artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
ザハ・ハディド《国立21世紀美術館(MAXXI)》
[イタリア・ローマ]
ザハ・ハディド設計の《国立21世紀美術館》を訪れた。うねるチューブが続くような展示室は、ホキ美術館的だが、スケールが全然違う。ザハの建築は、スロープや階段など、ダイナミックな上下移動の空間が多いが、全体の展示室がさらにデカイために、それを無駄なものだと感じさせない。小さい建物であれば、非難が集中しただろう。面白い建築だ。これまでに見たザハ物件は◎が3つ、×が2つで、当たり外れの振幅が大きいのも興味深い。
国立21世紀美術館では、ちょうど「ル・コルビュジエとイタリア」展を開催中だった。彼が若い頃、旅行で訪れ学んだこと(当時、ジョン・ラスキンの影響を受け、彼が装飾まで精緻に描いた建築画の美しいこと!)。1930年代にファシスト党に接近し、仕事を得ようとしたこと。そして戦後のオリヴェッティの工場とヴェネチアの病院計画までを網羅的に紹介している。が、いずれも実現していない。ほかに1階奥で小さなスカルパ展と、2階で建築模型の展覧会も開催していた。20世紀の建築家の模型をずらりと並べている(日本人は伊東豊雄さんのみ)。やはりイタリアの建築家のものが多いが、理念的だが独特の実在感があって、カッコいい。逆に、こういう感じは日本の建築模型にはあまりない。
この付近では、レンゾ・ピアノによる音楽ホール、ピエル・ネルヴィのスポーツ施設、ルイジ・モレッティによる長いオリンピック村の建築、そして新しい橋も訪れた。大学院の頃、このエリアを一度訪れていたが、文化系の施設が増えている。
写真:左上・左中=ザハ・ハディド《国立21世紀美術館(MAXXI)》、左下=レンゾ・ピアノ《音楽ホール》、右上=ピエール・ ルイジ・ネルヴィ《スポーツパレス》、右中=エンリコ=デッビオ+ルイジ=モレッティ《Foro Italico》、右下=Buro Happold《Ponte della Musica》
2012/10/23(木)(五十嵐太郎)
3.11──東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか(香港展)
会期:2012/10/19~2012/11/07
香港中文大学[香港]
筆者が監修した「東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」展が、香港中文大学の完成したばかりの建築棟で開催された。いろいろな場所で設置できるように制作した展示システムだが、きれいにおさまっている。製図室や学生の雰囲気は、日本とさほど違わない。オープニングでは、テープカットの後、筆者が震災の影響、展覧会概要、研究室の活動について、建築家の朱競翔が四川地震後の学校建設について、そして迫慶一郎が四川地震と東日本大震災の後のそれぞれのプロジェクトについてレクチャーを行なう。
数えてみると、香港は5回目である。最初は学生のときで中国に返還前だった。今回は3日弱しかなく、ワンチャイで香港日本人商工会議所と会食・意見交換をした以外は、ホテル/大学=展示会場から近い沙田で駅に隣接するショッピングセンターとスヌーピーズ・ワールドを見たくらい。何人かの建築家やアーティスト、現地の人と話しをしてわかったのは、やはり中国本土と香港では、だいぶ意識が違うこと。普段からの日本に対する態度もだ。愛国教育批判やアイ・ウェイウェイの解放運動さえ行なわれている。
写真:上から、「3.11展」香港会場、「3.11展」展示風景、スヌーピーズ・ワールド
2012/10/19(金)(五十嵐太郎)
カタログ&ブックス│2012年10月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
山と森の精霊 高千穂・椎葉・米良の神楽
2012年9月7日より、LIXILギャラリー大阪、ギャラリー1(東京)を巡回する「山と森の精霊 高千穂・椎葉・米良の神楽 展」カタログ。20年以上にわたって宮崎の神楽を調査・研究している高見乾司氏の解説とともに、3地域の神楽の特徴を臨場感溢れる図版で展開。また、神に扮する際に纏う仮面を、九州民俗仮面美術館のコレクションから40点を厳選し紹介する。論考では、仮面考ほか、神楽の中で生き続けてきた神々の姿について、また全国の神楽を行脚した著者による宮崎の神楽の特徴について考察する。最後に11名によるインタビューから神楽を次世代へと伝える人々の思いを紹介する。宮崎の風土を大きな舞台に、自然と密接した暮らしの中で受け継がれてきた精霊との交流のあり方をこの一冊から届ける。[LIXIL出版サイトより]
