artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

コミュニタス・サリハラほか

[インドネシア、ジャカルタ]

コミュニタス・サリハラは、民間のアート複合施設である。ANDRAによる事務棟、Adi Purnomoのフレキシブルな小劇場、Markoの円形のギャラリー、そして案内していただいたDanny Wicaksonoの複合施設が、立体的に連結しながら、それぞれのデザインの個性を発揮している。Dannyが手がけたのは4番目に完成したもので、従業員の居住棟、そしてダンスや音楽の練習や録音のスタジオ、レジデンスなどを縦に積む。階段やエレベータなど、上下の動線を完全に外部化するという思い切った工夫がなされていることに驚かされた。複雑な規制から導かれたデザインだが、暖かい気候だからこそ可能なゆるやかな空間である。隣棟とは屋上庭園も連結していた。3日目の最後は、Andra Matinが最初に手がけたプロジェクト、リノベーションによるギャラリー、カフェ、デザイン・オフィス、店舗の複合施設を訪れた。ここでも完全に閉じない、すなわち隙間が許される空間のあり方が自由でうらやましい。インドネシアの政治が変わった象徴的な1998年に誕生し、アートや建築の新しい運動に大きく貢献した歴史的な場所でもある。

写真:左=上から、サリハラ概観、Andra Matinによる事務棟、Adi Purnomoによる小劇場、右列=Dannyによる複合施設

2016/03/28(月)(五十嵐太郎)

ARTOTEL

[インドネシア、ジャカルタ]

ARTOTELは、abodayが設計した建築に、アーティストの作品を重ねたプロジェクトである。正面や側面の壁は巨大なグラフィティーで覆われ、各フロアで異なる作家が内装を担当する。また螺旋階段で登ったフロアに、若手を紹介するギャラリーを設ける。屋上は写真家が関与していた。見学後、その隣の古い教会に立ち寄る。幕を張り出して庇を設ける仮設的な増築が軽やかでいい。

写真:左=上から、ArtOtel外観、内観、右=上から、螺旋階段、ギャラリー、教会

2016/03/28(月)(五十嵐太郎)

《Studi-o Cahaya》ほか

[インドネシア、ジャカルタ]

竣工:2009年

ジャカルタの3日目は、まずMamostudioが設計した《Studi-o Cahaya》へ。正面が大型店舗のため、周囲に対しては閉じつつ、内部は斜めの壁を組み合わせ、時間に応じてさまざまな場所から天光を導く。リタイアした医者が施主であり、アートコレクターのため、ほとんど美術館のような空間だった。Cahayaでは、室内に水をめぐらせ、両サイドからその音に挟まれながら、伝統音楽をプレーヤーにかけて、親戚の子状態で、お昼をご馳走になり、ついつい長居してしまう。国立博物館は、オリジナルの古典主義の右側にその複製をつくり、ツイン建築とし、さらに背後に巨大なヴォリュームを増築している。

写真:左列=《Studi-o Cahaya》、右列=国立博物館

2016/03/28(月)(五十嵐太郎)

《Rumah Miring/Slanted House》

[インドネシア、ジャカルタ]

竣工:2015年

最後はブディ・プラドノの設計した《Rumah Miring/Slanted House》を訪問する。傾いたビルサイズの鉄骨のフレームにガラスの空間をはめ込む。ギャラリストがオーナーであり、随所にアートを展示し、1階の吹き放ちにオープンキッチンやプールを設け、パーティなどに対応する。巨大津波の後、インドネシアのアートシーンは変化したのかと質問すると、ほとんど関係ないという。そしてインドネシアは世界一幸せに暮らしている人たちだと付け加える。日本は深刻に考えすぎなのかもしれない。

2016/03/27(日)(五十嵐太郎)

《Andra Matin House》

[インドネシア、ジャカルタ]

インドネシアの現代建築のキーパーソンであるAndra Matinの自邸を訪問した。GAの雑誌やギャラリーでも紹介されているが、素晴らしいトロピカル・モダンの空間である。近代建築の基本的な手法をベースとしながら、長居したくなる気持ちのいい開放的な場所や親密なスケール感の空間をあちこちに生む。完全に閉じない内部、プール、鏡、造園などの技も効く。彼の自邸のすぐそばには、魅力的にリノベーションした設計事務所やカフェ・ギャラリー(彼の作品を展示中)、緑地があり、交通渋滞に悩まされない理想的な生活環境を構築している。逆に公共交通機関が整備されていないがゆえの都市の喧騒と混乱は、なるほどコールハースが子どものときにジャカルタで暮らしていた背景を納得できる。

写真:左=上から、Andra Matin自邸外観、内観、屋上、右=上から、Andra Matin事務所、カフェ・ギャラリー

2016/03/27(日)(五十嵐太郎)