artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
The Legacy of EXPO'70 建築の記憶─大阪万博の建築
会期:2017/03/25~2017/07/04
EXPO'70パビリオン[大阪府]
1970年に行なわれた大阪万博(日本万国博覧会)の建築に焦点を合わせた企画展。会場には、アメリカ館、英国館、せんい館、富士グループ・パビリオン、日立グループ館、三菱未来館などの建築模型や図面、記録写真、映像などが並び、EXPOタワーの模型や解体過程の記録写真も展示された。当時の人々は大阪万博を見物して、21世紀にはこんな街並みが広がっているのだろうと思い込んでいた(筆者もその一人)。しかし47年の時を経た今、パビリオン建築はむしろレトロフューチャーな趣。われわれはすでに「未来」を追い越してしまったのかもしれないと、ちょっぴり感傷的な思いに浸ってしまった。それはさておき、大阪万博は建築の一大実験場であり、パビリオンには、エアドームや吊り構造、黒川紀章らが提唱したメタボリズムなど、当時の最新技術や思想がたっぷりと注ぎ込まれていた。つまりパビリオン建築は、建築が手作りの1点ものから量産の工業製品へと移り変わる時代のシンボルであり、宣言でもあったのだ。本展の意義は、こうした事実を評論や論文ではなく、当時の資料を基にした展覧会で示した点にある。
2017/03/24(金)(小吹隆文)
五十嵐淳/五十嵐淳建築設計事務所《MUSEUM STORE》
[北海道]
札幌の二条市場近くにあるデザインのアンテナショップ《MUSEUM STORE》へ。札幌軟石の外壁、木造3階建て、大正時代の倉庫に、白い家型を複数挿入しつつ、店主のセルフビルドによって、リノベーションしたもの。2階に五十嵐淳の事務所、超日本展を開催中のギャラリー、アトリエなどが入る。
2017/03/17(金)(五十嵐太郎)
《北海道大学総合博物館》
[北海道]
1929年完成の旧理学部本館を使い、総合大学の強みを活かしたヴォリュームのある施設だった。1階の北大の歴史、ラボ、カフェなどはデザインが入った展示空間である。ただ、各学部や各学科のセクションになると、モノは面白いが、展示デザインが全然なかったり、見せるモノがないなど、ばらつきが目立つ。
2017/03/17(金)(五十嵐太郎)
北海道卒業設計合同講評会2017
会期:2017/03/16
北海道大学 遠友学舎[北海道]
北海道卒業設計合同講評会2017の審査を、五十嵐淳、島田陽、増田信吾と行なう。総数が多くないので、参加者全員が、3分の発表+7分の講評を与えられた贅沢な場だった。審査員と学生が近い場はよい。最終的に八木悠が最優秀に選ばれる。火葬場はよくあるテーマだが、絵も詩もよく、身寄りのない人の施設ゆえに、死者が一人称で語る空間の構想は初めてかもしれない。また、せんだいデザインリーグのエスキス塾でも見た作品だが、駒場寮の経験者としては学生の自治・共同体を考える案を応援するという意味で、個人賞には鳴海舜の京都の大学寮を選ぶ。
2017/03/16(木)(五十嵐太郎)
マルセル・ブロイヤーの家具:Improvement for good
会期:2017/03/03~2017/05/07
東京国立近代美術館[東京都]
戦後、パリの《ユネスコ本部》やニューヨークの《旧ホイットニー美術館(現メトロポリタン美術館分館)》を設計したデザイナー、建築家・マルセル・ブロイヤー(1902-1981)の家具デザインを紹介する展覧会。ブロイヤーの家具といえばイメージされるのはスティールパイプを使った《クラブチェアB3》(ワシリーチェア)。1925年、23歳のときに考案したこの椅子をブロイヤーは自転車のハンドルから着想したといわれている。それ以前から鋼管を用いた家具は存在した。ジークフリート・ギーディオンによれば、1830年頃にはベッドに鉄パイプを用いる試みがなされ、1844年には鉄パイプを曲げてつくった椅子が現れている。しかしながらその椅子は木製の椅子を模倣し、パイプは木や象嵌に見えるように塗装され、座面にはクッションがはめ込まれていた(榮久庵祥二訳『機械化の文化史』鹿島出版会、2008、456-457頁)。これに対してブロイヤーの椅子は継ぎ目がないようにみえるパイプで構造をつくり、座面と背もたれはテンションをかけた布あるいは革によって構成され、非常に軽く見える。鋼管パイプを用いたとはいえ、木製のデザインを踏襲した椅子とはまったく異なる思想によるものだ。その思想は、バウハウスのウォルター・グロピウスが1921年頃から取り組んでいたユニット住宅案に呼応している。すなわち、部材の規格化、共通化によるコストダウンである。これらは素材や技術の問題であるが、他方で当時現れてきたモダンな建築にふさわしい新しい家具への需要があった。会場に掲出されているインテリア写真にロココ調猫脚の椅子、ソファがあったらと考えてみれば、その要求が切実なものであったことが理解できよう。建築家たちはしばしば自ら家具をデザインしたが、ブロイヤーの場合は家具からスタートして建築へと向かった。そこにもまたグロピウスの思想が大きく影響している。
本展では、主として時系列順に、ブロイヤーがヴァイマール時代のバウハウスで手がけた木製家具から始まり、デッサウ時代のスティールパイプの椅子やネストテーブル、スイス・イギリス在住時代のアルミニウムの椅子や、同様の構造を持ったプライウッドの椅子、1937年にアメリカに渡り建築へと仕事の比重を移す中で手がけた家具と住宅建築を見せ、最後にブロイヤーと日本──芦原義信──との関わりが紹介されている。見所はスティールパイプ以前の木製の家具と、バージョンが異なる4つの《クラブチェアB3》だろう。特に後者の微妙な差異(たとえば溶接がビス留めに変更されている)からは、量産に向けて行われたデザインの調整と合理性追求のプロセスが垣間見えて興味深い。
さらに本展では展示デザインに力が入っていることを付記しておきたい。モノトーンでシンプルに見える展示台は、よく見ると色や素材感にこだわっていることが分かる。ガラスケースを用いて資料、写真、テキストをレイヤーに重ねた年表のデザインも面白い。会場構成はLandscape Products。サンセリフ書体で統一されたモダンなデザインの図録は、資料集としても充実した内容だ。[新川徳彦]
2017/03/15(水)(SYNK)