artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
すべての僕が沸騰する 村山知義の宇宙
会期:2012/04/07~2012/05/13
京都国立近代美術館[京都府]
ベルリン留学時にダダや構成主義などの新興芸術に強い影響を受け、1923年の帰国後に爆発的な勢いで、絵画、コラージュ、トランスジェンダーなダンスパフォーマンス、建築、デザイン、舞台美術、前衛芸術集団「マヴォ」結成などの活動を展開した村山知義。その圧倒的なエネルギーとインパクトを、初めて本格的に紹介するのが本展だ。1988年に開催された「1920年代日本展」で彼の存在を知ってから20年余、遂にこの機会が訪れたことに感慨を禁じえない。現存作品が少ないため、写真資料が多いなど難点もあるが、展覧会が行われたこと自体に意味があるのだ。本展を機に今後一層研究が進み、彼の真価が鮮明になることを期待する。
2012/04/06(金)(小吹隆文)
「超群島 HYPER ARCHIPELAGO─3.11以後、アーキテクト/アーティストたちは世界をどう見るか?」展
会期:2012/03/11~2012/04/16
EYE OF GYRE[東京都]
GYREの超群島展へ。藤村龍至によるメタ・メッセージはきわめて明快であり、マニフェスト型の展覧会としては成功だが、全体として見ると、個別の作品がモノとして弱い。これは彼の展示でいつも感じられることなのだが、本や情報では表現できない、展覧会ならではのマジックを求めると、ちょっと肩すかしをくらう。対照的に、近くで開催中のルイ・ヴィトン表参道の「コズミック・トラベラーズ」展では、渡辺豪の《“one landscape,” a journey》をはじめとして、作品は緻密で強度をもち、いまここでしか体験できない展示の魔術が出現していた。また超群島展では、建築とアートの作品を混ぜたのは今回のウリだが、短期間に展覧会が続くために、藤村組が可視化され、堂島リバービエンナーレ2011での展示や過去のラインナップとの重なりが多いのも気になる。
2012/04/05(木)(五十嵐太郎)
本田孝義『モバイルハウスのつくりかた』
会期:6月から渋谷ユーロスペース他にてロードショー
渋谷ユーロスペース[東京都]
PHスタジオのドキュメンタリー映画『船、山にのぼる』を撮った本田孝義監督が、こんどは若手建築家の坂口恭平を追った。坂口は『0円ハウス』『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』などの著書でも知られるように、巨大(巨費)志向の建築界に背を向け、建設費も家賃もゼロに近い「巣のような家」を建てようと模索。多摩川の河川敷に住む通称ロビンソン・クルーソーの協力を得ながら、移動式の「モバイルハウス」を建てた。その一部始終を収めたのがこの映画だ。が、モバイルハウスが完成し、いざ多摩川から移動しようとしたその日、東日本大震災が発生。その後、坂口は出身地の熊本に妻子とともに移住し、モバイルハウスもそちらに移した。そのため映画のラストは予期せぬ方向に展開したが、結果的に原発事故を含めた震災後の生き方、暮らし方を考えるうえでいっそう厚みを増したと思う。それにしても、本田が坂口を知ったのが4年前に東京都現代美術館で開かれた「川俣正展」での川俣×坂口対談だったというのは示唆的だ。川俣自身も早くから都市のなかでの「0円ハウス」や「狩猟採集生活」を提案していたし、その弟子筋のPHスタジオも軽トラに白い家を載せて移動したことがあったからだ。本田のなかではすべてつながっているのだ。
2012/04/03(火)(村田真)
京都府庁旧本館 春の一般公開(観桜会) ECHO TOUR 2012
会期:2012/03/20~2012/04/01
京都府庁旧本館[京都府]
明治37(1904)年の竣工から昭和46年まで、京都府庁の本館として使用された京都府庁旧本館。現役の官公庁建物としては日本最古のもので国の重要文化財にも指定されている。ここで2009年度より、春の一般公開のときに造形作品の展示、演劇、ライブパフォーマンスなど、京都を中心に活躍するアーティストたちがそれぞれの発表をする「ECHO TOUR」が行なわれている。今年は作品展示に、矢津吉隆、前川多仁、大倉尚志、松谷真未、小川剛、ヒデキアリチ、カリーナ・ビョーク、日菓、したてひろこが出品作家として参加。重厚な趣きの館内それぞれの空間に作品が展示されていた。作品のなかでは、3.11以降ネットなどのメディアで語られた陰謀論をモチーフにしたインスタレーション《君たちの想像力は地球を貫く》や、文明の象徴としての「火」が燃えつづける3DCG映像《絶えない火》など、矢津吉隆の発表作品が特に印象に残る。このイベントには「作家がその場所と“ECHO=反響”するように表現する」というテーマがあるのだが、矢津の作品はこの場の固有性も含め、展示全体が重層的な世界と歴史に思いを巡らせるものになっていて、その点でもじっくりと堪能したい空間だった。館内では展示の他に、小さな工芸品や手芸品などを販売しているコーナーもあり、作品を手に取って楽しむ場にもなっていた。私もそこにあった陶芸家の藤田美智の小さな陶器作品がすっかり気に入って花瓶を購入。建物や展覧会だけでなく、新たな出会いも楽しめる機会だった。
2012/04/01(日)(酒井千穂)
栗原健太郎+岩月美穂 studio velocity展「fluctuationーゆらぎ」
会期:2012/03/31~2012/04/08
masayoshi suzuki garllery[愛知県]
masayoshi suzuki galleryにてstudio velocityの「 fluctuation (ゆらぎ)」展のオープニング・トークに参加した。1階はフィルムによるゆらぐ建築スケールの構造体が、さまざまなにまわりの環境を映しだす。地下は床の傷をランドスケープに見立てた超微細な模型である。石上純也事務所出身の若手ユニットらしく、建築とアートを架橋する作品であり、とてもフラジャイルな感覚をもつ。現在、書類審査の結果、今年のヴェネチアビエンナーレ国際建築展に参加する可能性があり、国際展のデビューも期待されている。
2012/03/31(土)(五十嵐太郎)