artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

MoMA SP1

[アメリカ、ニューヨーク]

MoMAのPS1へ。いまや日本でもめずらしくなくないが、学校をアートの場にコンバージョンして使う先駆者である。ただ、やはり日本とアメリカでは、もとの学校の空間性能は違う。こちらは天井も高い。訪問時は、LAのアフリカン・アメリカンによるアートの歴史、パキスタンのベーコンみたいなBHABHAによる彫刻と絵画、ゲイでアウトサイダーアートのLANIGAN-SCHMIDT(身のまわりの素材で宗教的な作品を制作)、パゾリーニの映画を特集しており、空間だけではなく、展示もオルタナティブで興味深い。

2012/12/31(月)(五十嵐太郎)

ソロモン・R・グッゲンハイム美術館

[アメリカ、ニューヨーク]

床が傾き、壁が湾曲しているために、ときどき美術系の人から最悪と言われる、フランク・ロイド・ライトのグッゲンハイム美術館へ。
とはいえ、やはりこの空間は圧倒的に素晴らしい。確かに、現代美術や大きな彫刻には不向きの特殊解だが、開催中だった白黒のピカソ展は内容もよく、絵画のサイズがほどほどなので、展示が空間をうまく使いこなし、相乗効果を上げている。ちなみに、
以前、グッゲンハイムで見たザハ・ハディド展は、床が傾いているなら、ドローイングも斜めにかけちゃえば、という度肝をぬく手法だった。今回、吹抜けの脇に付随する部屋はかなり天井が低いのに、カンディンスキーや1900年前後の絵画をうまく展示すると、むしろ親密さを演出し、空間のマジックを感じた。

2012/12/31(月)(五十嵐太郎)

ニューミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート

[アメリカ、ニューヨーク]

SANAAの手がけたニューミュージアムへ。単一の建物を撮影した写真だとわからないが、実際に街を歩くと、積層したヴォリュームをずらすのは、高層化されていないまわりの建物のスケールを意識したものと実感できる。これは移動にエレベーターを使う、いわばワタリウム型の都市美術館だが、室内においては、各階のヴォリュームのズレを使いながら、異なる方向に細長いトップライトや階段を設け、空間に変化を与えていた。

2012/12/30(日)(五十嵐太郎)

ディア・ビーコン美術館

[アメリカ、ニューヨーク]

美術界からの評価が高いニューヨーク近郊のディア・ビーコンへ。
巨大工場をまるごと現代美術の空間にしたもの。なるほど、建築家は余計なことすんなと言いたくなるカッコよさだ。いまあるジャッドやデマリアはそれほどでもなかったが、サンドバッグの糸による幾何学、ルウィットの手描き数学空間、マイケル・ハウザーらの作品がよかった。
外光が届かない地下は、国立近代美術館でもやっていたような初期ビデオアートの特集展示を開催している。全体としては、リチャード・セラ、ハウザー、ロバート・スミッソン、ダン・フレヴィンなど、ミニマリズムやランドアートが多く、建築に影響を与えた作家が多い。チェンバレインの車をぐしゃぐしゃにした彫刻もゲーリーへの補助線が引けそうだ。

2012/12/29(土)(五十嵐太郎)

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

[アメリカ、ニューヨーク]

MoMAは噂に聞いていたが、大量の人でごったがえし、まともに鑑賞できる状況でなかった。近・現代美術でこれだけの集客力を誇ることに驚かされる。巨大ミュージアムであるがゆえに、圧倒的な物量がこうしたポピュラリティを獲得させるのか。同時に複数開催している企画展もすごいが、コレクション/常設の規模とクオリティこそが真価であり、残念ながら日本が簡単に追いつけない側面だと実感する。しかも東京とは違い、交通の便がいい都心に超巨大美術館が存在し、レストランもしっかりとおいしい。
6階では、ちょうど日本の前衛芸術展を開催中だったが、こうして世界の文脈からみると、全体的にじめっとしてどろどろ、色調が少し暗いのが日本アートの特徴ではないかと改めて思う。3階の建築部門は、ユートピア的作品の特集展示だった。コールハースのエクソダス、チュミのマンハッタン・トランスクリプト、セドリック・プライス、磯崎新、アーキグラム、ハンス・ホライン、アルド・ロッシ、ディコンストラクティヴィズム、最近亡くなったレベウス・ウッズから現代まで、建築が現代美術と共に位置づけられている。日本の美術館ではお目にかかることができない、うらやましい環境だ。2階は、80年代以降の美術フロアだが、ここでも1988年にMoMAで開催され、大きな話題を呼んだ脱構築主義の建築展を自ら歴史的に位置づけている。

写真:上=外観、中=室内、下=3階の建築部門展示

2012/12/28(金)(五十嵐太郎)