artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

ジャン・ヌーヴェル《電通本社ビル》/ジョン・ジャーディ《汐留アネックスビル「カレッタ汐留」》

[東京都]

竣工:2002年11月

久しぶりに汐留の電通ビルを見学した。ヨーロッパのよき趣味の前衛、ジャン・ヌーヴェル設計のオフィスビルと、アメリカの大衆的な資本主義建築家、ジョン・ジャーディによる商業施設カレッタ汐留を組み合わせるところが、実は日本的かもしれない。あちこちにパブリックアートを設置しているが、3.11の原発事故以降の節電もあってか、ジュリアン・オピーや蔡国強など、電気仕掛けの作品は、ことごとく止まっていた。やはり、こうした作品は、長期の稼働維持が大変である。結局、モノだけで成立するアートの方が超長期的には持続するように思う。

写真=噴水が止まった「カレッタ汐留」

2012/01/08(日)(五十嵐太郎)

菊竹清訓の訃報

その日は昼前くらいから、新聞各社からの電話が立て続けに入った。そういうときは、決まって巨匠が亡くなったときである。内密にとは言われたものの、新聞社がネットでニュースを配信するより先に、すでにtwitter上で情報が流れていた。以前とは、ここの状況が全然異なっている。とすれば、紙媒体における訃報記事は、速報性ではかなわないのだから、よりまとまった論が重要になるだろう。今回は2社に寄稿したが、ポイントはメタボリズム運動を通じて1960年代の日本前衛デザインを牽引したこと、そして伊東豊雄ら、多くの建築家を事務所から輩出したことである。

2012/01/05(木)(五十嵐太郎)

シャルロット・ペリアンと日本

会期:2011/10/22~2012/01/09

神奈川県立近代美術館 鎌倉[神奈川県]

内容はすでに知っていることが多かったが、サカ(=坂倉準三)と仲がよかったペリアンの展覧会をここ(=彼の設計した神奈川県立近代美術館)で開催できたのはよかった。改めて、家具とインテリアという彼女の立場は、男性中心主義的になりがちな建築界においてとてもうまく機能していたことがわかる。もっとも、日本との関係に焦点をあてたフレームの展覧会なので、『シャルロット・ペリアン自伝』(みすず書房)に描かれたような、彼女の20世紀の世界史と重なるダイナミックな生涯はちょっとわかりにくい。

2012/01/04(水)(五十嵐太郎)

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五十嵐研ゼミ合宿 2日目:藤本壮介《T-HOUSE》、生物建築舎《天神山のアトリエ》《萩塚の長屋》ほか

[群馬県]

2日目は、藤本壮介の《T-HOUSE》、生物建築舎の《天神山のアトリエ》と《萩塚の長屋》、CAn+Catの《ぐんま国際アカデミー》、宇野享の《太田の長屋》をめぐり、太田駅前にて飲んでから解散する。今年は学生が増え、OBも参加したことで、30名近い大所帯で移動した。前橋のアート・コレクターが暮らす《T-HOUSE》では、近くにコインパーキングを見つけられず、そばの神社の境内に止める際、地元の人に声がけすると、やはりこの住宅はよく知られていた。筆者は2度目の訪問だったので、常設展のように、固定して置かれている作品も、空間を決定する重要な要素になっていることに興味をもった。別ルートから前橋工科大学の学生も見学に合流したのだが、施主によると、同時に室内に人がいる最高記録だったらしい。《天神山のアトリエ》は、まわり四方を壁で囲み、天井すべてガラス、床は土が連続しており、ほとんど外部空間と変わらない室内だった。四季や気候の変化、あるいはまわりの状況をダイナミックに反映する空間といえよう。さらにドラキュラの棺と呼ばれる地下の寝床をもち、建築家自身が暮らす驚くべき実験住宅である。そして《太田の長屋》では、2つ賃貸部屋を見せてもらい、一見どのユニットも似ているけれど、想像以上に異なるバリエーションで空間が展開していることに感心させられた。

写真:上から、藤本壮介《T-HOUSE》、生物建築舎《天神山のアトリエ》、宇野享の《太田の長屋》

2011/12/29(木)(五十嵐太郎)

五十嵐研ゼミ合宿 1日目:隈研吾《太田市金山地域交流センター》、小嶋一浩《OTA HOUSE MUSEUM》ほか

[群馬県]

年末恒例の五十嵐研ゼミ合宿を行なう。今年は主に群馬県のエリアをまわり、住宅の見学が多かった。初日は、隈研吾の《太田市金山地域交流センター》、小嶋一浩の《OTA HOUSE MUSEUM》、磯崎新の《群馬県立近代美術館》、隈の《高崎駐車場》、レーモンドの《群馬県立音楽センター》を訪れ、映画『千と千尋の神隠し』のモデルとされる、温泉の《積善館》で宿泊した。《OTA HOUSE MUSEUM》は、2人のアーティスト夫妻のプライベート・ギャラリー、アトリエ、居住スペースから構成される。フロアごとのまったく異なる空間が展開し、それを本棚に囲まれた階段室が垂直に突き刺す。スペース・ブロックのコンセプトがとてもよく表現された建築である。いったん、2階の屋外に出てからアプローチする寝室は、《住吉の長屋》を思わせる大胆な構成だ。翌日、《ぐんま国際アカデミー》前で通行人としゃべっていても、《OTA HOUSE MUSEUM》の存在を知っていて、遠くからの視認性も効いている。

写真:上から、隈研吾《太田市金山地域交流センター》、小嶋一浩《OTA HOUSE MUSEUM》、《積善館》

2011/12/28(水)(五十嵐太郎)