artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

建築卒業設計展 dipcolle 2013「ディプコレ座談会」

会期:2013/03/17

名古屋市立大学 千種キャンパス[愛知県]

名古屋の卒計イベント、dipcolle2013に藤村龍至、家成俊勝、遠藤幹子、米澤隆らとともにゲストとして参加した。新発見という案がなかったので、一番議論が展開できそうな金城拓也の大阪・空堀プロジェクトを推すことにしたが、個人賞は家成さんとかぶったので、現地リサーチが分厚い杉本卓哉のまちを紡ぐかべを選んだ。また鳥取砂丘を敷地に選んだことで、鈴木理咲子の案もよいと思った。さて、今回はイベントのデザインについて、いろいろと考えさせられた。50人程度の出展者なので、3時間半ぶっ通しだったが、その場にいた全員の学生の話を聞くことができた。これは巨大化したSDLには不可能なこと。参加者の満足度は高いはずだ。また一位を決めないシステムになっていることから、プレゼに進んだ8人の案をだんだん絞らないため、どの案にも時間をかけられる。またプレゼにもれた案も、最後にだいぶコメントの時間をとることができた。これもおそらく、参加者の満足度は高いと思われる。一方で審査員が衝突するバトルを見たい人には物足りないだろう。無理にでも、一位を決める形式をとることで、審査員を追い込み、価値観を競わせる場に誘導しないからだ。もちろん、一位を決めず、多くの案が語られるのと、一位を決めるのと、どちらの方法もありだろう。一方で、疑問に感じたこともある。例えば、8人のプレゼの前に各ゲスト賞を発表すること。通常はプレゼを聞いて、さらに理解が深まり、しばしば評価が変わるからだ。また聴衆にとっても、どれがゲスト賞になるかという楽しみがなくなるし、ゲスト賞からもれた学生にもかわいそう。そしてよくないと思ったのは、審査員と学生の投票を混ぜて、「大賞」を決めること。3年前に目撃したのと同様、明らかに地元の大学が有利になり、遠くからアウェイで参加した学生は疎外感を味わう(審査員も)。実際、5人中2人の審査員が投票した案ではなく、結局審査員が投票しない案が大賞に選ばれた。かといって、dipcolleの学生投票をやめるべきと言っているわけではない。審査員の票が影響をもたないなら、混ぜるなというのが主張である。なぜならば、審査員が投票したことで結果の権威づけをして、利用された感じがするからだ。またあえて一位を決めないイベントだから、「大賞」と呼ばない方がよいのではないだろうか。地元が簡単に有利になるシステムは、イベントが全国区に広がりにくい。SDLは最初の9年間で東北大学のファイナリストは確か計2名のみ、10年目に初めて日本一が出た。これが1年目から地元大の優勝が続いたら、今のようにはならなかっただろう。むろん、意識的にそういうイベントをデザインしているのであれば、地域限定でもよい。

2013/03/17(日)(五十嵐太郎)

カタログ&ブックス│2013年3月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

平成24年度[第16回]文化庁メディア芸術祭受賞作品集

企画・編集:文化庁メディア芸術祭事務局(CG-ART協会内)
発行日:2013年02月12日
サイズ:A5版、368頁
価格:1,500円(税込)

今年度の全ての受賞作品、審査委員会推薦作品、功労賞の詳細、各部門審査委員の講評および対談を収録した受賞作品集。16年間のメディア芸術祭のあゆみが分かる年表付き。
文化庁メディア芸術祭サイトより一部抜粋]


路上と観察をめぐる表現史
考現学の「現在」

著者:松岡剛、中谷礼仁、内海慶一、田中純、石川初、南後由和、みうらじゅん、中川理、福住廉
発行日:2013年01月25日
発行所:フィルムアート社
サイズ:A5判、240頁
価格:2,310円(税込)

観察の名手たちと、「つくり手知らず」による、路上のマスターピース。今和次郎らが関東大震災を機に始めた「考現学」とは、東京の街と人々の風俗に注目し、生活の現状を調査考察するユニークな研究でした。その後、1986年に結成された路上観察学会をはじめ、「路上」の事物を「観察」することで市井の創造力に注目する活動が、現在にいたるまでさまざまな分野で展開されています。広島市現代美術館で開催される「路上と観察をめぐる表現史―考現学以後」展では、観察者が路上で発見した創作物をあらためて紹介するとともに、観察/発見という行為が「表現」に昇華する様子を検証します。本展の公式書籍である本書は、出品作家による作品図版・貴重資料はもとより、都市論、建築学、表象文化論、美術批評などさまざまなフィールドの論考やコラムを収録し、路上と観察をめぐる壮大なクロニクルを多角的に考察していきます。
フィルムアート社サイトより]


