artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

「私たちのアトリエ…女子だけ?!」展

会期:2010/03/23~2010/03/27

南洋堂書店4階 N+ギャラリー[東京都]

5大学7人の3年生建築女子学生によるグループ「建築女子」による展覧会。建築女子は、結成から展覧会まで2カ月足らずであったが、特にツイッターを中心に、さまざまな経緯が効果的に波及し、話題を呼んだ展覧会となった。そもそもツイッターで知り合ったメンバーもいたという。展示内容は、大学での課題をベースにしたもので、それぞれの個性がただよう。個人的に印象的だったのは水彩画を効果的に利用した冨永美保による飯田橋駅の立体的なアプローチ計画と、もっともメルヘンチックで、いわゆる女の子らしさを表現していた加藤悠による、部分的にドレープ化した曲面壁が構成する円形住宅であった(字数があればもちろんほかの作品についても触れた)。とはいえ、必要以上に内容を過大評価するわけではない。話題先行のところもあった。筆者は事前に彼女たちに、建築系ラジオとしてインタビューをしていた段階で、既存の「女子」のイメージに対して、異なる何かを提示するような「意図」があるのかと思っていた。しかし蓋を開けてみると、積極的にグループとして提示された展覧会意図は、なかったように感じられた。にもかかわらず、この展覧会には意図的にはできない何かがあったように思われたところが、この展覧会の成功の一因ではないかと思う。まず、本人たちが会場にずっといて、一人ひとりに根気よくプレゼンテーションしていた。このアピール力は相当のものだ。そして、好きな本や音楽など、作品以外のものを同列に展示していたこと。建築を学ぶ学生の環境そのものが展示されていた。そして、ネーミング。「建築女子」は、ほとんど一般名詞に近い。展示と同じで一見「意図」が欠けているように思われる名称である。そうであるがゆえに、見る側はそれぞれの「建築女子」のイメージをつくりやすいし、ほかの建築女子学生にとっては、メンバーの作品がたまたま自分たちをリプレぜントする存在であったかのように思いやすかったのかもしれない(実際、私こそが「建築女子」という人からの反応を何人も受けた)。話題にはなった。うまく批評のされやすい立場を獲得した。だからこそ、次回は、さらなる意図を込めた彼女たちの企画も見てみたい。

URL=http://event.telescoweb.com/node/11161
建築系ラジオ=http://tenplusone.inax.co.jp/radio/2010/03/joshi1.php

2010/03/27(土)(松田達)

shibuya1000

会期:2010/03/13~2010/03/22

渋谷駅地下コンコース他[東京都]

今年で二回目を迎える渋谷におけるアーバン・エキスポである。渋谷駅を舞台とし、数多くの作家が渋谷の魅力を伝える展示を行なっていた。「エリアマネジメント」の一環として行なわれたことは特筆すべきであろう。開発ではなく、管理運営による都市づくりのひとつの在り方としても、本イベントは位置づけられよう。多くの展示があったが、わりと時間をかけて見ることのできた、二つの展示にふれておきたい。杉浦久子+suginocoによる「オノマトペB面」は渋谷の地下空間に現われる擬声語を立体化し(「ざわざわ」「チャリーン」等)、垂直方向を誇張した模型として制作して表現したもの。漫画的であるのに三次元化している、ユーモラスなのに何故かシリアスに都市分析をしているなど、アンビヴァレントな表現が面白い。東急文化会館再開発地区の仮囲いを利用したg86の「QR Code Museum」は、点在するQRコードによって新世代クリエーターの作品を紹介するもの。おそらく、訪れるタイミングが悪かったのか、実際に使用する人はなかなか見られなかったが、各QRコードが示すURLにより作品が陳列されているというわけである。このアイディアは、さらに都市の中に展開していくと面白くなるだろうと期待させた。より具体的に都市へ介入している建築家/作家として、mi-ri meterの作品(「MDRIX」や「テントス24」)を思い出したのであるが、実際g86のメンバーもmi-ri meterの手法に影響を受けていたのだという。