リトルプレス「Temporary housing + shelter」
2011年、ともに大きな地震に襲われたニュージーランドと日本。両国でそれぞれ出版プロジェクトを行なう split/fountainとWhatever Pressが、企画・編集チームとしてコラボレートし、'Temporary housing + shelter'というテーマで世界各国20人以上のアーティスト、建築家、デザイナー、ライターたちの作品を一冊にまとめた。この冊子自体をもまたテンポラリな家と見なし、本のあり方・つくり方自体を形式的にゼロから根本的に考え、つくり上げた一冊。印刷に対しても実験的に向き合い、ローレゾリューション形式であるリソグラフ印刷をあえて採用している。デザインは、オランダのコンテンポラリーデザインの震源地、ヴェルクプラーツ・タイポグラフィ出身の気鋭のデザイナー・ライラTC。日本語タイプセットは、同校卒の木村稔将が担当。英語翻訳はAi Kowada Gallery所属の現代アーティスト、ミヤギフトシ。10月現在、初版完売のため、二刷りを11月以降に増刷予定。
アート・ヒステリー──なんでもかんでもアートな国・ニッポン
「アート=普遍的に良いもの」ですか? そこから疑ってみませんか? と「アート」の名のもとに曖昧に受け入れられ、賞賛される現在の日本社会に疑問を投げかける評論集。近代から現代にかけての日本美術が社会にどのように受け入れられてきたのか歴史・教育・ビジネスなどの視点から「アート」を問う。ピカソやデュシャン、岡本太郎、村上隆からクリスチャン・ラッセン、Chim↑pomなどさまざまなアーティストやストリートアートなどが取り上げられている。
現代建築家コンセプト・シリーズ12
石川初 | ランドスケール・ブック ― 地上へのまなざし
近年、東京という都市のなりたちを100万年の単位でとらえ、足下の地形への感覚を新鮮に甦らせる仕事が注目を集めている。また、その地形の上に立つ「団地」や「工場」「巨大ジャンクション」など、近代都市の営みを愛おしむまなざしが共感を呼んでいる。これらは私たちに21世紀的な都市の見方、感じ方、楽しみ方を提示し、その上に建つ建築のあり様をも問いかける。本書では、ランドスケープアーキテクト石川初のフィールドワークの視点を紹介。私たちが日常を過ごしている街、行ったことのある都市、知っている世界も視点やスケールを変えて見ると、そのたびに鮮やかに、異なる姿をして現われる。「地形」「地図」「時間」「境界」「庭」のキーワードをもとに、都市の新しい読み解き方や発見の方法を探る一冊。[LIXIL出版サイトより]
現代建築家コンセプト・シリーズ13
吉村靖孝 | ビヘイヴィアとプロトコル
建築基準法を遵守するあまり街並から浮いてしまった建物や、コンテナを建築に活用する事例の収集など、若手建築家・吉村靖孝は、建築の社会的な成り立ちを問い直し、社会に関わる方法の観察と分析を行なってきた。そして現在、社会構造とそれにともなうクリエイティヴ環境の激変にともない、建築・空間は、日常生活の機微(ビヘイヴィア)を手がかりにするだけでは成立せず、規制、法、労働力、市場、流通、ローンなど、広域的で外部的なマニュアル(プロトコル)を通観しなければならない状況に直面している。吉村は、いまこそ両者の対立と矛盾を丁寧に取り除き、大胆に架橋していく可能性を示す必要があるという。多数の自作アイディアとともに、建築・都市に参入する新しい建築家像を示す一冊。[LIXIL出版サイトより]
2012/10/15(月)(artscape編集部)
日本の70年代 1968-1982
会期:2012/09/15~2012/11/11
埼玉県立近代美術館[埼玉県]
埼玉県立近代美術館の「日本の70年代 1968-1982」展を見る。大阪万博や寺山修司の熱気から、ビックリハウスやこの美術館の誕生まで、横断的に文化を展示したものだ。それゆえ、黒川紀章の向かいが、サディスティック・ミカ・バンド!という部屋もある。なお、美術館の公園に移築された《中銀カプセルタワー》のユニットも同時代の産物だ。
2012/10/12(金)(五十嵐太郎)
遠藤秀平+陶器浩一《福良港津波防災ステーション》、 遠藤秀平淡路人形座》
[兵庫県]
遠藤秀平が手がけた、東日本大震災の前に竣工した《福良港津波防災ステーション》と、この夏にオープンした《淡路人形座》を見学した。両者ともに津波避難ビルの役割をもつ。前者は曲面壁により水力を受け流す水門制御・港内監視の施設である。後者はエキスパンドメタルを型枠に用いた特殊な構法で、コンクリートも少し膨らむ物質感と素材感が印象的だ。
2012/10/07(日)(五十嵐太郎)