artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

フィールドオフィス・アーキテクツ+ 聲遠の作品群(宜蘭誠品書店、 王光小道ほか)

宜蘭県[台湾、宜蘭県]

街の中心である三日月ショッピングプラザの宜蘭誠品書店も、彼らの手がけたインテリアだが、樹の模倣、緑色、床の傾斜によって、屋外プロジェクトとの視角的な共通性を維持する。向かいの宜蘭美術館は台湾銀行のリノベーションだ。旧建築との対話によって、複雑な空間/デザインが生まれている。そして、新しく設けられた屋上からは街を望む。
宜蘭酒造所再生は、やはり緑の共通色を用いながら、古い配管などを再利用しつつ、広大な工場や倉庫を地域に開放されたミュージアムや商業施設の場に変えている。続いて、楊士芳記念林園は、初期のプロジェクトだけに、多様な素材と手法による密度の高いデザインだった。ここでも建築とランドスケープが一体になっている。
王光小道は、普段なら歩かない、家のあいだを通りぬけるような公道をつくったり、電力会社の壁を切り取り、その庭を提供し、プライベートとパブリックの境界を揺るがす。その先にあるのが、宜蘭社会福祉センターだ。大晦日とはいえ、街は十分に温かく、風通しのいい陰だまり、ベンチの提供などがありがたい。社会福祉センターからは西堤屋根付橋のブリッジを経て、宜蘭河堤グリーンベルト、そして、対岸に渡る津梅橋遊歩道へとつなぐ。特に橋の脇に添えられた小さな空中歩廊は揺れ動き、水上を歩くような刺激的な空間体験である。いずれもセンスがキレキレというよりも、随所に楽しさやユーモアが感じられるデザインだ。

写真:左=上から、《宜蘭誠品書店》、《宜蘭美術館》、《宜蘭酒造所》、《楊士芳記念林園》 右=上から、 王光小道、《宜蘭社会福祉センター》、《西堤屋根付橋》、宜蘭河堤グリーンベルト、津梅橋の脇に添えられた空中歩廊

2016/12/31(土)(五十嵐太郎)

フィールドオフィス・アーキテクツ+ 聲遠の作品群(宜蘭駅周辺)

宜蘭県[台湾、宜蘭県]

台北からバスに乗って、初の宜蘭へ。山を抜けて、目的地に近づくと、田園風景のなかに家がちらほら見える。ここでフィールドオフィス・アーキテクツ+ 聲遠の作品群をまわった。ギャラリー間の個展でも紹介していたように、街のあちこちに連続的に彼らのプロジェクトが継続/展開している。昔は弘前の前川國男、釧路の毛綱毅曠、直島の石井和紘らがそうした仕事をしていたが、いまの日本では難しそうなまちづくりが本当に実現している。まず、宜蘭の古い駅は、動物などメルヘンチックなペイントがなされ、その正面に大樹群を模した緑の有機的造形、DiuDIUDang森林の大屋根が広がる。しかも、空飛ぶ汽車を吊り、テーマパークのようだ。ランドスケープもうねうねと隆起し、ロマンティック・デコンというべき広場が出迎える。駅横の観光案内所も彼らのリノベーションだった。
隣接するにぎやかな中山小学校体育館から、進行中のプロジェクトを経て、微細な介入による156通りの小径、自然と混ざっていく旧城新掘割のランドスケープは、ポストモダンや象設計集団の用賀プロムナードなどを想起させるデザインである。点としての建築ではなく、線としてプロジェクトが連続している。

写真:左=上から、宜蘭へ向かう道中の風景、《宜蘭駅》 左下2枚=DiuDIUDang森林 右上=156通りの小径 右下2枚=旧城新掘割

2016/12/31(土)(五十嵐太郎)

花博公園、台北ビエンナーレ2016ほか

会期:2016/09/10~2017/02/05

花博公園、台北市立美術館[台湾、台北市]

