artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
ゲンビ:New era for creations──現代美術懇談会の軌跡1952-1957
会期:2013/10/19~2013/11/24
芦屋市立美術博物館[兵庫県]
「今回同じエスプリをもって新しい造型を志す人々が、各所属団体を考えずに自由な個人の立場からお互いに忌憚なく語り合う会をつくる事になりました。ついては毎月十三日午後二時より五時まで朝日新聞貴賓室で懇談会を開くことに決定致しました」。これは、1952年、大阪で発足した研究会「現代美術懇談会(ゲンビ)」の設立趣意書である。吉原治良(二科会)須田剋太(国画会)、山崎隆夫(同左)、中村真(モダンアート協会)、植木茂(同左)、田中健三(自由美術協会)、6名の連名。当時の関西における美術界のリーダーたち(40代の作家)は、絵画・彫刻・工芸・書・いけばなといった芸術のジャンルを超えて、議論を交わし、そのゼミのような討論を以て若手の育成も図った。ここから、展覧会「ゲンビ展」も行なわれるようになった。興味深いのは、1954年、同展から派生した「モダンアート・フェア」が開催され、そこにインダストリアル・デザインが含まれていたことだ。モダンアートの隆盛がデザイン製品に与えた影響について考慮され、優れたデザイン──いわゆる西洋諸国で戦後に推進された「グッド・デザイン」運動と同等の動きである──が展示された。これらの諸活動を通じて、「新しい造型」を探求した作家たちは、ジャンルの垣根を超えて「造型の根本」は同じである、という認識を共有したのであろう。本展からは、戦後の関西芸術界の熱い息吹を感じ取ることができる。[竹内有子]
2013/11/17(日)(SYNK)
中見真理『柳宗悦──「複合の美」の思想』
民藝運動の創始者として広く知られる柳宗悦(1889-1961)の諸活動を、「民藝から解き放つ」ことを目的に書かれた書。国際関係文化史を専門とする著者は、「平和思想家」としての柳の像に照明を当てる。そして、柳の多方面にわたる活動(宗教哲学/沖縄・東北・アイヌの地方文化に対する積極的な評価・コミットメント/朝鮮に対する植民地支配を批判など)を貫く思想を「複合の美」に見る。そのキーワードは、「野に咲く多くの異なる花は野の美を傷めるであろうか。互いは互いを助けて世界を単調から複合の美に彩るのである」という彼の言葉から引用されている。当時の社会が有した諸問題に相対して実践的な行動を起こした柳の思想から、現代の私たちはなにを読み取るべきなのか。本書はそのような問題意識のもとに、国際平和や理想的社会の実現という観点から、柳宗悦の独自の思想の形成を追究する。彼の包括的な全体像を、民藝運動のみにとらわれずに示そうとする、新しい視点の書である。[竹内有子]
2013/11/16(土)(SYNK)
五線譜に描いた夢──日本近代音楽の150年
会期:2013/10/11~2013/12/23
東京オペラシティアートギャラリー[東京都]
明治維新以降、日本は欧米に肩を並べる近代国家であることを示すために、さまざまな分野に欧米の制度を移入しはじめた。欧化の波は軍隊、法律や社会制度、経済などのシステムにとどまらず、頭髪や服装
展示の中心は、明治学院大学図書館付属日本近代音楽館の所蔵資料である。日本近代音楽館は、音楽評論家の遠山一行氏(1922- )が1962年に設立した旧遠山音楽財団の付属図書館を前身として、1987年に開館した私立の図書館であった。蒐集されたのは、クラシック音楽を中心に、作曲家の自筆譜、書簡や原稿、音楽に関連する図書や雑誌類、プログラム、レコードなどの録音資料である。遠山氏の高齢もあり2010年に所蔵資料50万点が明治学院に寄贈され、2011年から新たに明治学院大学図書館付属日本近代音楽館として開館し、資料の蒐集・整理・公開が行なわれている。
展示は時代別に四つのセクションに別れている。第一は幕末から明治。日本に来航した外国軍隊の軍楽やキリスト教宣教師がもたらした賛美歌は、幕末から明治初期の人々に西洋音楽との接触をもたらした。ヘボン式ローマ字で知られるアメリカ長老派教会の宣教医J・C・ヘボンが1863年に横浜に開設した塾では英語教育が行なわれるとともに賛美歌が歌われ、また日本の初期賛美歌編纂の拠点にもなっていたという 。明治政府は近代的な軍制度の整備に着手したが、そのなかで欧米に倣って軍楽隊も設置された。また宮廷の祭事にも西洋音楽が取り入れられたがその演奏を担ったのは雅楽の伶人たちであった。さらに西洋音楽は学校教育にも取り入れられ、オルガンやピアノなどの楽器を国産する試みも行なわれはじめた。西洋音楽が愉しまれた場としての鹿鳴館の存在も忘れることはできない。
