artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

トウキョウ建築コレクション2010

会期:2010/03/02~2010/03/07

代官山ヒルサイドテラスF棟/ヒルサイド・フォーラム[東京都]

卒業設計に対して修士設計がこれまでそれほどイベント的には取り扱われてこなかったのは、大学院の修士要件が、基本的に修士論文であったからである。しかし、近年多くの大学で、修士設計で修了ができるようになってきており、それが本イベントのはじまった背景としてあるだろう。修士設計の日本一決定戦ともいえるトウキョウ建築コレクションは、2007年に始まり今年で四年目を迎える(初年度のプレイベントとして2006年11月に「トウキョウ建築コネクション」が開かれた)。これまでの修士設計展、修士論文展、講演会に加え、研究室単位のプロジェクトを発表する修士プロジェクト展も加わった。筆者は、今年はじめて会場を訪れた。自分が修士の学生であった時は、このようなイベントはなかったので、まず多くの発表の機会があることに羨ましさを感じた。また卒業設計とはさすがに二年の差を感じさせる、一発勝負ではない完成度をどの作品も持っていた。特に感じたのは、リサーチ的な設計が増えてきていたことである。形にたどり着くまでの思考をリサーチとしてまとめてある作品などが散見されたが、こういった傾向はこれまでにはあまり多くなかったかと思う。いわばリサーチとデザインの統合的な設計が増えてきているという徴候を感じた。なお、論文をA1一枚でプレゼンテーションしてあることや、大学の研究室の特色が見えてくる修士プロジェクト展もとても興味深かった。設計に加えて、論文、プロジェクトなど、多様な発表の機会が同時にあるところが、大学院の活動の広がりを感じさせた。

http://www.tkc-net.org/

2010/03/02(火)(松田達)

新潟三大学合同卒業設計展 Session!2010

会期:2010/02/26~2010/02/28

新潟市美術館[新潟県]

ここ数年、日本の建築教育において、卒業設計に大きな注目が集まっている。それは全国の建築学科の学生が参加可能な「せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦」をひとつの頂点として、各地域において複数の大学が合同して企画する合同卒業設計展も増えてきたためだといえるだろう。「新潟三大学合同卒業設計展Session!2010」は、昨年に引き続いて二回目の若いイベントであり、このような動きのひとつだと言える。昨年もartscapeにて触れているので、前回との違いについて述べておきたい。今年は新潟大学、新潟工科大学、長岡造形大学に加えて、富山大学、金沢工業大学も参加し、新潟県だけではなく、日本海側の他県を巻き込んだイベントに発展した。二年見てはじめて分かることがある。日本一決定戦は誰もが意識しているが、その影響はそこまで単純に現われるわけではない。とはいえ、逆に去年の同じイベント(Session!2009)での作品の影響がかなり現われていたことも感じた。一方で、今回は五大学あり、大学ごとのカラーがかなり強く出ていた。モードを抑えた金沢工業大学、建築から距離をとる富山大学、地域性を意識した新潟大学、社会的テーマ設定にオリジナリティが強い新潟工科大学、圧倒的にプレゼンが美しい長岡造形大学。この五大学のよさが組み合わさるだけで、傑作が生まれる気もした。昨年のシンポジウムでは「地方都市」がテーマになっていた。本年、三日間さまざまな人たちとの会話で何度も現われ、自分も強く思ったのは、当たり前だけれども地方都市からの発信が単なるお国自慢になってはいけないということ。地方都市から東京だけを見るのではなく(地方/都心という関係を強調するのではなく)、隣の地方都市をよく見て、その違いを認識することで、はじめてその都市の特徴が浮かび上がってくる(地方/地方という関係性を強調する方向性)。それと同じような意味で、異なるタイプの五大学が集まっていたことはとても幸運だと感じた。互いの違いを認識して、よい部分を吸収することができる。そういった都市ごとの差異を踏まえた上での情報発信こそが、真に地方都市の可能性を高める方法ではないかと思った。なお、イベントの三日目では、新居千秋氏が基調講演をし、中谷正人氏がコーディネーターとなったシンポジウム「建築の2010年代を考える」が開かれた。2010年代におけるひとつの可能性は、地方/都心という軸に、地方/地方という多様な軸を重ねていくところにあるのではないかと思った。

http://sotsukeiten2010.atgj.net/

2010/02/28(日)(松田達)

