artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
ふくいの面とまつり
会期:2013/07/19~2013/09/01
福井県立歴史博物館[福井県]
現在でも福井県では各地に面を用いる祭が種々残っており、人々に親しまれているという。白山信仰が盛んであったことから信仰に関わる寺社で猿楽などが演じられてきたこと、また越前の戦国大名であった朝倉氏が芸能を保護してきたことが、よい面がつくられてきた背景にある。本展ではそうした福井の祭と面の関係を三つに分けて紹介している。
第一は「面、神となる」。面は本来人がそれを付けて神を演じたりするものであるが、地域によっては祭や芸能が廃れて面のみが残され、いつのまにか面そのものが神として奉られる場合がある。ここではこのように神となった面が紹介される。第二は「人、神となる」。神楽を中心に、現在も祭で用いられている面が紹介されているほか、ビデオ映像で各地の祭で演じられる面の姿を見ることができる。南越前町の妙泰寺で開催される七福神祭の面と衣裳を着せたマネキンは、人が面をつけて神になることのイメージを十分に伝えている。その迫力は、実際に人が面を着けている姿を見たら、小さな子どもたちは逃げ出すかも知れないほどである。第三は「人、演じる」。本来は神への奉納として面を着けて演じられた芸能は、見る者、演じる者たちにとっての娯楽ともなる。ここではそうした楽しみへと変化した芸能の例として、福井県指定無形民俗文化財の「馬鹿ばやし」が紹介されている。
面を主題におくことで、形として残りにくい祭の姿やその変化をわかりやすく解説する好企画。紹介されている面の多くは現在行なわれている祭のなかで用いられているものである。面を使った祭が残る地域、廃れて面のみが残った地域、娯楽へと姿を変えた地域は、いずれも同時に存在している。地域による祭の姿の違いは、それぞれの地域の共同体のあり方の変化に大きく影響されてきたのである。祭がそこで暮らしている人々とともに変化を続ける生きた存在であることが示されている点がとても印象に残った。[新川徳彦]
2013/08/21(水)(SYNK)
福井利佐「LIFE-SIZED」
会期:2013/08/09~2013/09/08
ポーラ ミュージアム アネックス[東京都]
確かにその手法は切り絵なのだが、見知った切り絵のどれとも違う独自の世界を創り出してきた福井利佐。ポーラミュージアム・アネックスでの展覧会では、また新たな世界を見せている。二次元の切り絵でありながらも三次元的に造作を表現する福井の切り絵が、濃色ではなく白い紙を素材として、そして壁面ではなく透明なアクリル板を支持体として天井からワイヤーで吊され、暗い展示室に浮かび上がっている。人物や犬の顔といったモチーフは、技法的にはこれまでにも見た福井の切り絵であるが、白い紙を用いるとこうも印象が異なったものになるものなのか。作品の間を抜けて奥へと進み、振り返るとさらに驚かされる。白い紙の裏側はやや鈍い赤や青、緑や黄色で着彩されており、入ってきたときに見たものとはまったく異なる作品を見ているかのような印象を与えるのである。これらの作品のスケール感と空間構成は、印刷された作品集ではけっして体感できない。作品も演出もすばらしい展覧会である。[新川徳彦]
2013/08/17(土)(SYNK)
おみやげと鉄道
会期:2013/08/06~2013/11/24
旧新橋停車場「鉄道歴史展示室」[東京都]
2001年に大英博物館で「現代日本のおみやげ(Souvenirs in Contemporary Japan)」(2001年6月14日~2002年1月13日)という小展示が開催された。「おみやげと鉄道」展は、この展覧会を見て関心を持った企画者(鈴木勇一郎・立教大学立教学院史資料センター学術調査員)が進めてきた研究の成果だそうだ。大英博物館での展覧会リーフレットによれば、西洋での日本人観光客のイメージは、パッケージツアーの利用と、多くの高額なお土産品の購入にあるという。こうした日本人観光客の行動は、海外旅行が一般的になる以前から、あるいはいまでも国内旅行において見られる現象である。家族や親戚、近所の人々、あるいは会社の上司や同僚にちょっとしたお土産を渡すことは、日常的に行なわれている。それではいったいどのような商品がお土産品として選ばれてきたのか。本展では、それを鉄道網の発展と関連させて見せる。