圓山駅から花博公園を歩く。ペットボトルをリサイクルし、夜はLEDで内部から光る壁をもつARTHUR HUANGのエコ・アークなど、2010年の博覧会開催時に訪れたパヴィリオンがいくつか残る。台北市立美術館の南側エントランスに接続された新しいガラスのチューブから入る。台北ビエンナーレ2016はレベルが高く、本格的な内容だった。陳界仁によるハンセン病施設の映像がやはり強烈である。シバウラハウスでのパフォーマンスも紹介され、写真に僕の背中が映っていた。ほかにXavier LE ROYによるコレオグラフィーの実演、建築ではカンボジアのPEN Sereypagnaなど。2階では、フランシス・アリスの小を散りばめる。また、ビエンナーレがスタートして10周年ということもあり、1996年から2014年の歴史を振り返るメタ展示も開催していた。継続によって確かな蓄積になっている。地下では、台北アートアワード2016展を開催し、1980年代生まれのさまざまなタイプの若手作家を紹介していた。3階では、1941年生まれの女性写真家、王信の大規模回顧展が開催されていた。

写真:左=上から、《エコ・アーク》、《台北市立美術館》の南側エントランス、Xavier LE ROY、PEN Sereypagna 右=上から、フランシス・アリス、10周年展示、台北アートアワード2016展、王信回顧展

2016/12/30(金)(五十嵐太郎)

郵政博物館、台北二二八国家紀念館

[台湾、台北市]

未踏だったミュージアムのエリアを散策する。郵政博物館へ。新年を意識した干支の切手特集もよかったが、各国のアーカイブが充実し、日本セクションではまる。個人的にも昔収集していたが、最も絵を覚えていたのが、1976-77年発行の切手だったから、その頃に熱中していたことがわかる。それにしても昭和時代は、国立の建築がオープンするたび、記念切手が出ており、祝福されたことがわかる。無駄使いとバッシングされるいまとはまるで違う。
隣の二二八国家記念館は、かつて絵も展示した1930年代の教育館を保存し、事件の記憶を伝える施設にリニューアルする。台湾は近代建築を本当によく残しており、感心させられる。悲劇を伝える常設エリアは、リベスキンドの《ユダヤ博物館》の影響を受けたものと思われる、斜めや裂け目の展示デザインだった。企画は戦争博物館などを紹介する。

写真:左列=《郵政博物館》 右列=《台北二二八国家紀念館》

2016/12/30(金)(五十嵐太郎)

《伊東豊雄的劇場夢》觀念建築展─探索建築大師的哲學思維

会期:2016/08/26~2017/01/31

台中国家歌劇院[台湾、台中市]

1年9カ月ぶりの台中国家歌劇院へ。内装がないときは、ひょうたんの空間形式がわかりにくいのが気になったが、完成したインテリアを体験すると、それとは別の明るい洞窟の楽しさがあることに納得した。運営も開放的で大勢の来客でにぎわう。ホールのホワイエも自由に見学でき、格式のあるヨーロッパの劇場だと逆に難しいかもしれない。1階、5階、屋上にVVG系列の店舗が入り、低密度の商業スペースとしても豊かである。オープンを記念して、伊東豊雄の観念建築展が開催中だった。人気のコンテンツで、約1時間待って入場した。いくつかの模型が吊るされるなか、彼のエマージング・グリッドの幾何学的な思想を表現する映像が、うねうねした壁や床に投影される。これを観客はでかいクッションに寝転びながら、リラックスして鑑賞するのだが、なかなかよい。ところで、今回いくつか台湾ガイドを見たら、台中自体が掲載されていない、もしくはあっても、国立美術館もオペラハウスも紹介していない。日本人は美術館も建築体験も興味がないということか。

写真:左上3枚=《台中国家歌劇院》 左下=VVG系列店 右上2枚=伊藤豊雄展、右下=《台中国家歌劇院》庭

2016/12/29(木)(五十嵐太郎)