artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

南相馬ヒアリング調査

会期:2012/08/05

南相馬市、塔と壁画のある仮設住宅地の集会所[福島県]

南相馬へ。五十嵐研が手がけた塔と壁画のある仮設住宅地の集会所にて、はりゅうウッドスタジオの事務所がバーベキューを開催した。途中、夏川りみが訪れ、集会所でライブも行なわれる。五十嵐研は住民に生活や今後の暮らしについてヒアリング調査を実施し、日本大学の浦部研は個別の要望に応えながら、クラインガルテンを再配置した。建設時、住人はいなかったが、今は顔が見える。その後、20km圏の警戒区域が縮小されたのを確認すべく南下した。三度止められた地点を越え、どんどん先に進む。人影がなくなり、廃墟が続き、誰にも止められないので不安になったほどだ。ここでは1年前の瓦礫を片付ける前の南相馬の風景がそのまま残り、時間が静止している。そして波江町付近で止められた。

写真:上から、バーベキューの様子、ライブの様子、新しい境界、その先の風景

2012/08/05(日)(五十嵐太郎)

JA86「新世代建築家からの提起」展

会期:2012/07/25~2012/08/06

渋谷ヒカリエ 8F[東京都]

渋谷のヒカリエへ。『JA』で特集されたunder35のnext generationの建築家展を見る。それぞれのプロジェクトはユニークでおもしろいが、狭い場所に多くの作品を詰め込み、建築分野以外の人にわかりにくい。せっかくいろいろな人が訪れる恵まれた場所なので、もったいない。一方、隣の石井修展は、手描きの図面を見せようという意志は明快だった。同じ階で開催中の奈良美智展の方が絵画を並べるだけなのに、空間をうまく使っている。

2012/08/02(木)(五十嵐太郎)

災害に直面した港湾都市の都市計画を考える国際ワークショップ「石巻建築ワークショップ2012」

会期:2012/07/21~2012/08/01

石巻市内[宮城県]

東北大学と学生を交換しているベルギーのブリュッセル自由大学のジョセフ・グルロワが主宰し、東北大学などが参加する、石巻のワークショップの最終日を訪れた。昨年に引き続き二度目である。今回は、港、交通、水、オープンスペースの四つのテーマを軸に、それぞれ多国籍の学生チームが石巻の未来を提案し、ベルギーカフェにて展示を行なう。ワークショップの終了後、屋外で飲んで騒ぎ、最後は小さな復興バーに移動し、また路上に人々があふれていた。しかし、まわりは廃墟で人がいない。ちょうど石巻の祭とのタイミングが合い、災害ユートピアが継続しているような不思議な雰囲気に包まれる。おそらく、海辺と都心が離れた仙台のような大都市とは違い、石巻はほどよくコンパクトで、津波に襲われた場所と中心市街地がほとんど重なっているがために起きた現象だろう。

写真:上から、ワークショップの様子、石巻祭り、仮設店舗、復興バー

2012/07/31(火)~08/01(水)(五十嵐太郎)

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2012

会期:2012/07/29~2012/09/17

越後妻有地域(新潟県十日町、津南町)[新潟県]

越後妻有アートトリエンナーレ2012のオープニング・ツアーに参加した。改めて街なかで場所の確保に苦労するあいちトリエンナーレに比べて、幾つもの小学校や空き家をまるごと会場に使える前提条件の違いを痛感する。例えば、新登場の土をテーマにしたもぐらの館と、中国作家の参加するアジア写真映像館、作品が増えた絵本と木の実の美術館は、いずれも廃校を活用している。建築系での新作は、みかんぐみの茅葺きの塔、オーストラリア・ハウスやアトリエワンによる展示施設、杉浦久子研のインスタレーションなどが登場した。またCIANでは、川俣正が故中原佑介の蔵書を入れる場として、本棚をバベルの塔のように積み、体育館をなかなか迫力のあるアーカイブ空間に変容させていた。今回からキナーレは現代美術館に変身し、中庭にボルタンスキーの大スペクタクル作品をドーンと置く。またbankart妻有では、各部屋に膨大な小作品が増殖したことを知る。第1回こそ見逃したが、2003年、2006年、2009年、2012年と四度目の訪問だった。ド派手な新築物件は減ったが、定期的にトリエンナーレを継続していくことで得られる蓄積が増え、ポスト過疎化のそれ自体の新しい歴史を刻みはじめていることがよくわかる。

写真:左上=みかんぐみ+《下条茅葺きの塔》、右上=オーストラリア・ハウス、左中=アトリエ・ワン+東京工業大学塚本研究室《船の家》、右中=杉浦久子+杉浦友哉+昭和女子大学杉浦ゼミ《山ノウチ》、左下=川俣、右下=クリスチャン・ボルタンスキー《No Man's Land》

2012/07/28(土)・29(日)(五十嵐太郎)

ALA建築プロジェクト 建築学生の挑戦「都市と空き地 vol.1」

会期:2012/07/25~2012/08/19

アートラボあいち 2階・3階[愛知県]

アートラボあいちにおける、建築学生の挑戦「都市と空き地」展を見る。名古屋の9つの研究室が参加し、期間限定の空き地の活用を提案するもの。想像していた以上に、どれもつくり込んだ模型で、なかなかの力作揃いだった。筆者が審査員となり、トリエンナーレでの使いやすさ、仮設と空き地の利用という視点から、1位から3位と佳作を決定する。
最優秀賞の名城大学谷田研究室は、空き地のまわりを足場で取り囲むというもの。この構築物を用いて、さまざまなアクティビティを誘発するが、興味深いのは、名古屋らしさ=金の鯱ということで、全体を金色に塗っていること。ほかのどの案にもない、名古屋的なものへの、あえてキッチュな提案がよかった。2位は、名古屋大学の恒川研究室による、両サイドのビルのパラペットに引っ掛けながら、幾重にもカーテンを吊るすというもの。これもカーテンの引き具合によって、さまざまな場を生みだす。そして3位は名古屋工業大学の伊藤研究室。空き地の状態を残すように、コの字型の建物をつくる。3年で壊すにはもったいないが、むしろ3年後にこういう建物がつくられると、空き地が残ったかのようで興味深い。

2012/07/25(水)(五十嵐太郎)