artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

衍序建築展─後設數位時代的新維度 Procedural Architecture - Resolution in the Age of Meta-Digital

会期:2012/05/25~2012/06/30

MOCA Studio[台湾・台北市]

台北当代芸術館のTAIPEI MOCAにて開催されたデジタル系建築の展覧会を見る。台湾の国立交通大学で教鞭を執るNOIZ ARCHITECTSの豊田啓介さんがキュレーターとなり、同校とETHが共同し、ワークショップ形式で茶室などの1/1の空間モデルを制作したものだ。考えてみると、日本では卒計イベントなどにおいて、むしろ模型の表現が重要になっているが、こうしたコンピュータを使う設計教育に特化した学校があまりない。とはいえ、デジタルな設計のプロセスと最終的な成果物の完成には手仕事が介入するアナログな作業の融合が興味深い。現物は展示されていなかったが、ETH側のプロダクトとして、薄い膜の群れが自動的に変形する映像が紹介されていたが、これはまるで生き物だ。

2012/06/29(金)(五十嵐太郎)

「JCDデザインアワード2012」公開審査

東京デザインセンターガレリアホール[東京都]

東京デザインセンターにて、JCDデザインアワード2011の審査を担当した。今年の特徴は、アジアから力強い造形をもつ作品がかたまりになって応募されたこと。個人的には一押しがなく、最後に残った金賞の6作品もあまり予想しなかった展開だった。ファイナルの審査で議論になったのは、主に以下の3作品である。藤井信介の「鎌倉萩原精肉店」は、店主の顔がいい。これも含めてインテリア・デザインがなされている。建築的には、新しい空間の形式を大胆に提案しているという点において、HAP+米澤隆の「公文式という建築」が評価できるだろう。一方、宇賀亮介の「まちの保育園」の応募パネルは、スナップ写真を多く貼り、建築のデザインよりも、人々のアクティビティを伝えようとしていた。即決で結果を出すなら、精肉店か公文式だろう。が、議論が長引くに連れて、だんだんと保育園のおもしろさがわかってくる。噛めば噛むほど味がでるのだ。まちとつなぐための建築の構成にも提案がある。写真一発のデザインではない。だが、デザインが社会に対してできることへの可能性を切り開く。このことが審査員のあいだで共有されたとき、僅差で「まちの保育園」が大賞に選ばれることになった。

2012/06/23(土)(五十嵐太郎)

伊丹潤 展 手の痕跡

会期:2012/04/17~2012/06/23

TOTOギャラリー・間[東京都]

ギャラリー・間の伊丹潤展を訪れた。独特なデザインだが、かといって完全に孤高ではなく、やはり時代性も感じられるのが興味深い。済州島の作品群を見たくなったが、最近の韓国では国内観光をテコ入れし、飛行機はいつも満員だという。「手の痕跡」という展覧会のタイトルどおり、ドローイングやスケッチが力強い。素材を活かした存在感のある建築だ。が、一部をのぞき、展示された模型は「手」との関連性が見出しにくい。情報として建築を伝えるにしても、図面以上のものがあまり伝達されている感じがしない。これは白井晟一展でも感じたことだが、模型だと相性がよくない建築があるのだろう。

2012/06/22(金)(五十嵐太郎)

今和次郎「採集講義──考現学の今」

会期:2012/04/26~2012/06/19

国立民族学博物館[大阪府]

画家、建築家、デザイナーでもあり「考現学」の創始者である今和次郎。民家研究をはじめ、関東大震災後は街と人々の生活の変化を観察、記録、分析し、戦後は「生活学」や「服装研究」といったことも行なっていた。今展はそのさまざまな活動と生き方を軸に、「みんぱく」の調査研究のあゆみとの関係やその成果を紹介するもの。会場には、今の数々のスケッチやドローイングとともに、モンゴルのゲルの家財に関する梅棹忠夫の研究成果と最新の調査との比較、考現学創始当時の洋装、みんぱく開館当時に行なわれた民家模型製作のための民家調査資料など、みんぱくで進められてきたさまざまな資料や研究が展示されていた。なにしろ展示のボリュームがすごい。特に、詳細な今のスケッチを一つひとつじっくり見ていくと何時間もかかるほどなのだが、建築物や人々の生活、衣服の観察、そこでの問題意識などがうかがえるそれらはどれも興味深く、またドローイングそのものが魅力的。関東大震災後、人々が瓦礫のなかからありあわせの材料でこさえたバラックのスケッチをはじめ、建築家やデザイナーとしての活動にも、今の人となりと眼差しがうかがえる。じつに見応えのある内容だった。

2012/06/17(日)(酒井千穂)

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沖縄のコンクリート建築

[沖縄県]

初日は、琉球大学の入江徹研究室の4年生ゼミ課題の講評を行なう。今年のテーマは、行為の解体。毎年同じ大学を訪れていると、自分の研究室の学生でもないのに、なんとなくメンバーの動向を覚えてしまうのが興味深い。2日目は、琉球大学でレクチャーの後、1階からいきなりほとんど空き店舗になった衝撃の大型商業施設コリンザ、コンクリート造のアーケードをつなげたパークアベニュー通り、そしてゲート通り周辺の沖縄的なコンクリート建築群を見学する。夕方からアメリカ兵が集まるバーやクラブをはしごし、ちょっとだけ日本にはない『コヨーテ・アグリー』の世界を体験した。
しばしば沖縄の記号として赤瓦が使われるが、象設計集団の《名護市庁舎》(1981)など、一部の事例をのぞくと、お手軽で安易な手法になっている感は否めない。一方で沖縄建築のもうひとつの特徴は、コンクリートの使用である。実際、木造の家がほとんどない。アメリカ軍の建築の影響を受けつつ、台風やシロアリの被害を避けるべく、住宅さえも鉄筋コンクリート造である。前述したパークアベニュー通りからゲート通り周辺で観察すると、窓のルーバーや垂れ壁など、普通は別の素材でつくるような細かな造作にも、好んでコンクリートを使う。現在、保存問題が起きている《久茂地公民館》(1966)も、こうした文脈から評価されるべきだ。設計者の宮里栄一が、東京のモダニズムを参考にしつつも、沖縄らしいコンクリートの造形を展開したデザインなのである。

写真:上=入江徹がデザインした琉球大学の講評会の会場、中=中央パークアベニュー、下=ゲート通り周辺

2012/06/16(土)・17(日)(五十嵐太郎)