旅行者向けの地方の名物やお土産物の種類は時代とともに変遷してきた。旧街道の名物が鉄道の開通によって衰退した例や、鉄道の開通によって発展した名物が、鉄道ルートの変化によって衰退した例もある。保存性の点からかつて食品類は現地で消費されるものであったが、輸送スピードの革新はそれをお土産品へと変えていった。駅弁など鉄道駅構内での営業許可によって登場した新たな名物やお土産品もある。お菓子がお土産品として一般化するのは、日清・日露戦争前後。菓子税の廃止と台湾領有による製糖業の振興がその背景にあるという。展覧会ではこうした制度的な変化の影響のほか、お伊勢参りや博覧会が名物やお土産に与えた影響を探っている。
交通網の発達は、すなわち流通網の発展をもたらす。地方の名物は物理的にはどこにいても入手可能になり、またその原材料もどこからでも調達可能になっている。本展でも指摘されているように、商品と地域との結びつきは希薄化している。現在ではお土産品の素性をたどっていくと、必ずしもその地域でつくられていなかったり、その地域の素材が用いられていない例はたくさんある。大手メーカーが手がけるご当地商品はその代表的な例であろう。それでも観光客はお土産を買うし、その際にはなんらかの地域色を求める。社会やシステムの変化の速度に比べて、お土産を求める日本人の心性はさほど変化していないように思われる。そこにお土産品の供給者はどのように応えているのか。商品開発という点でもパッケージデザインの点でも注目されている分野であり、さらに掘り下げてみたいテーマである。[新川徳彦]
2013/08/16(金)(SYNK)
Richard Diebenkorn: The Berkeley Years, 1953-1966(リチャード・ディーベンコーン──バークレーの時代 1953-1966)
会期:2013/06/22~2013/09/29
デ・ヤング美術館[San Francisco]
サンフランシスコ滞在中(ちょうど原稿の締切日と重なった)、デザイン関連の展覧会をみる機会がなかったため、展覧会ではなく美術館を紹介したい。サンプランシスコのゴールデン・ゲート・パーク内に位置する、デ・ヤング美術館は、1895年に開館したが、現在の建物は1989年に起きた大地震以後、再築などを経て2005年に完成、新しくオープンした。設計はロンドンにあるテート・モダンも手かげた、ジャック・ヘルツォーク(Jacques Herzog, 1950- )とピエール・ド・ムーロン(Pierre de Meuron, 1950- )が担当した。建物の外壁を覆っている、銅版は海風に酸化され赤みを帯びていて、その銅版に掘られた7,200個の穴からは光が入り、時間とともに変化する。北側にある塔に登ると市内が一望できる。文化人類学的に価値の高い作品を多く収蔵しており、また印象派の作品も多い。現在は、米国出身の画家リチャード・ディーベンコーン(Richard Diebenkorn, 1922-1993)のバークレー(サンプランシスコ)時代の企画展が行なわれている。ディーベンコーンはアメリカ・モダニズム絵画に大きく影響した人物だそうで、初期はニューヨークで抽象画を描いていたが、その後、人物画を経て、具象へと移る。本展ではサンプランシスコ時代の抽象画と人物画が130点余り紹介されていた。[金相美]
2013/08/14(水)(SYNK)
Will Eisner: Father of the Graphic Novel(ウィル・アイズナー──グラフィック・ノベルの父)
会期:2013/07/27~2013/11/10
カートゥーン・アート・ミュージアム[サンフランシスコ]
ウィル・アイズナー(Will Eisner, 1917-2005)は米国・ニューヨーク市生まれの漫画家。私たちには馴染のない名前だが、アメリカ・コミック史においてはもっとも重要な人物の一人として考えられている。サンフランシスコ市内にあるカートゥーン・アート・ミュージアムで彼の回顧展が行なわれていたので、訪ねてみた。サブタイトルにある「グラフィック・ノベル(Graphic Novel)」とは、複雑なストーリーの、大人向けのアメリカン・コミックを指すようだが、少々曖昧な定義で、ほかのコミックや漫画との違いはつかみ難いところもある。ただ、「グラフィック・ノベル」というジャンルは、ウィル・アイズナーが設立したスタジオと作品シリーズによって確立されたというのが定説。「グラフィック・ノベルの父」というサブタイトルとおりだ。展示はアイズナーの代表作の原画をいくつか紹介するもので、思ったより小規模だった。彼の作品は鋭いペンのタッチと、ブラックユーモア、ときには哀愁溢れるストーリーが絶妙に相まってアメリカ社会、ひいては現代社会を鋭く風刺していた。時が経ても、国が変わっても人間の日常や悩みは変わらない気がした。[金相美]
2013/08/13(火)(SYNK)