artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
“倣う”から“創る”へ──京都高等工芸学校・京都市立美術工芸学校の図案教育II
会期:2015/06/15~2015/07/31
京都工芸繊維大学美術工芸資料館[京都府]
京都工芸繊維大学美術工芸資料館と京都市立芸術大学芸術資料館の合同企画により、近代京都における両校のデザイン教育の成果を学生作品からみる展覧会。図案の学習から制作における創造への展開が、カリキュラムに関わる課題や公募作品・卒業制作等から読み解ける仕組みになっている。京都市立美術工芸学校(現:京都市芸大)は1891年に工芸図案科を設置し、1902年開学した京都高等工芸学校(現:京都工繊大)は図案科・機織科・色染科を設置し、それぞれ特色ある図案教育を行なった。二つの大学の生徒作品を通覧してその教育の特徴を一言でいうならば、前者は装飾の高度な描写性に重きを置く美術偏重の教育であったのに対し、後者は建築からそのなかに置かれる室内装飾までを総合的に含めたデザインの所以たる科学と芸術の結合を示す教育であった。近代において京都の美術工芸を牽引した二つの大学のアプローチの異なるデザイン教育のすがた、そして当時における「図案」の教育上の重要性を浮き彫りにした興味深い展覧会。[竹内有子]
2015/07/11(土)(SYNK)
高松次郎 制作の軌跡
会期:2015/04/07~2015/07/05
国立国際美術館[大阪府]
近年、展覧会が複数開催され注目を集めている前衛芸術家/高松次郎(1936-98)の大規模な回顧展。本展の特徴は、絵画・版画・立体作品だけでなく、ドローイングが多く、約280点展示されていること。ドローイングとはそもそも作家の思考と作品の構想を表わすものであるが、それが年代順にたくさんみられることで、作家自身が制作した作品表現の発想と応用の変遷を詳細に検討することができる。高松のシリーズ作品は、「点」「影」「遠近法」「単体」「複合体」「平面上の空間」「形」と本展の展示テーマが名付けるような、人間の視覚とものの認識・世界の把握の仕方に関わる、いわば理論的な仕事ともいえるだけに、大量のドローイングを整理し直して作家の仕事を解釈し、展覧会を構成した意味は大きいだろう。特に今回は高松の「装丁」の仕事も多く展示されており、ドローイングから装丁デザインへと展開していった、互いに連関性をもつ作品群を見て取ることができる。作家の思考の読み解き、作品の謎解きをすることができるたいへん刺激的な展覧会。[竹内有子]
2015/07/04(土)(SYNK)
世界に挑んだ明治の美──宮川香山とアール・ヌーヴォー
会期:2015/04/25~2015/08/30
ヤマザキマザック美術館[愛知県]
横浜・眞葛焼の創始者、宮川香山の仕事は明治の輸出工芸のひとつで、花鳥や蟹、鼠などの生き物を高浮彫と呼ばれる写実的な彫刻によって壺などの器の表面に表現した独特な陶磁器作品で知られる。本展は宮川香山作品のコレクターであり「宮川香山 眞葛ミュージアム」の設立者である山本博士氏のコレクションを中心に、香山の作品をラリック、ガレやドーム兄弟などによる同時期のヨーロッパのアール・ヌーヴォーの工芸や家具とともに展示、紹介している。工芸作品の展覧会というと、そのつくり手である工芸家に着目することが多い。しかし、京都の陶工であった香山が横浜に移って窯を開いたのは輸出陶磁器制作の注文を受けたことがきっかけであり、その作品のほとんどが海外に渡り、国内には残されていない。すなわち、香山の作品は日本人のためにつくられたのではない。それゆえ、彼の仕事を理解するためには、国内におけるつくり手側の事情と同時に、当時のヨーロッパでなにが求められていたのかを考える必要があり、今回の展示構成はその様相をとてもわかりやすく伝えていると思う。会場入口正面には、16世紀フランスの陶工ベルナール・パリッシーによる爬虫類などを浮き彫りにしたグロテスクな作品の、19世紀ドイツにおける写しが展示されている。パリッシーの作品が19世紀のヨーロッパで新たに人気を博していたということで、欧米人にとって香山の高浮彫のような作品はただエキゾチックで珍しいものではなく、その様式においてすでに受け入れる素地があったということになろうか。また展示ケースにアール・ヌーヴォーのガラス器と香山の高浮彫とが交互に並んでいながら両者が違和感なく収まっている姿を見ると、工芸の東西交流と相互の影響関係に至極納得がいく。[新川徳彦]