メタル放送大学

会期:2010/02/13

横浜創造界隈 ZAIM[神奈川県]

かつてこれだけゲストが蔑ろにされたイベントも珍しいだろう。筆者は、音楽におけるメタルとは何かということもよく分かっていないのであるが、たまたま機会があってこのイベントを会場で見ていた。呼ばれたゲストは登場時の拍手もない、発言の機会も最後まで少ない、ゲストの何人かは用意してきたネタも披露できないまま終わってしまうなど、イベントとして多くの不備があったと感じざるを得なかった。メタルに関して多少知識が増えたことは良かったけれども、まるで主催者側がゲストであるかのようなイベントにも感じた。ネガティブであるけれども触れるのは、ustreamなどでもすでに公開中継をしていたし、また筆者は会場で会費を払って見ていたためでもある。加えて、音楽イベントでありつつ、建築系のゲストが多かったからでもある。
さて、この経験を誰がどう活かすべきか。五十嵐太郎氏もツイッターなどで書いていたように、特にこれからイベントを企画する学生などが、反面教師とすべき点は多いだろう。ところで、筆者がむしろ興味深く思ったのは、このイベントがutream+twitterという、ここ半年ですでにイベントの標準と化した方法で外部に発信しており、途中外野からイベントの進行に対する問題を指摘する書き込みが山ほどあったにも関わらず、それがまったく機能しなかった点である。会場ではそのコメントが後ろの画面に投影されてもいた。個人的にはなんだかんだと楽しんで見ていた側であり、主催者側も苦労しつつのことであったと思うが、特にさまざまなイベントが増えつつある建築分野において、このようなイベントから、メディアを誰が何の目的で使うのかということに関して学ぶことは、とても多いのではないかと思った。主催者には、ぜひ次回以降、より良いイベントを続けて頂きたい。

http://www.akumanoshirushi.com/metal2.htm

2010/02/13(土)(松田達)

三分一博志《WoodEgg お好み焼館》

[広島県]

竣工:2008年

広島の建築家、三分一博志による、お好み焼きに関する展示・情報発信施設。特徴的な卵型の形態はすべてセランガンバツのルーバーで覆われ、日射量調節のため、方位ごとに方向が変えられているという。特に興味深かったのは、おそらく建築家の意図とは独立して、建築が都市におけるある種のアイコンとしても機能しはじめているように見えた点である。モニュメントが何らかの別の事象を記念する建造物であるのに対して、アイコンは自分自身を記念している建造物だといえるだろう。レム・コールハースの言葉を借りれば自己モニュメント、チャールズ・ジェンクスによれば異なるイメージを圧縮しつつ、わかりやすさを持った建築である。実は日本において、アイコン的な建築をあまり見ることがないと思っていたところに、この建築を見て、アイコン建築のイメージの強度を感じた。現在、アイコン建築そのものには賛否が入り交じっている。けれども、特に平板に見える日本の地方都市の風景には、このWoodEggのような、良質なアイコン建築がとても馴染み易いことを実感した。

2010/02/12(金)(松田達)

谷口吉生《広島市環境局中工場》

[広島県]

竣工:2004年

谷口吉生による清掃工場。巨大なヴォリュームに対して、長手方向側面に直角に入り込む吉島通りを延長した道路上部の二階部分が、エコリアムと呼ばれる貫通通路となっており、この部分が一般市民に開放されている。エコリアムとは、エコとアトリウムを組み合わせた造語であり、ガラスを通して見る清掃工場の巨大でメタリックな焼却装置は、恐ろしく美しいオブジェと化していた。谷口は豊田市美術館など、多くの美術館建築の設計で知られるが、清掃工場の機械までも美術品のように見せてしまう手腕にうならされた。プランの構成も圧倒的な説得力を持っている。吉島通りの行き止まりを延長して海につなぐのがこの通路であり、最短距離の公共通路によって、建築全体が、最大限に公共化されているように感じた。海に向かって突き出す通路の少し手前から下に降りる階段の存在感が絶妙で、ここでは入口部分での行き止まりを延長する感覚がリフレインされていたと感じた。

2010/02/12(金)(松田達)