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建築に関するレビュー/プレビュー

建築新人戦2010

会期:2010/10/02

梅田スカイビル・タワーウエスト3階ステラホール[大阪府]

建築新人戦2010は、登録者数733、応募作品454点にのぼったという。前年の応募作品数は171点だったというので、2年目にして巨大規模の大会に成長したといえよう。せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦が、4年次での卒業設計を競うのに対して、建築新人戦では、3年次までの作品により競う。実質的には2年生と3年生による戦いだといえる。今回の最大の山場は、最優秀新人賞を決める際に、意見が二つに分かれたところであろう。そこまで多少複雑な審査過程を経たが、最終的には、藤本壮介氏が小島衆太案を推し、大西麻貴氏が平山健太案を推したかたちとなった。争点は「空間があるかないか」(内部空間のある種の豊かさが表現されているかどうか)であり、平山案は「空間がない」ために押せないという藤本氏に対して、「外部空間はある」と大西氏は切り返した。会場で拍手の大きさを求めるも、明確な違いは見えなかった。最終的には、バランスのとれ、総合点で優ったかもしれない平山案より、大学が表通りにはみ出すという都市との関連を示すと同時に、印象的な空間性を提示した小島案が、最優秀となった。審査委員長の竹山聖氏は、この案を選んだことについて「せんだいの卒業設計日本一が、ピッチャーとして完成されたコントロールのあるスピードボールを投げるピッチャーを選ぶとすると、建築新人戦というのは、コントロールがなくても生きたすごい球を投げるやつを選ぶんだ」と分かりやすく表現している。実際、筆者もゲストコメンテーターとして審査の場におり、応援演説で小島案を推したのであるが、同じくゲストコメンテーターとして来ていた五十嵐太郎氏は逆に平山案を推しており、この「空間があるかないか」を建築の評価基準にすることの是非は、今後も議論していく価値のある重要なポイントではないかと感じられた。建築新人戦はすでに秋における最大の建築学生のためのイベントとなり、今後は韓国、中国の学生も交えて、アジア一を競うかもしれないという。来年以降のさらなる展開に期待と注目が集まるだろう。

2010/10/02(土)(松田達)

プレビュー:せんだいスクール・オブ・デザイン

東北大学[宮城県]

開講:2010年11月
建築デザイン系大学院生と、さまざまな領域の社会人クリエイターを対象とした新しい学校。東北大学と仙台市が連携し、地域の活性化を図る人材を養成することが目的という。具体的には、PBLスタジオ、Futureラボ、Interactiveレクチャーという三つのメソッドによって学習の機会が提供される。PBLスタジオは、少人数制のデザイン・スタジオで、東北大学の教員が中心となり、メディア、環境、社会など、複数の軸が設定され、具体的なプロジェクトに取り組む。Futureラボは、石上純也、平田晃久らが講師として招聘され、デザインの可能性を拡張するリサーチ・スタジオになるという。Interactiveラボは、領域横断的なレクチャー・シリーズで、さまざまなスタジオの受講生らが一堂に会することになるという。つまり、プロジェクトを通して多分野の人材が、コラボレートしながらデザイン教育を受ける。驚くべきことに、受講は無料。半年か一年単位の受講となり、修了すれば、大学によっては単位として認められる可能性もある。建築の領域を拡張する新しいタイプの学校として、開校と今後の展開が注目されるだろう。

URL=http://sendaischoolofdesign.jp/

2010/09/22(水)(松田達)

