artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
吉村靖孝「CCハウス」展~建築のクリエイティブ・コモンズ~
会期:2010/11/29~2011/12/17
オリエアートギャラリー[東京都]
「CCハウス」展のCCとは、「クリエイティブ・コモンズ」のこと。これは現代において誰かがやるべきテーマである。確かに建築の著作権は長く認められていなかった。しかし、がちがちに権利を主張するのではなく、ゆるやかに建築の著作権について考えるきっかけをわれわれに与えてくれる好企画である。吉村は、プロトタイプの図面をCCの署名付きで販売し、敷地や条件に合わせた改変も認めていく。壁のトレペ、複数の模型、床に描いた平面など、お金をかけずに、イメージをちゃんと伝えている展示もよかった。
2010/12/16(木)(五十嵐太郎)
PETER COOK: FROM ARCHIGRAM TO CRAB
会期:2010/12/15~2011/12/28
INAX GINZA 7F[東京都]
1960年代の建築系アヴァンギャルド、アーキグラムに関しては、大々的な回顧展がすでに巡回しており、日本でも2005年に水戸芸術館で展覧会が開催された。今回は小規模の会場であり、展示は過去作よりも、グラーツ美術館以降の近作が中心になっている。AAスクールの卒業生コネクションがあるのかもしれないが、タイや台湾のほか、ウィーン経済大学法学部棟のプロジェクトが紹介されていた。年老いてもなお、相変わらずの元気さとSF的な未来志向に関心しつつも、立体の展示が少なかったのは残念である。いたずら書きもなかったわけではないが、ガレージ・バンド的な初心に戻って、もっとアナーキーな展示もありえたかもしれない。
2010/12/16(木)(五十嵐太郎)
金沢建築訪問vol.1
会期:2010/12/11
北國銀行武蔵ヶ丘辻支店(金沢アートグミ)、中島商店、中村卓夫家住宅・アトリエ[石川県]
NPO法人の金沢アートグミが企画した「金沢建築訪問 vol.1」のエスコート役をつとめた。これはクリエイティブ・ツーリズムというプログラムの一貫として行なわれたが、まちあるきを通じて、さまざまな発見をしていく、新しいタイプのツーリズムを模索するものである。実際、筆者も、建物の解説役というよりも(解説は坂本英之先生が担当)、参加者とともに、建物を味わうプロセスを共有し、ときには代表で質問することなどが求められた。ツアーは、アートグミが拠点を置く、村野藤吾設計による、北国銀行武蔵ヶ辻支店(1932)から始まった。続いて、村野藤吾による同年の中島商店。そして内藤廣による中村卓夫邸とアトリエを訪問し、陶芸家の施主から、ていねいな案内をしていただいた。最後はオプションとして主計町に向かい、むとう設計が手がけた、床上浸水し、空き屋となっていたお茶家のリノベーション「土家」を見る。むろん、普段は入れない室内も見学できたことは重要だが、物件の組み合わせがおもしろい。いずれも伝統と現代を考えさせる空間であり、かつて居住して知っているつもりの、金沢という街がもつ歴史の奥深さを、さらに新しい角度から発見するのによい機会となった。
2010/12/11(土)(五十嵐太郎)
第5回金沢学会
会期:2010/12/02~2010/12/03
金沢エクセルホテル東急[石川県]
金沢創造都市会議と隔年で交互に開かれている会議で、金沢経済同友会が主催している。創造都市会議が公開シンポジウムというかたちで、都市問題を実践的なレベルで討議するのに対し、金沢学会はそこで挙げられたテーマをさらに掘り下げ、調査結果などに基づいて議論する非公開のシンポジウムである。立ち上げには創造都市研究で知られる佐々木雅幸教授が関わっている。1999年に第1回のプレシンポジウムが始まっており、かなり早い段階から創造都市に関する議論がなされてきたことは特筆すべきであろう(チャールズ・ランドリーの『創造的都市』の出版は2000年である)。第5回の金沢学会では「都心」をテーマに、「情報を発信する」「学生よ集まれ」「クラフトを活かす」という三つのセッションが行なわれ、都心に活力を与えるためのさまざまなアイディアが紹介、検証された。金沢は都市としての意識が非常に高い一方で、危機意識も高い。2014年の北陸新幹線開業によるストロー効果への対策として、都心強化とにぎわい創出の必要性が討議された。この会議と金沢という都市のゆくえは、日本の地方都市のあり方を考えるうえで、注目に値するだろう。
2010/12/02(木)(松田達)
『アーキテクチャとクラウド 情報による空間の変容』
発行所:millegraph
発行日:2010年10月1日
まず最初に驚いたのが、背表紙にしかタイトルはないこと。表紙だけでは何の本かほとんどわからない。店頭での平積みによる初速の販売はあまり期待しないということなのか。なるほど、富井雄太郎の編集後記によれば、電子書籍元年と言われる2010年だが、そこに踏み切るには時期尚早と判断し、Amazonの販売を主軸に考えたという。
さて、本書のテーマは、「アーキテクチャ」と「クラウド」という、いわば現在もっとも流行しているキーワードを二つ掛け合わせたものだ。若い読者が興味をもたないわけがない。ヴィジュアル・メインのコンテンツではなく、対談やインタビューを軸としている(佐藤信が編集している『談』のスタイルにも近い)。これを読みながら思ったのは、かつては『建築文化』や『10+1』などの雑誌が、このような特集を組んだであろうということだ。が、周知の通り、ゼロ年代に入り、既存の建築雑誌が激減していった。そんななかで独自に本書が制作された過程そのものが、まさに現在のメディアの過渡期をよくあわらわしている。
本書は原広司×池上高志の対談に始まり、その後は柄沢祐輔、藤村龍至、森川嘉一朗、南後由後など、この種のテーマでは、おなじみの1970年代生まれのメンバーが登場している。とくに興味深いのは、吉村靖孝×塚本由晴の対談だ。前者は現代的な資本と情報の環境のなかから建築を再定義し、後者は情報というテーマを新しさだけから考えるのではなく、これまでの建築の蓄積のなかから位置づけようとしている。つまり、60年代生まれと70年代生まれのあいだの、新旧の価値観の違いが浮き彫りになっているのだ。識者の意見を拝聴するのではなく、また異分野の類似した思考を確認しあうのでもなく、同業者における思想の差異をぶつけあう対談はやはりスリリングだ。
はたしてアーキテクチャとクラウドが根本的に建築を変えるのか。それとも、狼少年のように、何度も繰り返される騒動のひとつとして歴史に残るのか。少なくとも、建築は最先端のテクノロジーではなく、もっとも遅い技術でもある。最新の建築がいつも過去よりすぐれた空間というわけでもないし、世界の多くの人々は昔と変わらない空間を享受している。それは歴史が証明してきたことだ。だからこそ、われわれが生きているいま現在が建築の歴史にとって革命的な瞬間になるかもしれないと特権的に唱えられる姿勢には、完全には同意できない。しかし、ここには未来を切り開こうという若さはある。
2010/11/30(火)(五十嵐太郎)