artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
「クリエイションの未来展」第3回 隈研吾監修「岡博大展──ぎんざ遊映坐 映智をよびつぐ」
会期:2015/03/12~2015/05/23
LIXILギャラリー[東京都]
ギャラリー内部に仮設の映画空間が設えられている。空間の構造体は竹ひご。竹を割ってつくったひごを丸めて終端同士を結束バンドで締めて輪をつくり、三つの輪を重ねてゴムで結ぶと折りたたみ可能な球体ができる。その球体同士を結束バンドで連結して壁面をつくり、布の天蓋を掛けることで組立式の「モバイルシアター」が完成する。空間の設計は隈研吾氏。そして「ぎんざ遊映坐」と名付けられたこのシアターで上映されているのは、映画作家・岡博大氏が撮影を続けている隈氏の仕事。遊映坐とは旅する映画館を意味する。2008年に「湘南遊映坐」を設立した岡氏は、各地で映画祭映画イベントを主催すると同時に、2010年からは建築家・隈研吾氏の日常の仕事を追ったドキュメンタリーを撮影している。隈氏の事務所、プレゼンテーションの場、建設現場にともない、これまでに撮影した映像は200時間に及ぶという。特にプロットがあるわけではない。ただひたすら撮り続ける。海外まで追いかける。驚くのは、これを手弁当で続けていることである。なにが彼をそうさせるのか。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)時代に隈氏に学び、それまでビジネスを目指していた人生の方向を180度変えたという岡博大氏は、隈研吾氏を「諸国を行脚する漂泊の俳人」に、自身を「芭蕉の旅に同行した門人・曾良」になぞらえる。映像は日々の出来事の記録、個々の仕事の記録であると同時に、ひとりの建築家の旅の記録であり、共に仕事をした人々の記録でもあり、岡氏自身の人生の記録でもある。モバイルシアターも映像もまだプロトタイプだが、いずれ各地を遊映し、人と人の出会いの場となり、それぞれの場に映智=映像による叡智の枝を呼び接いでゆくことになるのだろう。[新川徳彦]
2015/03/12(木)(SYNK)
ハル・フォスター『アート建築複合態』(瀧本雅志 訳)
ハル・フォスター『アート建築複合態』(原題:The Art-Architecture Complex, 2011)の邦訳が刊行された。本書は、同著者による『デザインと犯罪』の続編とも言うべきもので、モダニズムとポストモダニズムの二つの事後から現代にわたる「アートと建築の複合」がテーマになっている。そこに流れる問題意識は、絵画/彫刻/建築等の旧来の美術ジャンルの解体にともない、現代建築とアートが境界を融解して、相互に干渉しあうという複合的な状況だ。同書はそこで、建築が決定的な役割を担っていると論じてゆく。著者はまず、60年代のポップアート以降のポストモダンの歴史批評から始める。そしてリチャード・ロジャース、ノーマン・フォスター、レンゾ・ピアノの建築デザインの実践を「グローバル・スタイル」ととらえ、グロピウス、ミース、コルビュジエに相対する三巨匠に数える。次に、美術との接触から活動をスタートさせた建築家たちが扱われる。ザハ・ハディド、ディラー・スコフィディオ+レンフロ、ヘルツォーク&ド・ムーロンである。そのあと、映画・彫刻・インスタレーション等のメディウムの変容について記し、それらが建築の空間に領域を侵入しているという。歴史的な芸術理論の精査と文化批評の深い洞察に裏打ちされた、読者に「読ませる」刺激的な書。[竹内有子]
2015/03/07(土)(SYNK)
志村ふくみ──源泉をたどる
会期:2015/01/17~2015/03/15
アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]