2015/06/27(土)(SYNK)
ライゾマティクス──グラフィックデザインの死角
会期:2015/06/05~2015/06/27
ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]
Perfumeの舞台演出などエンターテイメント分野での活躍が知られるライゾマティクスであるが、彼らのもうひとつの仕事に大規模なデータを可視化し、その構造を解析するというものがある。東京都現代美術館で開催された「うさぎスマッシュ展」(2013/10/03~2014/01/19)に出品された《traders》は、金融取引におけるビッグデータを可視化する試みであった。今回の展覧会でライゾマティクスが可視化を試みたのはグラフィックデザイン。4人の著名デザイナー──田中一光、福田繁雄、永井一正、横尾忠則──の仕事をデータ化し、その特徴を探ろうというものである。今回行なわれた解析の視点は二つ──配色と構成。4人のデザイナーのポスター作品約3000点をデータ化。配色についてはポスターを構成する色彩をピクセルに分割してそれを色空間にマッピングし、デザイナー毎の配色の特徴を示す。構成については画面におけるタイトルやサブタイトルの配置、写真やイラストレーションが導く紙面の強度を解析する。そうした解析結果は二つの作品として提示されている。ひとつは「感性」に関連するビデオインスタレーションで、配色と構成の解析結果に音と動きの要素を加えて、4人のデザイナーたちの作品を再構成している。もうひとつは配色と構成の解析結果を用いたポスター作品である。さて、こうした二つの要素の解析結果と、それらに基づいて再構成された作品は、それぞれのデザイナーたちの作品の特徴をどれほど伝え得ているのか。田中一光については今回の解析対象にとてもマッチしているように思われる。それはおそらく彼の用いる色彩や書体が特徴的だからか。他方で福田繁雄や横尾忠則の配色の解析結果は筆者が抱いているそれぞれのデザイナーの作品の印象とかなり乖離がある。解析結果に基づいて制作されたポスター作品についても同様だ。これをどう考えるか。ビッグデータの解析がデザインの分析に役に立たないと言ってしまうのは短絡的にすぎるだろう。そうではなくて、解析の視点が十分ではないのだと思われる。今回の試みでは二つの要素の解析結果をライゾマティクスのデザイナーによる「感性」で補正しているが、それだけではやはり不十分で、二つの視点の「死角」にこそそれらのデザイナーの作品の本質が隠されていることが示されたと考えるべきであろう。[新川徳彦]
関連レビュー
2015/06/26(金)(SYNK)
超絶刺繡II──神に捧げるわざ、人に捧げるわざ
会期:2015/04/18~2015/06/28
神戸ファッション美術館[兵庫県]
古今東西における布に糸を縫い付けて文様を形づくる「刺繍」作品から、人間の手技の素晴らしさを実感できる展覧会。展示は大きく五つに分けられている。ひとつ目の「刺繍黄金時代」と題されたところでは、近代ヨーロッパ・インド・中国等の王侯貴族・有閑階級が着用した豪華で目にも艶やかな地域独特の衣装における、非常に繊細でいて芸術的な手仕事に圧倒される。たんに人の手で縫い付けられたとは思えないような、拡大写真が必要なほど細かな刺繍と、透けそうなほど上質な木綿や絹でつくられた着衣に、さまざまな材料・色彩を使ってひと針ひと針施された刺繍が織りなす意匠は、自然の草花から生物、幾何学的文様まで幅広い。通覧すれば、洋の東西のお国柄のコントラストが際立つ。二つ目「花鳥風月」の展示では、日本の着物にみられる自然を象る刺繍、京都の「京刺繍」作品(会場入口では多様な技法の解説あり)が展示されている。ここから祭りに捧げられた刺繍──京都祇園祭の「長刀鉾(なぎなたぼこ)」、長崎くんち(長崎市の諏訪神社の祭礼)の「傘鉾(かさぼこ)」──が展覧された。そこでは、日本の様式化された動植物、後者ではとりわけ写実的な本物と見まがうような海の生物の刺繍を見ることができる。最後の「オートクチュール」のところでは、美しいドレスの仕事に思わずため息が漏れる。[竹内有子]
2015/06/20(土)(SYNK)