artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
3.11東日本大震災の記録 DVD上映会&講演会
会期:2012/03/13
ホーチミン市人文社会科学大学[ベトナム・ホーチミン]
ホーチミンの人文社会科学大学にて、レクチャーを行なう。昨年訪れたバンコクの大学と同様、1階の吹き放ちの空間=ピロティが積極的に活用されている。風を通しつつ日陰をもうけるバルコニーやブリーズソレイユの多用も熱い国の共通項だろう。一方、まったく違うのはバイクの多さである。建物の中庭など、あちこちの屋外を占拠していた。
2012/03/13(火)(五十嵐太郎)
DIAプロジェクトほか
[ベトナム・ホーチミン]
10数年ぶりに訪れたホーチミンには、以前はなかった超高層ビルが出現しており、そのスカイデッキから展望すると、都市計画が整然としていることがよくわかる。市内の庁舎や劇場などの様式建築を見学した後、郊外に向かい、リチャード・ストレイトマター・トランのアトリエ、DIAプロジェクトを訪問した。さまざまなアイデアをもつアーティストであり、部屋には楽器も並んでいた。美術以外に建築やポストモダン系の理論書が多いだけではなく、動植物を育てており、不思議な実験室というおもむきだった。
写真:上=スカイデッキからの眺め、下=DIAプロジェクト
2012/03/12(月)(五十嵐太郎)
3.11東日本大震災の記録 DVD上映会&講演会/ハノイ建築めぐり
会期:2012/03/10
ベトナム国立図書館[ベトナム・ハノイ]
ベトナム国立図書館にて、震災復興セミナーを行なう。まず震災と復興、世界への感謝と観光を呼びかけるDVDを上映し、高成田享による震災の教訓について講演、そして筆者の3.11以降の建築と都市のレクチャーが続く。午前8時スタートというのは、今まで経験したこの手のものとしてはもっとも朝が早いが、会場は満員だった。ベトナムに地震や津波の自然災害はないが、原発の事故には大きな関心があるようだった。
午後はハノイの建築めぐり。劇場や大聖堂など、フランス仕込み様式建築や近代建築がよく残っている。エルネスト・エブラールらの建築家が挑戦した、ゴシックや古典主義と、ベトナムの現地スタイルを折衷させたデザインも興味深い。
2012/03/10(土)(五十嵐太郎)
せんだいデザインリーグ2012 卒業設計日本一決定戦
会期:2012/03/05
せんだいメディアテーク、東北大学百周年記念会館川内萩ホール[宮城県]
今年の卒業設計日本一決定戦では、仙台に来てから初めて、予選からファイナルに至るすべての段階で審査を担当しなかったが、結果的によかったと思う。東北大の五十嵐研の卒計は、研究室が始まって以来の最強の布陣となり、大活躍したからである。まず予選では、6人のうち4人(松井一哲、曽良あかり、三浦和徳、伊藤幹)が100選に入っている。もっとも、ここからもれた関谷拓巳によるサドの小説『ソドム120日』の建築化も、椚座基道の国会議事堂に複数の直方体が突き刺さる作品も、相当にユニークだった。建築棟が大破し、十分な教育環境がないと同時に、普段以上に負荷がかかるなか(引越や海外巡回展、学科60周年記念など)、震災の年に不思議なめぐり合わせとなった。
研究室からは3人がファイナルに進出している。さらに日本一となった今泉絵里花も加えると、東北大から4人も残った。今年10回目を迎える卒計日本一だが、筆者の記憶では過去9回にファイナルにまで東北大が残ったのは、2人くらいしかいない。うちひとりは2008年の五十嵐研の鈴木茜で、卒計ではベスト10止まりだったが、その2年後、東京ケンチクコレクションでは最優秀を獲得した。ともあれ、これまでも完全にばらばらにファイナルに残るというより、京都大学がまとめて3人くらい入ったり、理科大が2人、日本大学が2人、芝浦工大が2人という風に、年度によって同じ大学がかぶる傾向が認められる。やはり同学年に勢いがあるときとそうでないときが存在するからだろう。
卒計日本一は審査委員長の伊東豊雄の関心が強いことから、震災関係のプロジェクトが議論の中心となり、津波で流された家を模型を使いながら復元する、松井の「記憶の器」は日本二になった。東京に戻る最終新幹線で、ファイナルの審査員を担当した伊東、塚本由晴、コメンテータの竹内昌義らと一緒になり、「記憶の器」について議論が続く。おそらく、この案自体が記憶に残る、2位になったのだろう。あまり語られていないが、これは「卒計」批判の作品でもある。学生が実現しない絵空事を設計するよりも、実在する誰かを喜ばせることができる模型を制作したからだ。
写真:上=松井一哲、中=三浦和徳、下=伊藤幹
2012/03/05(月)(五十嵐太郎)
宮本佳明 展「福島第一原発神社~荒ぶる神を鎮める~」
会期:2012/03/05~2012/03/24
橘画廊[大阪府]
1996年のヴェネチア・ビエンナーレ建築展で阪神淡路大震災の瓦礫を用いたインスタレーションを発表し、金獅子賞を受賞(磯崎新らと共同受賞)した宮本佳明が、福島第一原発をテーマに過激な提案を行なった。その内容とは、原発建屋に巨大な和風屋根を載せ、神社として祀るというものだ。事故現場を廃炉解体して消し去るのではなく、むしろ危険を明示しアイコン化することで、安全な保管と記憶の継承に努めるのである。技術や予算面のリアリティはともかく、原子力を荒ぶる神と捉えて祀る心情は日本人の宗教観に合致している。この提案をどう受け止めるかは人それぞれだが、極めて難しいテーマに真正面から挑む宮本の姿勢は評価されるべきだと思う。
2012/03/05(月)(小吹隆文)