artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
可能世界空間論
会期:2010/01/16~2010/02/28
NTTインターコミュニケーション・センター(ICC) ギャラリーA[東京都]
ICCメタバース・プロジェクトにおける、メタバース研究会から生まれた展覧会。メタバースとは、メタとユニバースの合成語であり、ネット上の電子三次元空間を指す。舘知宏は多様な形を生成出来る建築折紙を、柄沢祐輔+松山剛士は一種の都市モデルを、田中浩也+岩岡幸太郎+平本知樹は単純なピースを組み合わせたさまざまな家具を、エキソニモはコンピュータ・ディスプレイ上に仕掛けのあるインスタレーションを行なった。特にこのなかで積極的に都市論に触れようとした柄沢+松山の展示について、触れておきたい。ポール・クルーグマンの経済理論を援用しつつ、均質な空間から多中心の世界に変化するモデルが、つねに格差を固定化する方向にしか働かない経済─都市モデルであることを示しつつ、それに対し、格差が固定化するその瞬間に、移動をもたらすことで、新しい都市モデルを提示しようとしたものである。二つのスクリーンがモデルの動的変化を示し、前面の展示物がその時間的な切断物であるという。固定化を阻む方法論が重要な点だと思われたので、その移動の瞬間が、リセットをかけるように見えたことは多少気にはなったけれども、都市の数理シミュレーションを可視化し、自己組織化プロセスをコントロールする都市モデルとして提示したことはとても意欲的かつ重要な試みに思われた。
展覧会URL:http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2010/Exploration_in_Possible_Spaces/index_j.html
2010/01/23(土)(松田達)
『la ville franchisée』
発行所:Edition de la Villette
発行日:2004年
ダヴィッド・マンジャンによる現代都市論。マンジャンは、SEURAの代表であり、レ・アールの再開発コンペで、OMA、アトリエ・ジャン・ヌーヴェル、MVRDVらに勝った、フランスで注目の都市計画家、建築家である。スプロール化しつつ郊外に広がるフランスのメトロポリスは、都市でも田舎でもない新しいハイブリッドな領域をつくり出している。本書は、都市の形態に注目しながら、そのようなフランスの都市的状況の背後にあるメカニズムを明らかにしている。マンジャンは、都市周辺部のいたるところで、道路網インフラ、戸建住宅地、郊外型ショッピングセンターという三つの組み合わせがあることに注目する。そして、ヨーロッパの都市だけではなく、アジア、アメリカ、アフリカの都市とも比較しつつ、それらが組み合わされた効果を検証する。特に都市形態に注目している点では、フィリップ・パヌレらによる名著”Formes urbaines de l' lot la barre”(邦訳『住環境の都市形態』)を意識しているといえるであろう。本書はフランスにおける都市論の新しい必携本になるかもしれない。
2010/01/04(月)(松田達)
Arch Daily
建築の情報メディア環境が変わりつつある。そのひとつとして、ブログ形式のウェブマガジンが存在感を強めている。2005年1月にオランダのハンス・イベリングスを編集長として『A10』が生まれたとき、東欧を含むヨーロッパ全体を包括的に捉えた、安価で革新的な建築雑誌だと思って注目した。それからちょうど5年経ち、状況はさらに変化した。チリの建築家David Basultoがエグゼクティブ・エディターを務めるArchDailyは、2008年3月に開始したばかりのブログ形式の建築情報サイトである。すでに2400件を超えるポストがあり、一日数度新しい情報が更新されている。一つのポストには、相当数の写真・図版が載っている。twitterやfacebook、flickrなどとも連動する仕組みがあり、さらに活発なコメントが寄せられることによってサイトが活性化している。この情報量とスピード感に、一時は建築がアイコン化されている元凶があるのかと思ったのであるが、もう少しじっくり眺めてみると、表面的なアイコン性はむしろサイトのデザインと構造から来るものであり、その背後にはかなり多様な情報が込められていることも見えてきた。同様の趣旨を持ったサイトは他にも幾つかあり、建築の伝達方法はこれらのサイトによって少しずつ変化してきているように感じている。
URL:http://www.archdaily.com/
2009/12/31(木)(松田達)
栗生明+渡辺真理 編『現代建築ガイドブック 千葉市』
発行所:建築資料研究所
発行日:2009年12月
千葉市優秀建築賞の1988年から2008年までの受賞作134件を紹介したガイド。地域ごとの建築賞はいろいろあるが、なかなか一般に周知されない。そうした意味で、本という形式で賞の制度を外部に向けて提示していくのは良い試みだと思う。栗生明のテキストは、千葉市における建築の歴史のほか、この賞の経緯や狙いも説明している。巻頭は、写真家の小山泰介さんの撮りおろしである。ケンチクのいわゆる竣工写真とは違う、都市の表面をスキャンし、異世界を出現させていくような作風が、ここでも展開している。ただし、MAPはもうちょっと使いやすいと、実際に見学に行くときに助かるのだが。
2009/12/31(木)(五十嵐太郎)
平野暁臣『空間メディア入門』
発行所:イーストプレス
発行日:2009年12月
著者は建築出身の空間メディアプロデューサーである。岡本太郎のお別れの会、六本木ヒルズのアリーナのイベント、リスボンやタイにおける展示企画、「明日の神話」再生プロジェクトなどを手がけるほか、岡本太郎記念館の館長をつとめている人物だ。本書は、全体を「空間で語る」「空間を活かす」「空間に求める」の三部構成としつつ、細かくは見開きの単位による87のトピックに分けて、空間づくりの方法論を講義形式で語っている。いずれも抽象的な理論というよりも、彼が実感した現場の教えをもとにしており、説得力をもつ。イベントという場をつくるにしても、それが空間と結びつくのは、建築を最初に学んだからなのだろう。インターネットの時代に、現実の空間メディアがどうあるべきかを考えるうえでも示唆に富む。
2009/12/31(木)(五十嵐太郎)