藤本壮介『建築が生まれるとき』

発行所:王国社

発行日:2010年8月25日

藤本壮介の、ここ10数年の文章からまとめられた著作集である。第一部は、基本的にそれぞれ作品について書かれた文章であり、第二部は、主に藤本が感動した建築や出来事について書かれている。半分作品集的であり、半分論考集的でもある本である。ところで、藤本にとって「言葉」とは何なのだろうか?本書の最後にそのことが触れられている。それは設計を行なう際の「他者」であり「対話の相手」であるという(「言葉と建築のあいだ」)。これは考えてみると意外な言葉である。なぜなら、言葉を発するのは自分であり、つまりは自分が他者だと言っているからである。ただ、ここに藤本の創作に対する姿勢が現われているように思う。藤本の建築は迷いが少ない、つまり、とてもストレートに伝えたいことが表現されているように見える。ただ、それだけでは藤本の建築が持つ微細な複雑性とでもいうべきものが、どうやって現われてきているのか説明し切れない。おそらく、それが「言葉」との対話から生み出されていると言えるのではないか。藤本は「言葉」も「建築」も分かりやすく、的確で、力強い。しかし、両者のあいだには、やはり微妙なずれがあり、そのずれをめぐって、藤本は絶えず問いを繰り返し、その整合性や関係性を問い続けている。それが、真に藤本の建築の強さになっているのではないだろうか。だから本書は、藤本の建築作品と双対をなしていると言ってよいだろう。

2010/09/20(月)(松田達)

「Japanese Junction 2010」展

会期:2010/09/13~2010/09/18

nanyodo N+(南洋堂書店 4F Gallery)[東京都]

海外の大学に留学している日本人建築学生による合同制作展。イギリス、スイス、フィンランド、オランダ、アメリカという5カ国、10大学の学生24人による作品展示。企画がまず面白い。留学に興味がある学生にとっては、それぞれの国や大学の特徴を見て取れるため有用だろう。過去に同じような展覧会はなかったように思う。キュレーションはイースト・ロンドン大学の学生、留目知明氏。さて、最終日のレビューの際に訪れて、作品のクオリティの高さにも驚かされたが、大学での教育環境が強く作品に現われていることにも驚かされた。むしろ、作品を見ればどこの国のどの大学の学生がつくったものかが見えてくるくらいである。いくつかの興味深い対立軸を見ることができた。プレゼンテーションが方法論化されているアメリカと、プレゼンテーションの分かりやすさよりも建築としての精度を追求するスイス、ダイアグラム化をさけるイースト・ロンドン大学と、ダイアグラム的抽象化のうまいオランダ、といったような。ほかにも多く見つけることができるだろう。つまり、ここでは海外の多様な建築の状況が、縮図として投影されているとも言える。海外における建築教育の一端を垣間見るためにも、ぜひ継続してほしい展覧会である。

2010/09/18(土)(松田達)

大山顕『高架下建築』

発行所:洋泉社

発行日:2009年3月18日

文句なく面白い。ウェブサイト「住宅都市整理公団」の総裁であり、団地愛好家、工場愛好家として知られる大山顕による写真集。大阪、神戸、首都圏における鉄道高架下につくられた建築群が集められ、その見方や独自の分析も施されている。いわゆる「建築」ではない、「建物」の振る舞いの面白さを見るという点では、アトリエ・ワンによる『メイド・イン・トーキョー』が思い浮かぶ。しかし、アトリエ・ワンが「建物」のさまざまな使われ方の面白さを見ることで、ビルディング・タイプの新しい組み合わせを見出していくのに対し、大山は「高架下建築」というひとつのビルディング・タイプにこだわる。観察術という意味では、今和次郎の考現学や藤森照信らの路上観察学にも通じるところがあるだろう。しかし、路上観察がその対象を観察によって見つけるのに対して、大山の場合は先に観察すべき対象がはっきりしている。もっとも大山のスタンスをよく示す言葉は「萌え」だろう。これまでも、団地、工場、ジャンクションといったひとつのビルディング・タイプに「萌え」てきた。東浩紀的に言えば、大山は「高架下建築言語」ともいうべき「データベース」を見出しながら、その組み合わせが織り成す「小さな物語」としての高架下風景を提示し、そこに「萌え」ている「オタク」という意味で、極めて「ポストモダン」的な写真集なのである。

2010/09/15(水)(松田達)