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京を描く──洛中洛外図の時代

2015年04月01日号

会期:2015/03/01~2015/04/12

京都府京都文化博物館[京都府]

京都の町はこれまでに幾度となくくり返し描かれてきた。なかでも京都の景観、寺院・城郭、名所や街並を鳥瞰図に写し、箔や金彩を用いて鮮やかに描きだした「洛中洛外図屏風」という形式は、16世紀初頭の戦国時代に出現し、次第に様式化しながら江戸時代後期まで続いた。本展は、重要文化財を含む数々の「洛中洛外図屏風」を中心に市街図や風俗絵などおよそ60点から京都の町の移り変わりを紹介する展覧会。都を一望する、すなわち京都の人々の営みをひとつの視野に収めること、そこには視覚をとおした支配の構造をみてとることができる。「洛中洛外図屏風」は時の支配者たちにとっては権力の象徴だったにちがいない。
とはいえ、多くの「洛中洛外図屏風」は人々の生活を生き生きと描きだし当時の風俗を今に伝えている。《洛中洛外図屏風》(室町時代後期、太田記念美術館蔵)には、大人や子ども、庶民や僧侶から高い身分とおぼしき人までが桜咲く清水寺を思い思いに訪れる賑やかな様子が描かれている。《洛中洛外図屏風》(桃山~江戸時代前期、八坂神社蔵)では、祇園祭の山鉾巡航と群衆、そのかたわらには刃傷沙汰の騒動に右往左往する人々、塀を隔てたところには案内人に導かれている南蛮人の一行など、悲喜交々の光景が画面のあちこちで繰り広げられている。《洛中洛外図屏風》(江戸時代前~中期、住吉具慶)には、二条城の門前の行列、鴨川の川床で遊興にふける人々、職人や商人が忙しそうに立ち働く家並みなどある日の日常風景が切り取られている。どの図も隅々まで丹念に愛情深く描かれていて、作品全体を眺めるうちにひとつ、またひとつとそれらの描写に目がとまり、気づいた時には細々としたところまで凝視している。発見の楽しみは尽きないのである。[平光睦子]

2015/03/04(水)(SYNK)

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