artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
秋岡芳夫全集3 銅版画
会期:2015/02/14~2015/03/22
目黒区美術館[東京都]
目黒区美術館では2011年に工業デザイナー秋岡芳夫の全貌を概観する展覧会を開催し、その翌年から「秋岡芳夫全集」として個別の仕事を掘り下げる展示を開催してきた。今回の「秋岡芳夫全集3」は、その銅版画作品に焦点を当てる。秋岡が妻とともに銅版画作品をつくっていたのは1950年代で、彼が童画を描いていた時期と重なる。彼は関野準一郎が主宰する火葬町銅版画研究所で版画の技法を磨き、日本版画協会、春陽会版画部、日本銅版画協会に所属していたという。秋岡の作品が版画界でどのように評価されうるのか私にはわからないが、彼の童画と同様、あるいはそれ以上にシュールな作風はとても魅力的だ。残されているスケッチや試刷を見ると作品が完成するまでに繰り返し繰り返し手が入れられていたことがわかる。秋岡の銅版画制作がこの時期に留まるのは、1953年に工業デザイン事務所KAKを結成し、多忙になったためであろうか。秋岡の表現への幅広い関心を物語る作品群である。[新川徳彦]
関連レビュー
2015/03/22(日)(SYNK)
富田菜摘 展「平成浮世絵──役者舞台之姿絵」
会期:2015/03/02~2015/03/20
ギャルリー東京ユマニテ[東京都]
羽子板などに用いられる押絵に似たつくりのレリーフ。紙粘土で半立体の人物をつくり、その表面に雑誌のグラビアページがコラージュされている。モチーフはAKB48、嵐、EXILE、吉本芸人やグラビアアイドル。「平成浮世絵」という展覧会タイトルが示すように、彼らの姿は江戸時代の浮世絵に現われる役者や遊女たちの姿に見立てられている。作品から離れて見れば、見得を切る役者や、艶やかな着物をまとった遊女。しかし近づいて見ると別のものが見えてくる。着物が雑誌ページのコラージュでできているのは十分に想像の範囲なのだが、驚かされるのは肌の表現で、これがモチーフとなったアイドルたちの顔写真のコラージュ。目と唇は別だが、顔の表情やディティールは、明るさや色味の異なる顔写真の集合体なのだ。手足や指先の肌も同様に顔写真がコラージュされており、レリーフでありながらも表面的な起伏だけで表現されているのではない。肌に埋め込まれた顔は人面疽のように見えてもおかしくないのだが、不気味さや不快さではなくユーモア、楽しさを感じるところが富田菜摘の作品が秀逸なところだ。そしてコラージュに使用された雑誌は、たとえば女性誌の読者モデルをモチーフにした《江戸読模小町(えどどくもこまち)》では『CanCam』や『ViVi』、嵐をモチーフにした《嵐波五人男》はアイドル雑誌『ポポロ』や『Myojo』と、その人物、グループの特徴を表わすグラビアや記事が見え隠れし、それ自体が「当世江戸風俗図」。ひとつの作品のなかに幾重もの見立てが仕込まれている。富田菜摘のもうひとつの代表作は、金属廃材を用いてつくられた立体的な動物。捨てられたゴミに生命を与えるというコンセプト自体はしばしば見かけるが、それぞれの材料の使いどころや見立ての妙、少しばかりの皮肉と大いなるユーモアを秘めたオブジェは、見立ての力は、本展の作品と共通する富田ならではの表現だと思う。今回の作品は昨年夏のBunkamura Box Galleryでの展覧会(富田菜摘 個展「Wonder Carnival」、2014/8/16~8/24)以降に制作したものとのことで、その制作スピードにも驚かされる。[新川徳彦]
2015/03/19(木)(SYNK)
山本太郎×芸艸堂コラボレーション展「平成琳派 ニッポン画×芸艸堂」
会期:2015/02/25~2015/03/28
イムラアートギャラリー[京都府]
「ニッポン画」という独自のスタイルを提唱する画家、山本太郎と日本唯一の手木版和装本出版社、芸艸堂とのコラボレーション。より正確には、芸艸堂がとりもった、山本太郎と明治の図案家、神坂雪佳とのコラボレーションである。山本の作品としては、《風神ライディーン図屏風》とほか2点が、神坂雪佳の作品としては、代表作、図案集『百々世草』から《狛児》や《八ツ橋》など5点が出品されている。山本の作品、《風神ライディーン図屏風》は、あの俵屋宗達の《風神雷神図屏風》を下敷きに往年のテレビアニメで活躍した主役ロボットと特撮テレビドラマの変身ヒーローが神々に扮した作品である。江戸時代初期の画家、俵屋宗達(生没年不明)は大胆な構図と明快な色彩、華やかな装飾性で知られる。およそ100年後、宗達の作風に学んだ尾形光琳(1658~1716)が登場し、さらにそのおよそ100年後ならぬ200年後に雪佳(1866~1942)は光琳らの作風を様式化して光琳模様を創出した。そして、さらにおよそ100年後の平成の時代、山本(1974~)は宗達や雪佳を引用しながら独自の作風を探求している。しかし本展の主役は、なんといっても《信号住の江図》である。芸艸堂が版木を所有している雪佳の作品、《住の江図》に山本が1本の信号機を描き足して、新たに刷り上げられた作品である。浜辺の「松」の木に人々に「待つ」ことを強いる信号機を掛けたというわけだ。《風神ライディーン図屏風》も宗達あってのものという意味では共作といえなくもないかもしれないが、《信号住の江図》は文字通り時代を超えたコラボレーションであり、その立役者は芸艸堂の技と木版という媒体である。
