artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

でらa展

会期:2010/08/22

大同大学白水製図室[愛知県]

愛知県の建築・インテリア系学生団体ゼロワンの主催による、大学3年生のための合同設計展と講評会。「でら」は名古屋弁で「とても」を意味する語であり、「a」にはarchitectureの「a」と「よい」という意味の「ええ」が掛けられているという。建築の合同卒業設計展は、特にここ数年各地域によって盛んに行なわれている。一方、4年生の最後を飾る卒業設計以前に合同で行なう展覧会はまだ多くはないが、少しずつ現われてきている。2009年から関西において建築新人戦がはじまったことが、おそらくひとつのきっかけだったと言えるかもしれない。2010年3月には南洋堂書店のN+ギャラリーにおいて、建築女子による「私たちのアトリエ…女子だけ?!」展が行なわれた。当時大学3年生だった7人のメンバーによる展示であり、それぞれ異なる課題に提出した作品が集められて展示がなされた。なお、それゆえそれらをまとめる「建築女子」というキーワードの是非について議論が巻き起こった。「でらa」展もこの流れに位置づけられるのではないか。学生団体が主催している点で建築新人戦と異なり、また門戸を広く開放し、全国から作品を集めているという意味で、もちろん建築女子とも違う。3年生の展示であるが、運営のメインはゼロワンの4年生というところが面白い。通常は、上級生のために下の学年の学生が準備をするということになるが、このイベントでは逆に一度準備をしてもらった側の学生が、翌年下の学年に恩返し的に会をつくりあげることになり、このような順序の逆転がどのような方向性につながるのか、興味深い。講評会の審査員は、宇野享(大同大学)、橋本雅好(椙山女学園大学)、北川啓介(名古屋工業大学)の3者であったが、北川氏の都合により、急遽筆者が審査員として加わることとなり、一部始終を見ることができた。愛知県内からの作品に加え、沖縄から仙台まで全国からの応募があり、初回として、素晴らしいスタートであった。ほかに似たようなイベントのない8月という時期設定もよかった。作品としては、名古屋工業大学が圧倒的なプレゼン密度を持っていたことが印象的であったが、インテリアやアイディアコンペ的な作品も同時に寄せられており、そのため一元的な審査基準では対応できないところが、逆に今後の多様な審査基準の可能性を示しているようにも思われた。来年以降のさらなる盛り上がりが楽しみである。

2010/08/22(日)(松田達)

プレビュー:マスダール・シティ

[アブダビ]

竣工:2015年予定

アラブ首長国連邦のアブダビに、世界で初めてCO2を排出しない究極の環境都市を建設するという計画。総面積6.5平方km、開発費220億ドル、想定人口5万人で、2015年完成予定の巨大な新都市である。太陽光エネルギー、風力発電などの大規模な再生エネルギーなどを利用して都市全体を運営し、電機を動力とする自動運転可能なPRT(個人高速交通)を交通システムとして導入することにより、完全に自動車のない都市が実現するという。この乗り物は口頭で行き先を告げるだけで、自動的にその場所へと連れていってくれるという。現在、スマートグリッドと呼ばれる電力需要を自動的に調整するシステムが世界中で注目されているが、こうした環境負荷の低い多様な技術を基盤として建設される都市をスマートシティという。スマートシティはほかに中国の天津エコシティやアムステルダムのスマートシティ・プログラムなどが知られるが、マスダール・シティは、原油産出国が原油に依存しない経済を目指すための国家的なプロジェクトである点において特に注目される。なお、都市デザインはイギリスのフォスター&パートナーズが担当している。

2010/08/14(土)(松田達)

藤本壮介展 山のような建築 、雲のような建築、森のような建築 建築と東京の未来を考える2010

会期:2010/08/14~2010/11/28

ワタリウム美術館[東京都]

