artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

フィンランドのくらしとデザイン──ムーミンが住む森の生活展

会期:2013/01/10~2013/03/10

兵庫県立美術館[兵庫県]

会場に入るなり、盛況ぶりに驚いた。観客のお目当てはムーミンの原画かと思いきや、19世紀末の絵画と工芸のコーナーも作品に熱い眼差しを向ける人たちで一杯だ。関係者の話によると、本展の人気の背景には北欧雑貨のブームとフィンランド・ブームの両方があるらしい。確かに、北欧デザインは日本で長年にわたり愛されてきているとはいえ、同デザインがわが国で紹介され始めた1960年代、それは一部の洗練された人たちが愛でるものだったろうし、ひょっとしたらスウェーデンのデザインとフィンランドのそれの区別もおぼつかなかったかもしれない。しかし、情報化が格段に進んだ現在は、北欧のなかでもとくにフィンランドが好きという人たちが大勢いるのだろう。だから、本展の成功は、いわゆるヘーゲル的なデザイン史の観点からフィンランド・デザインを通観することを避け、北国の厳しくも美しい自然のなかで育まれた文化という視点から多種多様な要素を採り上げたことにある気がする。
 たとえば、本展ではムーミンとイッタラの器とモダニスト建築家であるアアルトの椅子が同じ部屋に並ぶという、デザイン史的視点からみればいささか型破りなことが起こる。だが、それはフィンランドを愛する者からみればすんなりと受け入れられるものなのだ。可愛らしいムーミンもモダンな合板椅子もフィンランドの深い森に対する作者の愛着から生み出されたものであることに変わりはないのだから。同様に、マリメッコのワンピースが高い天井からぶら下がり、その周囲にさまざまな雑貨デザインが並んだ空間もフリーマーケットのような雰囲気があり、良い意味で慣例破りの展示といえる。個人的には、いままで書籍でしかお目にかかれなかった19世紀末の建築家エリエル・サーリネンの家具がこの目で見られることに感激した。[橋本啓子]


展示風景
写真提供=兵庫県立美術館


エリエル・サーリネン《試作椅子「コティ」》、1903年
フィンランド・デザイン・ミュージアム、photo ©Niclas Varius

2013/01/19(土)(SYNK)

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マスダさんちの昭和レトロ家電

会期:2012/12/01~2013/02/15

大阪市立住まいのミュージアム:大阪くらしの今昔館[大阪府]

昭和30年代の家電やその面白さを紹介する展覧会。昭和30年代といえば、戦後の混乱がひと段落し日本の経済と生活環境が整っていった時代であった。白黒テレビ・冷蔵庫・洗濯機など、いわゆる「三種の神器」をはじめとする、さまざまな家電製品が誕生し、人々の暮らしを大きく変えていった。アメリカデザインの影響からだろう、当時の家電は丸みを帯びた、いわば流線型デザインが多く、その形態から時代性(昭和の空気)が感じ取れる。会場には家電だけでなく、石鹸や歯ブラシなどの日常用品から、雑誌やチラシ、ポスターなどの印刷物も展示されており、当時の暮らしぶりを深く理解することができる。本展は増田健一氏の20年にわたるコレクションを紹介するものだというが、コレクションの素晴らしい保存状態と、なによりその数(500点余)や多彩さに敬意を払いたい。[金相美]

2013/01/17(木)(SYNK)

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プレビュー:生誕130年 魯山人の宇宙

会期:2013/01/05~2013/02/03

明石市立文化博物館[兵庫県]

自ら料理長を務めた料亭「星岡茶寮」を開くなど、食を極めた芸術家として知られる北大路魯山人の個展。彼の作品は、書、篆刻、陶芸、漆芸、絵画など多岐にわたるが、今回は笠間日動美術館が所蔵する陶芸、絵画等の作品約80点が展示される。注目すべきは、アメリカ、サンディエゴから里帰りした「カワシマ・コレクション」が出品されることだ。同コレクションは、魯山人と交流し、彼の名をアメリカに知らしめたジャーナリスト、シドニー・カドーソ氏が収集した魯山人作品をもとに、収集家であるモーリス・河島氏が作り上げたコレクションで、知られざる名品を多数含む。「食器は料理のきもの」という魯山人自身の言葉が示すように、彼にとって、陶器とは料理が盛り付けられることを念頭につくられるものだった。独特の形態や図柄は、どのような料理を想定したものなのか、そんなことを想像しつつ、楽しみたい展覧会だ。[橋本啓子]


左=北大路魯山人《九谷風鉢(くたにふうはち)》
笠間日動美術館蔵(カワシマ・コレクション)
右=北大路魯山人《織部花器(おりべかき)》
笠間日動美術館蔵

2013/01/15(火)(SYNK)

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大阪市立デザイン教育研究所「紙技展2013」

会期:2013/01/05~2013/01/12

ATC10F デザインギャラリー[大阪府]

大阪市立デザイン教育研究所(OMCD)の在学生による、紙を用いたアート・デザイン作品の展示会が大阪南港にあるATCで開催された。大阪市立デザイン教育研究所は公立では全国唯一のデザイン専修学校。大阪市立工芸高校(大阪市指定有形文化財に指定)に隣接しており、その姉妹校でもある。「紙」は身近で扱いやすい材料であるため、よく試作や練習に用いられるが、それゆえに扱いにくい、難しい材料でもある。というのは、数あるもののなかから個性や特色のある作品に仕上げる、つまり他の作品との差別化をはかるためにはさらなる工夫を凝らさなければならないからだ。会場では紙粘土の置物から商品パッケージ、ライト、インストレーション作品まで、若い感覚や工夫が光る作品が多く見受けられた。「素材とはなにか」「デザインとはなにか」についてあらためて考えさせられる機会であった。[金相美]




会場風景

2013/01/12(土)(SYNK)

北澤憲昭『美術のポリティクス──「工芸」の成り立ちを焦点として』

発行日:2013年7月25日
発行所:ゆまに書房
価格:1,800円(税別)
サイズ:19 x 13 x 2cm、198ページ


美術の「政治/政治学」と書名にある通り、〈文化の政治学〉を視角として、近代日本における芸術ジャンルの形成・成立とそこに存在したヒエラルキーをめぐる思索が展開された書。同書は北澤が述べるように、自身の「工芸論の決定版」という構想のもと構成された。第1章「『美術』の形成と諸ジャンルの成り立ち」は『境界の美術史』(2000)から、第2章「美術とナショナリズム/ナショナリズムの美術」と第3章「工芸とアヴァンギャルド」も既刊テキストからの再出である。明治期のウィーン万国博覧会を契機として、「美術」という言葉が日本にもたらされる。以来、当初は諸芸術を意味していたものが視覚芸術(なかでも絵画)に限定されていく経過が、「工芸」等の類語の概念と形成、美術制度の検討を絡めて記されている。旧来の「美術」概念を現代的視野から問い直す、工芸・デザインを学ぶ人には必読の書。[竹内有子]

2013/01/11(土)(SYNK)