ところで、山本太郎の「ニッポン画」とは次のようなものだそうだ。「一、現在の日本の状況を端的に表現する絵画ナリ。一、ニッポン独自の笑いである「諧謔」を持った絵画ナリ。一、ニッポンに昔から伝わる絵画技法によって描く絵画ナリ。(ニッポン画家・山本太郎公式ウェブサイトより)」日本画から現代美術へのアプローチといえば、「スーパーフラット」という概念を提示した村上隆や、合戦図や鳥瞰図をモチーフにした山口晃、「ネオ日本画」を標榜する天明屋尚ら同時代の美術家たちが想起される。なかではもっとも若い世代にあたる山本は少し滑稽で優しく和やかな雰囲気に特徴があり、雪佳の作風とも比較的馴染みやすい。その意味でも、今回のコラボレーションは絶妙の組み合わせであった。
京都では、琳派400年記念祭関連のイベントが次々と開催されるなか、PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015もはじまった。国際的な視点から日本を見直したとき画家たちは幾度となく宗達や光琳に立ち返ってきたが、わたしたちも身をもってその回帰を体験できるまたとない機会かもしれない。[平光睦子]
2015/03/18(水)(SYNK)
おいしい東北パッケージデザイン展 in Tokyo
会期:2015/03/06~2015/03/29
東京ミッドタウン・デザインハブ[東京都]
東北の食品メーカー10社10商品のパッケージデザインを全国のデザイナーから募集し、商品化を目指すプロジェクト。東北経済産業局と日本グラフィックデザイナー協会による企画で、応募作品623点から受賞作品・入選作品の合計270点が展示された。質の高い商品をどのように売っていくのか、どのようにその魅力を伝えていくのかがデザインに求められた課題。メーカー側からは商品の特徴、コンセプトやターゲット、販路などの条件、要望、希望が示され、デザイナー側はそれに応えたデザインを提案する。審査では見た目が優れているだけではなく、現実の販売力を持っていること、制作コストが見合うかどうかが問われている。リンゴのスパークリングジュースやゼリー、たらこや干し芋、ラーメンやふかひれスープなど、商品の性格はさまざまであるが、価格帯や販路を見ると、自家用と言うよりは概ねお土産品であり、土産物店や道の駅、百貨店やスーパーの地方物産展などで販売されることを想定しているようだ。となれば、初見のお客さんの目を惹くこと、商品の特性をよく表わしシズル感があること、同業他社の製品との差別化が求められよう。その点、受賞作のパッケージはその食品の「らしさ」のイメージと、それでいて「新しい」「オリジナル」ということとの間の微妙なバランスの上に成立していることがわかる。審査評を見ると、メーカー側がよいとするデザインに対してデザイナー側の審査員がダメ出しをする場面もあったようで、優れた商品パッケージが生まれるまでのケーススタディとしても興味深く見た。ただし、このプロジェクトは表面的には地方の企業に外部から「ガワのデザイン」を持ち込んでいるように感じられなくもない。審査総評でデザイナーの梅原真氏は「この事業が『善意のデザイン』であってはならない。企業の覚醒のきっかけとなってほしい」と述べているとおり、デザインがどこまで自分たちの商品と一体としてブランドを作りうるかが、企業にとっての本来の課題であろう。コンペでパッケージを選んで終わるのではなく、これから商品をどのように育ててゆくのか、そこまでフォローされると良いのだが。[新川徳彦]
2015/03/17(火)(SYNK)
科学開講!京大コレクションにみる教育事始
会期:2015/03/05~2015/05/23
LIXILギャラリー[東京都]
京都大学総合博物館、京都大学吉田南総合図書館に保存されている歴史的な物理実験機器、教育掛図、生物学地質学関連の模型・標本約100点を通じて、明治期日本における科学教育の姿をひもとく展覧会。京都大学の前身である旧制第三高等学校(三高、1894年/明治27年発足)は、日本で最初の理化学校として1869年/明治2年に大阪に開講した舎密局(せいみきょく)を始まりとしており、科学教育に力を注いでいた。近代化を推進する人材を育てるために、こうした学校はヨーロッパ製の高価な機材を多数購入してきた。京都大学総合博物館にはこうした三高由来の多様な物理実験機器が約600点保存されている。これらの機器は教場の準備室の片隅で長い間埃にまみれて放置されていたという。現在は使われていない機器や、使用方法がわからない装置が多数あるなかで、永平幸雄・大阪経済法科大学教授らは残されている機器の購入記録やメーカーのカタログなどを渉猟し、品名や使用法、購入年、価格、納入業者や製造業者を同定し、機器の歴史的意義を明らかにしてきた。実験機器の詳細を明らかにすることは、三高の教育、黎明期の日本の科学教育の歴史を明らかにすることでもある。本展で個々の機器にわかりやすい解説が付されているのはこの調査研究の成果だ
。とはいえ、学術上の意義とは別に、これらの古い実験機器に独特の美を感じるのは不思議である。特定の実験のみに対応するために単純な構造を有する装置の機能美。真鍮などの金属でつくられた機器の質感と重量感。鉱物や宝石のレプリカ、生物標本、解剖模型、教育掛図も、そのビジュアルがじつに魅力的なのだ。本展を見た人は、東京大学の資料が展示されているインターメディアテクの展示を思い出すと思う。生物学・地質学関連資料が多いインターメディアテクの展示に対して、三高コレクションは物理実験機器が中心。LIXILギャラリーとインターメディアテクは徒歩で10分ほどの距離にあるので、両者を併せて見たい。[新川徳彦]2015/03/12(木)(SYNK)