URL=http://www.shibuya1000.jp/

2010/03/22(月)(松田達)

「デザイナーズ集合住宅の過去・現在・未来」展

会期:2010/03/10~2010/03/20

新宿NSビル16階 インテリアホール[東京都]

ミサワホームAプロジェクトの大島滋と、社会学者の南後由和が企画監修にあたり、集合住宅のあり方を、さまざまな観点から取りあげた展覧会。「デザイナーズ」と付いているが、実際には「デザナーズ集合住宅」という枠組み(なんてそもそもつけられないであろうが)を揺らすような、構成であったともいえよう。会場は5つのパートに分かれ、それぞれ、集合住宅に関する統計データの可視化、集合住宅的要素についてのアンケートからの展示、企画仲介業者によるパネル説明、10の系に分けた世界の集合住宅の紹介、Aプロジェクトによる建築家のプロジェクトの展示である。集合住宅をめぐって、大きく三つの視点が絡み合いながら展開していたのではないか。つまり、社会学者の視点、不動産会社の視点、建築家の視点である。それらを統合する答えを出そうとしているわけではない。むしろ、並列して視点を提示しているところが、複雑にさまざまな立場の人たちが絡んで成立している集合住宅の現実を示しているように思われた。大島氏の成果のひとつは、その複雑な現実の立場のひとつとして、建築家を提示したところにあるだろう。南後氏を起用したことからも分かるように、建築家を社会とつなごうとする、真摯な意図を持つ企画であったといえる。

URL=http://www.a-proj.jp/event.html

2010/03/19(金)(松田達)

前田紀貞 建築サロン TENZO

会期:2010/03/14

TENZO[東京都]

建築設計事務所の半分を改装して、バーにしてしまう。こんな意表をついたことを、建築家の前田紀貞は行なった。実際、バーテンの経験のある所員がそこで働く。天井高約4m。多くの建築模型と写真、書物、そして前田の誇るオートバイ(カワサキZ2)などが、空間を彩っている。「典座」(TENZO)とは、禅宗における炊事係を指し、単なる裏方ではなく、非常に重要な役職なのだという。前田は「炊事こそ人間の一切の“素”を計らうこと」であるといい、建築も炊事もその意味で同じだという。つまり、このバーは炊事と建築を同時に提供する空間なのである。前田は最近ブログで書いた草食系建築家批判が話題になったが、これほど男気のある建築家を僕はほかに知らない。建築系ラジオの討議をこの場所でしたいという依頼を快諾していただき、3月にこの場所で前田氏を含めて2010年代の建築を語る討議を行った。草食化され、幼児化されているという現在の建築界に対し、男を磨かなければ、そして女を磨かなければ、よい建築はつくれないという前田の発言は、いま失われつつある何かを的確に指摘していたかもしれない。

2010/03/14(日)(松田達)

原広司『YET』

発行所:TOTO出版

発行日:2009年12月25日

原広司による未完の作品40点の作品集。フルカラーで日英スペイン語の三カ国語併記。スペイン語が加わっているのは珍しい。近年の南米でのさまざまな活動があるからであろう。巻末にはBUILTとYETの対比年表が並んでおり、「YET」という言葉から、実現への凄まじい気迫を感じる。有孔体の建築から、 シリーズ、地球外建築、離散型都市と、壮大なプロジェクトが続く。ところで、作品と同じく濃密なのが、本書全体に散りばめられた、端的な言い切りの形のいくつもの格言である。「はじめに、閉じた空間があった」「住居に都市を埋蔵する」など、よく知られたものを含め、原の40年以上の建築的思考が凝縮された文言の数々である。原の文章は難解で知られるが、数学的な記述の難しさを除けば、論旨はわかりやすい。逆に、格言は端的な一言であるが、説明がないからこそ難解で、考えさせる重みを持つ。原の建築にはそのような難しさと分かりやすさが同居しているかのようだ。原の難解なテキストに躊躇した人も、本書の格言の束によって原の思考をたどることができるだろう。

2010/03/12(金)(松田達)