることがある」。東日本大震災の“被災者”という枠組みによってかつてこぼれ落ちてきたものも含め、編者たちの元に寄せられた手記を一つひとつ読み、追体験し、そこで語られなかった言葉にも思いを馳せる。他者の言葉を読む行為のなかにある、原初的な豊かさを実感する一冊。
4冊目:物語としてのケア ナラティヴ・アプローチの世界へ(シリーズケアをひらく)
Point
誰かに自分の経験を語るうちに記憶が整理され、そこに物語としての輪郭が生まれることで自己理解が高まるという経験に覚えのある人は少なくないはず。精神医学の現場において、病いの経験に関する当事者の語りに着目し、ケアやカウンセリングを捉え直す「ナラティヴ(=語り・物語)・アプローチ」を知るための入門書。
5冊目:わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か(講談社現代新書)
Point
個々人の間で、世界の捉え方は微妙に異なっている。そのことを認識するところを出発点に、わかりあえる部分を探っていくための「対話」とは何か。現代日本におけるコミュニケーションへの疑問や違和感、そして「物語る」行為と重なり合うところや違いも念頭に置きながら読むことで、より多くの発見がありそうです。
物語ることも、物語らないことも、物語れないことも
会期:2023年7月29日(土)~10月9日(月・祝) ※火曜休館
会場:はじまりの美術館(福島県耶麻郡猪苗代町新町4873)
公式サイト:https://hajimari-ac.com/enjoy/exhibition/monogatarukoto/
※展覧会会期終了後、関連イベントの記録なども収録した「記録集」を、はじまりの美術館館内とオンラインショップで販売予定。
2023/09/01(金)(artscape編集部)