藤本壮介による初個展。ワタリウム美術館の2階から4階までの3フロアを用いた展示は、どの階も所狭しと展示物が並べられており、展示にかける圧倒的な気迫が伝わってくる。2階はポリカーボネートの押出材を組み合わせた、雲をモチーフとしたひと続きの構築物。初期の《N House》が垂直に展開したかのような透明で内も外もない空間が生まれている。3階は事務所設立以前から現在までの作品が、模型、ドローイング、写真などによって展示されており、それらが「山のような建築、雲のような建築、森のような建築」と再定義されている。この階の展示は包括的で、藤本のこれまでの軌跡の全体像を知ることができる。特に各プロジェクトに小さな字で書かれた警句的なテキストは、藤本の思考を知る指針となり、展示の重要なスパイスとなっている。藤本がここで自身の活動を「山」「雲」「森」という三つのモチーフによってまとめていたことは示唆的だと考えられる。例えば、この中に『20XXの建築原理へ』(INAX出版)で挙げられていたような「樹木」や、やはりよくモチーフとして挙がる「洞窟」は入っていない。「山」「雲」「森」は、より何か大きな自然の幾何学を示している。あえて建築的な言葉に訳せばさしづめ「量塊」「無重力」「迷路」とでも翻訳できるだろうか。そこには建築をその内側に入り込み空間の次元で追い求めるのではなく、建築をその外側に回り込みメタファーの次元で追い求めるような藤本の思考が表われているように感じた。4階は発泡スチロールでつくられた青山一帯の都市模型で埋め尽くされており、ヴォリューム一つひとつが下部からスチールの支柱によって支えられることにより、既存の都市が雲のようにたなびくとともに、その中に「山のような建築」と空中に浮かぶ「空中の森/雲の都市」という二つのプロジェクトが置かれている。ところで、今回のこれらすべての展示に共通するテーマを上げるとすれば「雲=クラウド」ではないか。建築がその存在を単に弱めて消失していくのではなく、雲のような存在感へと変化することにより、瞬間ごとに多様な建築へと姿を変えることのできるような、そんな状況から藤本の建築が生まれているようにも思えた。いわば「クラウド化する建築」とも言えるような思考法が藤本の建築の背景にあるかのように感じた。

2010/08/14(土)(松田達)

Kring

[ソウル]

チャン・ユンギュを中心とした韓国の建築設計グループ韻生同による複合文化施設。弾丸によって衝撃が与えられたかのような、同心円状の刳形と開口部が金属パネルによって表現されており、非常にインパクトのあるファサードが生み出されている。内部に入るとファサードの裏側数メートルの部分が大きな吹き抜けとなっており、円形の開口部の奥には円筒状の通路や居室が配置されているなど、立体的な空間構成が生み出されており、さらに上部には円筒形や円形をモチーフとした屋上庭園が、やはり立体的に構成されている。奥の空間のインテリアも実によくデザインされており、透明感のある空間をつくりだしていたが、筆者は特にこの厚みのある吹き抜け空間の体験が印象的だった。チャン・ユンギュは「浮遊」や「無重力」といった概念を以前から建築のテーマとしているらしく、この吹き抜け空間にはそのような方向性がとてもよく現われていると感じた。

2010/08/05(木)(松田達)

東大門デザインプラザ&パーク

[ソウル]

ザハ・ハディドによるソウルの東大門近くの巨大なデザイン施設の開発計画。もともと東大門運動場があった約65,000平米の敷地に、ザハの流線型のデザインが展開する。東大門はファッション産業で知られていたが、近年は中国からの格安衣料品の流入などによって、その不振がつづいていた。そこでデザイン産業との複合によって、活性化が図られたという。現在、一部が完成しており、カフェや屋上庭園などに入ることができる。ところでこのプロジェクトに対し、ザハの過去のアンビルド・プロジェクトを知るものからの否定的な意見も聞いた。いわく、パースペクティブをずらし、歪ませ、鋭角的なラインによって調和を撹乱するデザインをしていたはずの彼女が、ここでは環境やランドスケープと調和した建築をつくっており、過去の挑発的だったデザインが見られないのが残念だと。確かに、少なくとも鋭角的なラインではなく、流線的なラインが全体に貫かれているし、知覚に不快を与えるようなデザインではない。とはいえ、筆者は実際に見学をして、その種のコンセプトとデザインの不一致といった疑問は特に感じなかった。まず何よりスケールが巨大であり、同じ戦略とコンセプトで建築をつくれるような状況ではないだろう。また流線型が持つ少しずつ風景が変化していくかのような効果は、むしろこれくらいの巨大なスケールにおいてうまく機能しているようにも感じられた。

2010/08/05(木)(松田達)