artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
安達揚一/(株)SPAZIO建築設計事務所《愛島の垣》
[宮城県]
名取市に向かい、安達揚一による《愛島の垣》を見学する。大型の商業施設に向き合う新興住宅地の角地ゆえに、その視線を遮るべく、レベルや断面の構成を調整したり、垣をまわして前庭を確保し、同時に遠くの山や隣の庭への眺めも獲得する。気持ちがよい吹抜けを中心に家族の場がつくられていた。階段の下には、父のこもる部屋もあった。
2017/03/05(月)(五十嵐太郎)
佐伯裕武+デザインホーム《七読の家》
[宮城県]
最後の10件目は仙台市内の佐伯裕武による《七読の家》へ。これも震災による建替えだった。施主が研究者ゆえに、大量の本をいかに収蔵するかがテーマである。中央の書庫に閉じ込めず、家の内壁をすべて本棚とし、さまざまな読書の場をつくり、むしろ内側をサービスのコア空間とし、高齢者対応の空間とする。壁が本棚になっているために、通常の窓は少ないが、2階に設けたハイサイドからの光が降り注ぐ。
2017/03/05(月)(五十嵐太郎)
福士譲/フクシアンドフクシ建築事務所《橋本の家》
[青森県]
東北住宅大賞の現地審査を再開し、仙台から青森へ。まわりにカラフルな建築があり、そうした周辺環境を反映するかのように、この住宅も独特の色を持つ。なお、近くにフクシ事務所が手がけた店舗のリノベーションも2件あった。建築写真家が暮らす《橋本の家》では、内側に凹んだ空間を半分ルーバーで覆い、リビングと中庭のプライバシーと眺めを確保しつつ、上部にサンルームを置く。青森らしく、雪や光のコントロールがテーマの住宅である。
写真:上2枚、左下=《橋本の家》、右下=フクシによる花屋
2017/03/04(土)(五十嵐太郎)
蟻塚学建築設計事務所《地平の家》/伊東豊雄建築設計事務所《大館樹海ドーム》
[秋田県]
秋田の大館に向かい、蟻塚学による《地平の家》へ。ほかの作品と同様、東西方向に長い敷地で、いつもの手法を使いつつ、今度は外壁において腰まで土を埋めた中温のサンルームに挑戦している。前面と背面の庭は雪で埋まっていたが、塀で余計な視界を遮りながら、遠くの山だけを効果的に眺めに組み込む。角を丸めた、カプーア的な茶室も含め、確実にデザインを洗練させている。続いて、伊東豊雄としては早い時期の公共建築である《大館樹海ドーム》に立ち寄った。遠くから見ても印象的なシルエットである。まわりを水で囲み、ダイナミックな木造の大架構を持つ内部は完全に野球場の仕様になっていた。
写真:左3枚=《地平の家》、右3枚=《大館樹海ドーム》
2017/03/04(土)(五十嵐太郎)
岸本和彦/(有)acaa建築研究所《余白の杜》
[岩手県]
岩手の北上にて、岸本和彦による《余白の杜》を見学した。全体のヴォリュームを分解し、それぞれの隅をかき取り、斜めにつながる空間の単位を連結していく興味深い構成を持つ。また、これらの小さな平家群によって、2つの中庭を囲む。その結果、大きいのか小さいのかがわからない、不思議な距離感の空間が生じていた。つくりすぎという意見も出そうで、好みが分かれるところだが、破綻なく演出しきった感はお見事である。
2017/03/04(土)(五十嵐太郎)