イメージの進行形
ソーシャル時代の映画と映像

著者:渡邉大輔
発行日:2012年12月20日
発行所:人文書院
サイズ:四六判、324頁
価格:2,415円(税込)

ゼロ年代批評の到達点にして、新たなる出発点 ネットを介して流れる無数の映像群と、ソーシャルネットワークによる絶え間ないコミュニケーションが変える「映画」と社会。「表層批評」(蓮實重彦)を越えて、9.11/3.11以後の映像=社会批評を更新する画期的成果、待望の書籍化。 ウェルズから「踊ってみた」まで、カントから「きっかけはYOU!」まで「今日のグローバル資本主義とソーシャル・ネットワーキングの巨大な社会的影響を踏まえた、これまでにはない新たな「映画(的なもの)」の輪郭を、映画史および視覚文化史、あるいは批評的言説を縦横に参照しながらいかに見出すかーーそれが、本書全体を貫く大きな試みだったといってよい。つまり、筆者が仮に「映像圏Imagosphere」と名づける、その新たな文化的な地平での映像に対する有力な「合理化」のあり方を、主に「コミュニケーション」(冗長性)と「情動」(観客身体)というふたつの要素に着目しつつ具体的な検討を試みてきたわけである。」 [人文書院サイトより]


梯子・階段の文化史

著者:稲田愿
発行日:2013年01月25日
発行所:井上書院
サイズ:B6判、192頁
価格:1,890円(税込)

古今東西にみる梯子・階段は、グランド・デザインに組み込まれたデザイン性の高いものから、日常生活に密着したごく素朴なものまで、その形態や用途も含めてさまざまで、その多くが後者のような民衆の文化や現実の生活に密着した存在であることが見えてくる。本書は、建築の発生のはるか以前から、風土や生活の必要性の中から生まれた梯子や階段について、370余点に及ぶ図版・写真等の絵的資料を中心に簡潔にまとめたものである。その誕生の時期や由来、用途、木工技術と材料、階段にまつわる数々の疑問点、家具としての歴史、安全性の考察等、古代から現代までの梯子と階段をあらゆる角度から詳述した唯一の書。
井上書院サイトより]


現代建築家コンセプト・シリーズ14
吉良森子 これまで と これから ― 建築をさがして

著者:吉良森子
企画・編集:メディア・デザイン研究所
発行日:2013年03月10日
発行所:LIXIL出版
サイズ:A5判、127頁
価格:1,890円(税込)

オランダを主な拠点に活躍する吉良森子は、長い時間のスパンのなかで建築を考えている。16世紀末から幾度も改修が繰り返されてきた「シーボルトハウス」や19世紀末に建てられた教会の改修を手がけた経験から、吉良は新築の設計を手がける際にも、その建築が将来の改修でいかに「変わる力」を持つことができるかを考えるようになったという。数十年、数百年の間、改修を重ねながら生き生きと使い続けられる建築とはどのようなものなのか。そこに至るまでの過去「これまで」と「これから」を生きていくクライアントや場所と近隣との出会いからひとつの建築が生まれる。土地や建築、歴史、かかわる人々との対話から始まる吉良森子の設計プロセスが丹念に描き出される一冊。バイリンガル
LIXIL出版サイトより]

2013/03/15(金)(artscape編集部)

第6回 JIA東北住宅大賞2012 第2次審査(現地審査)

会期:2013/03/12~2013/03/14

[青森県、岩手県、秋田県、宮城県、山形県、福島県]

