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建築に関するレビュー/プレビュー

村山知義の宇宙 すべての僕が沸騰する

会期:2012/02/11~2012/03/25

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

なにもないからこそ、なんでもやる。関東大震災にせよ、東京大空襲にせよ、広島・長崎への原爆投下にせよ、私たちの先達たちは焦土と化した焼け野原からいくども立ち上がり、その都度いくつもの文化や芸術を生み出してきた。村山知義の回顧展をつぶさに見て思いを新たにしたのは、豊かな芸術は貧しさのなかから生まれるという厳然たる事実。演劇から美術、写真、書籍、看板、はては建築にいたるまで、村山が手がけた創作物はじつに広範なジャンルに及んでいる。大量に集められた展示物の物量が、村山自身の貪欲な創作意欲を物語っているようで、まさしく沸騰する村山の迫力に圧倒されてやまない。それらのいずれもが貧しい時代の只中でなんとかやってきた格闘の痕跡と言えるが、村山が苛まれていた貧しさとはまた別の貧しさが世界を覆いつつある現在、はたして野性的で生命力にあふれた、新しい芸術は生まれるのだろうか。

2012/03/21(水)(福住廉)

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アンヴァリッド(ホテル・デ・ザンヴァリッド)/軍事博物館

[フランス・パリ]

会場と近いので、久しぶりにアンヴァリッドに行く。ここは要塞都市のデザインで知られる技術者ヴォーバンの墓や彫像が置かれているが、フランス各地の要塞都市の模型群の展示は興味深い。美しい比例ではなく、合理主義と機能主義にもとづく幾何学的な造形は、マシーンとしての都市のようだ。軍事博物館は武器そのものが大量に展示されている。とくに近代以前の武器は、機能とシンボリズムが融合した「美術」にもなっており、ヘタな現代アートよりはるかに強度をもつ。多様な姿をもつオリジナルの数々は、『ベルセルク』の世界以上だ。しかし、近代になると、武器が機械に変貌していくこともよくわかる。

2012/03/21(水)(五十嵐太郎)

国際交流基金巡回展「3.11ー東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」

会期:2012/03/06~2012/03/31

パリ日本文化会館[フランス・パリ]

レクチャーを行なうために、パリの日本文化会館でも開催された「3.11ー東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」展を訪れた。国際交流基金が企画した本展は、まったく同じものを2セット制作しており、それぞれが世界各地を巡回する予定である。日本文化会館では壁の面積に余裕があり、自立壁となるパネル用のイーゼルを使わず、1階のロビーと地下ホールのホワイエにまたがる展示になっていた。パリの来場者は、震災後に多くのプロジェクトが東北の各地で動き出していることに興味をもったようである。

2012/03/21(水)(五十嵐太郎)

せんだいスクール・オブ・デザイン 2011年度秋学期成果発表会|記念講演 (講師:原研哉)

会期:2012/03/20

せんだいメディアテーク1Fオープンスクエア[宮城県]

せんだいメディアテークにて、せんだいスクール・オブ・デザインの学外発表会が行なわれた。ゲストに招いた原研哉のレクチャーでは、日本デザインの特性や自作の紹介を語った後、デザインの力を通じて、被災した東北地方はむしろ大きな変革ができるチャンスになりうることを、慎重に言葉を選びながら問いかけていた。筆者が担当するメディア軸では、藤村龍至をゲストに迎え、震災とショッピングを特集した雑誌『S-meme』3号を制作した。今回も製本部の協力を得て、1号、2号に引き続き、特殊装幀の実験を試みている。表紙が地図を兼ねた大きなサイズになっており、これを畳んで、雑誌自体を包む。つまり、ショッピングというテーマにあわせて、ラッピングする表紙になっている。

2012/03/20(火)(五十嵐太郎)

GALERIE QUYNH/SAN ART

[ベトナム・ホーチミン]

アメリカ軍のもたらした悲劇を伝える戦争博物館や、川の中に浮かぶガウディ的な装飾に覆われた異形の寺院を見学した後、数少ない現代のアートスペースを訪れた。ひとつはベトナムやフランスの作家を扱うGALERIE QUYNHである。普通の店舗が並ぶストリートにおいて唐突にギャラリーが出現し、その内側では二層の良質なホワイトキューブが確保されていた。もうひとつは、ちょうど小泉明郎の映像作品を紹介する展覧会を開催していたオルタナティブスペース、SAN ARTである。これも住宅街の一部を改造して、現代美術の場に変えたものだった。

写真:上=GALERIE QUYNH、下=SAN ART

2012/03/13(火)(五十嵐太郎)