第二は大正モダニズムの時代。西洋音楽の受容は、片や芸術へ、片や娯楽へと多様な拡がりを見せる。芸術としての西洋音楽としてここで特に焦点を当てられているのは山田耕筰(1886-1965)である。日本近代音楽館は1967年から山田耕筰資料の寄贈を受けており、ほぼすべての曲の自筆譜があるという。教育の点では童謡運動が挙げられている。また娯楽としての音楽の筆頭には浅草オペラの隆盛があり、西洋音楽は日本の文化と混じり合い、独自の展開をはじめていったことが指摘される。
第三は戦前期の昭和である。ラジオやレコードの登場と普及は、熱心なクラシックファンを生んだ。オーケストラとその聴衆が誕生するのもこの時代である。他方で戦争が近づくと音楽も戦意高揚の手段に組み込まれてゆく。
そして最後は戦後の音楽である。ここでは実験工房の試みなどに見られる現代音楽への道筋と、戦後各地に誕生したオーケストラの活動が紹介される。
東京オペラシティアートギャラリーの空間で「音楽の歴史」をどのように見せるのか。おそらくその展示構成には相当な工夫がなされたと思う。展示資料の大部分は作曲家の自筆楽譜、書籍雑誌、プログラムなどである。それに加えて初期の西洋楽器やレコード、佐藤慶次郎の振動するオブジェなどがあるが、立体的な資料は一部である。ともすると平板な構成になりかねない会場であるが、平面的な資料が収められた展示台を壁面に沿わせるのではなく展示室に斜めに配するなど、空間や動線に工夫がなされている。また、研究者へのインタビュー映像や再現演奏のビデオは、クオリティが高く内容も充実している。古い音源も各所に多数用意され、ヘッドホンで聴くことができる。すべての映像と音源を視聴すると4時間かかるとのことで、展示品の鑑賞も含めると半日では見終えることができないヴォリュームである。会期中8回にわたるミニコンサートが企画されているのも、音楽の展覧会ならではである。そして、そのままでは散逸しかねなかった日本の西洋音楽の貴重な史料を蒐集・整理・保存してきた遠山一行氏の仕事と、それを継承することになった明治学院にはなによりも敬意を表したい。[新川徳彦]
2013/11/13(水)(SYNK)
大宮エリー展──7年のOL時代と、7年間の今、
会期:2013/11/05~2013/12/20
dddギャラリー[大阪府]
小さな展示スペースは絵画や写真、インスタレーション作品に、映像作品の写真パネルですっかり埋めつくされていた。映画監督、CMやPVディレクター、演出家、脚本家、作家として活躍する大宮エリー(1975- )の展覧会のことだ。どこをどう見れば大宮という作家や作品のことがわかるのか戸惑いもあったが、これも、またこれも彼女の作品なんだという新しい発見のほうが大きく、楽しい時間だった。大宮は広告代理店勤務を経て独立し、映画『海でのはなし。』で監督デビューをして以来、さまざまな分野で活躍している、いわゆるマルチクリエイター。「仕事の依頼があるたびに、どうして私に、と、びくびくしながらも嬉しくなって勇気をだして引き受けていたら、こんなに色々な仕事にトライする人になってしまいました。(…中略…)(仕事の)共通点は何か。個人的な感情を掘り下げるということ。幸せはなんなのか、ということ。観た人がハッピーになるかどうかということ」だと大宮はいう。本展企画者の言う通り、彼女の仕事は「コミュニケーションの形をつくる」という意味で広義のデザインであると言えるかもしれない。[金相美]
2013/11/08(金)(SYNK)
戦国アバンギャルドとその昇華──変わり兜×刀装具
会期:2013/11/02~2013/12/08
大阪歴史博物館[大阪府]
兜や刀、刀装具など約250点を紹介する展覧会。展示品は時代別に陳列されているが、時代を追ってその特徴を紹介するというより、タイトル通り変わった形(意匠、デザイン)のものを集めたユニークな企画だ。大きな角や羽などを飾った兜や、鉢自体を何かの形に作り込んだ兜など、着用する人を大きく見せたり、強く見せたりするための工夫が見て取れる。今日の私たちの感覚からするとその想像力や奇抜さに驚くばかりだ。一方、江戸時代になると戦のためではなく、工芸品として、時には所有者の社会的地位を表わすべく、技術や贅を尽くしたものが登場するが、これもまた見ていて楽しい。兜や刀の歴史的な意義や流れを探るだけではなく、デザインやアートとして楽しんでみるのもいいと思った。[金相美]
2013/11/04(月)(SYNK)