毎年恒例のJIA東北住宅大賞の現地審査で、古谷誠章さんと3日間の強行軍だった。今回は8作品で、初めて東北六県すべてを一気にまわることになった。特に2日目は、岩手─青森─秋田─宮城─福島を一日で移動するスケジュール。改めて東北の広さを感じる。青森、秋田、山形では、豪雪の風景も見ながら、東北らしさが強く表われる住宅を見学し、卒計審査と頭を切り替え、施主や建築家の思いをうかがう。随所に東日本大震災の影響も感じる。災害後の活動についても、現地にいる建築家だからこその苦労とリアリティをいろいろと聞くことになった。残念ながら、メディアであまり伝わっていないが。さて、今回の東北住宅大賞は、蟻塚学による弘前の《冬日の家》である。東西に思い切り細長いヴォリュームをとって、完成度の高い可変性のある空間を実現した。続いて優秀賞は、3つ選ばれた。北海道の灘本幸子さんが設計した《北上の家》は、断熱性の高い分厚い白い壁で、光を均質に散らし、内部に西欧の街のような空間を生み出す。齋藤史博による《かわまた「結の家」》は、周辺の環境を生かしたシンプルな構成ながら、施主がさらに住空間を個性的に成長させていることに驚かされた。仙台市岩切の手島浩之の《森を奔る回廊》は、雑木林を避けつつ、T字のヴォリュームを巧みに配置し、自然を感じる家だった。そして以下が奨励賞である。SOYsourceによる《M先生の家》は、横に長くひきのばした家型が印象的だった。松本純一郎の《スリーコートハウス》は、ここぞという見せ場を用意した彫刻的な建築である。納谷兄弟の《新屋の住宅》は、雪が滑降する屋根のヴォリューム操作が巧い。渋谷達郎の《白鷹の家》は、眺望を確保しつつ、白いライトボックスを上にのせた興味深い構成だった。

写真:左、上から、蟻塚学《冬日の家》、齋藤史博《かわまた「結」の家》、SOY source《M先生の家》、納谷兄弟《新屋の家》、右、上から、灘本幸子《北上の家》、手島浩之《森を奔る回廊》、松本純一郎《スリーコートハウス》、渋谷達郎《白鷹の家》

2013/03/12(火)~14(木)(五十嵐太郎)

せんだいデザインリーグ2013 卒業設計日本一決定戦

会期:2013/03/09~2013/03/10

せんだいメディアテーク、東北大学百周年記念会館川内萩ホール[宮城県]

SDL2013、すなわち卒業設計日本一決定戦に審査員として参加した。実はファイナリストを決める際、爆弾にできると判断した作品をひとつ入れようとしたのだが、それがかなわず、困ったことになったなあと思っていた。強く推すのと、強く批判されるような案がないと議論が盛り上がらないからである。経験的にまあまあイイ作品ばかりだと面白くない。さて、ファイナリストに残った10名中7名に投票していたのだが、審査の過程で投票していなかった高砂充希子の「工業と童話」を推すことにした。彼女のプレゼンテーションに対し、童話が中途半端と批判したら、堰を切ったように語り始めたからである。また同じく審査員だった内藤廣さんによると、彼女が東京でプレゼしたときは完全にパブリンとファクタローのキャラを封印していたらしい。そもそも、こうしたイベントでは、デザインが優れているだけでは、入れないことにしている(それは建築家や大学の先生に褒めてもらえばいい)。なぜ投票するのかの理論を発見できるような案を推したい。妄想的な寓話を構築する一方、建築の言語でもきちんと説明可能な二重性を、ここまで成し遂げた学生を初めて目撃した。だから、票を入れた。京都大学の渡辺育は光と音のダンテウムと言うべき圧倒的な案だと思っていたので、何度も彼が説明を付加できるように質問したが、結局、自分にとっての「発見」がなかったので最後は票を外した。残り2つで推した田中良典のお遍路巡り建築と、柳田里穂子の遺言の家は、よくわかる案だっただけに、個人的には逆に伸びしろがなかった。遺言の家が初遭遇なら、もっと推したと思う。しかし、アンフェアかもしれないが(数回SDLの審査を担当したために、過去の大会の履歴を踏まえているという点)、2008年の斧澤未知子「私、私の家、教会、または牢獄」を超えていなかったと思う。あのとき私性建築の最終兵器と論じたが、やはり超えるものはない。

2013/03/10(金)(五十嵐太郎)

坂茂 建築の考え方と作り方

会期:2013/03/02~2013/05/12

水戸芸術館 現代美術ギャラリー[茨城県]

水戸芸術館の坂茂展を見る。いつもとは動線の順番をひっくり返し、空間を体感できる1/1やジョイントのモックアップを多数展示する、画期的な内容だった。むろん、災害後に緊急につくる仮設建築だからこそ、急いで準備しないといけない展覧会でも設営可能だったのだろう。そして芸術的な模型やドローイング、あるいは抽象的なコンセプトを見せるのではなく、リアルなモノを通じて構造、素材、空間を具体的に考えさせることを強く意識した建築展である。おそらく通常の展示予算では全然足りないだろうから、多くの協賛など外部資金も持ち込んだのだろう。また写真撮影もご自由に、というのが嬉しい。

2013/03/08(金)(五十嵐太郎)

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