90歳にして現役の染織家・人間国宝である志村ふくみの60年にわたる創作の足跡をたどる展覧会。作家の道に入る契機を与えた母・小野豊とその指導者・上賀茂民藝協団の青田五浪や、工芸家・黒田辰秋、富本憲吉、芹沢銈介らの初期における志村の活動を支えた民藝運動の関係者たちの諸作品を含め、前期と後期を合わせて約90点の資料が展示された。志村の作品でなによりも注目すべきはその色の美しさ。自然の植物から採った材料から絹糸を染め、手機で織りあげる。ガラスケースに並べられた着物作品に対面する鑑賞者は、色彩の世界に没入するような感覚を覚えるだろう。色相の微妙な重なり、グラデーション、滲み、デザイン構成の全てが渾然一体となって視覚に訴えてくる。後期の展示でもっとも印象に残ったのは、《光の湖》(1991、京都国立近代美術館蔵)。その名の通り、フランスの印象派が行なったような、湖面に反射する光の輝きを染織作品に定着させた、作家の精神性を感じさせるポエティックな世界に深く魅了された。[竹内有子]
2015/03/07(土)(SYNK)
APPLE+ 三木健|学び方のデザイン「りんご」と日常の仕事
会期:2015/03/05~2015/03/31
ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]
デザイナー三木健氏が、大阪芸術大学の教授としてデザインを初めて学ぶ1年生のゼミナールの課題としたのが「りんご」。「りんご」をデザインの視点から観察・分析し、同時に観察と分析の方法を考え、新たな表現を導く。そうしたゼミナールの課題と学生たちの取り組み、生み出された成果が1階展示の主題である。課題が「りんご」である必然性はあるのだろうか。じっさいよく考えれば他にも適した題材はあるのかもしれない。しかし、組み立てられたカリキュラムを追っていくと、「りんご」がじつによく考えて選ばれたモチーフであることがわかろう。誰もが知っている身近なくだもの。概念的なりんごの姿はあっても、自然の産物であるからひとつとして同じ形、同じ色のものはない。詳細に観察していくと、私たちはりんごのことを知っていると思い込んでいるだけに過ぎないことに気が付く。手触り、味、食感もまたりんごの重要な要素だ。観察が終わったらりんごから得られた形、色などを制約条件として造形を行なう。机上の作業だけではなく、りんごを食材としたパーティーを企画することでコミュニケーションもデザインされる。学生たちはデザインを学ぶと同時にデザインの学び方も学び、人と人との結びつきも学ぶことになる。非常に優れた教育の実践記録としての展覧会はこのレビューが掲載されるときには終了してしまっているが、三木氏が自らカリキュラムを解説する映像が公開されているのでぜひ見て欲しい。造形教育に携わる人にはきっとなにかしらのヒントが得られるはずだ。[新川徳彦]
2015/03/05(木)(SYNK)
京を描く──洛中洛外図の時代
会期:2015/03/01~2015/04/12
京都府京都文化博物館[京都府]
京都の町はこれまでに幾度となくくり返し描かれてきた。なかでも京都の景観、寺院・城郭、名所や街並を鳥瞰図に写し、箔や金彩を用いて鮮やかに描きだした「洛中洛外図屏風」という形式は、16世紀初頭の戦国時代に出現し、次第に様式化しながら江戸時代後期まで続いた。本展は、重要文化財を含む数々の「洛中洛外図屏風」を中心に市街図や風俗絵などおよそ60点から京都の町の移り変わりを紹介する展覧会。都を一望する、すなわち京都の人々の営みをひとつの視野に収めること、そこには視覚をとおした支配の構造をみてとることができる。「洛中洛外図屏風」は時の支配者たちにとっては権力の象徴だったにちがいない。
とはいえ、多くの「洛中洛外図屏風」は人々の生活を生き生きと描きだし当時の風俗を今に伝えている。《洛中洛外図屏風》(室町時代後期、太田記念美術館蔵)には、大人や子ども、庶民や僧侶から高い身分とおぼしき人までが桜咲く清水寺を思い思いに訪れる賑やかな様子が描かれている。《洛中洛外図屏風》(桃山~江戸時代前期、八坂神社蔵)では、祇園祭の山鉾巡航と群衆、そのかたわらには刃傷沙汰の騒動に右往左往する人々、塀を隔てたところには案内人に導かれている南蛮人の一行など、悲喜交々の光景が画面のあちこちで繰り広げられている。《洛中洛外図屏風》(江戸時代前~中期、住吉具慶)には、二条城の門前の行列、鴨川の川床で遊興にふける人々、職人や商人が忙しそうに立ち働く家並みなどある日の日常風景が切り取られている。どの図も隅々まで丹念に愛情深く描かれていて、作品全体を眺めるうちにひとつ、またひとつとそれらの描写に目がとまり、気づいた時には細々としたところまで凝視している。発見の楽しみは尽きないのである。[平光睦子]
2015/03/04(水)(SYNK)