2020年09月15日号
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artscapeレビュー

おみやげと鉄道

2013年10月01日号

会期:2013/08/06~2013/11/24

旧新橋停車場「鉄道歴史展示室」[東京都]

2001年に大英博物館で「現代日本のおみやげ(Souvenirs in Contemporary Japan)」(2001年6月14日~2002年1月13日)という小展示が開催された。「おみやげと鉄道」展は、この展覧会を見て関心を持った企画者(鈴木勇一郎・立教大学立教学院史資料センター学術調査員)が進めてきた研究の成果だそうだ。大英博物館での展覧会リーフレットによれば、西洋での日本人観光客のイメージは、パッケージツアーの利用と、多くの高額なお土産品の購入にあるという。こうした日本人観光客の行動は、海外旅行が一般的になる以前から、あるいはいまでも国内旅行において見られる現象である。家族や親戚、近所の人々、あるいは会社の上司や同僚にちょっとしたお土産を渡すことは、日常的に行なわれている。それではいったいどのような商品がお土産品として選ばれてきたのか。本展では、それを鉄道網の発展と関連させて見せる。
 旅行者向けの地方の名物やお土産物の種類は時代とともに変遷してきた。旧街道の名物が鉄道の開通によって衰退した例や、鉄道の開通によって発展した名物が、鉄道ルートの変化によって衰退した例もある。保存性の点からかつて食品類は現地で消費されるものであったが、輸送スピードの革新はそれをお土産品へと変えていった。駅弁など鉄道駅構内での営業許可によって登場した新たな名物やお土産品もある。お菓子がお土産品として一般化するのは、日清・日露戦争前後。菓子税の廃止と台湾領有による製糖業の振興がその背景にあるという。展覧会ではこうした制度的な変化の影響のほか、お伊勢参りや博覧会が名物やお土産に与えた影響を探っている。
 交通網の発達は、すなわち流通網の発展をもたらす。地方の名物は物理的にはどこにいても入手可能になり、またその原材料もどこからでも調達可能になっている。本展でも指摘されているように、商品と地域との結びつきは希薄化している。現在ではお土産品の素性をたどっていくと、必ずしもその地域でつくられていなかったり、その地域の素材が用いられていない例はたくさんある。大手メーカーが手がけるご当地商品はその代表的な例であろう。それでも観光客はお土産を買うし、その際にはなんらかの地域色を求める。社会やシステムの変化の速度に比べて、お土産を求める日本人の心性はさほど変化していないように思われる。そこにお土産品の供給者はどのように応えているのか。商品開発という点でもパッケージデザインの点でも注目されている分野であり、さらに掘り下げてみたいテーマである。[新川徳彦]

2013/08/16(金)(SYNK)

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