artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

建築系フォーラム2010

会期:2010/02/11

広島国際大学呉キャンパス1号館2階会議室[広島県]

広島国際大学の学生企画団体scale主催のシンポジウム。「地方建築家のロールモデルを考える」というテーマのもと、筆者を含む四人の30代建築家が、地方で建築家として活動するための四つの異なるロールモデルを提示して、議論を進めた。土井一秀は「アトリエ・モデル」、松岡聡は「往復モデル」、北川啓介は「プロフェッサー・モデル」、筆者は「メディア・モデル」という位置づけから、それぞれのモデルの可能性について語った。シンポジウムを通し、筆者は大きく二つのことを考えた。ひとつ目。おそらく地方都市で建築家として活動することには、東京に比べてさまざまなデメリットがあると考えられているかもしれない。しかし、単純にそう結論づけるのではなく、地方都市からの具体的な活動の可能性をさまざまに検証するべきだと、ポジティブな議論ができたことは、大きな成果だといえよう。二つ目。四者はそれぞれ海外経験を経ており、そのことと地方都市での活動の関連性も討議された。おそらく、日本における東京の存在感を相対化できるのが、海外という場所であり、特に欧米での滞在経験は、個々の都市の可能性に目を向けさせるのではないか。地方都市と海外都市というとやや距離があるように思われるかもしれないけれども、いわゆるグローバル・シティを介さない都市間ネットワークに注目が集まり始めたともいえよう。このシンポジウム自体が、地方都市からの一つの発信ともなっていた。

http://event.telescoweb.com/node/11033

2010/02/11(木)(松田達)

磯崎新+浅田彰編『ビルディングの終わり、アーキテクチュアの始まり』

発行所:鹿島出版会

発行日:2010年1月30日

本書は、全10回のAnyコンファレンスにおける定番の出し物、磯崎新と浅田彰による掛けあいのプレゼンテーションを再収録し、巻頭と巻末にそれぞれのエッセイを加えたものである。それぞれの討議から切り離して、二人によるトークの部分だけを改めて通読すると、そのときどきに磯崎が関与していた著作、プロジェクト、展覧会などをトピックとしつつ、浅田が注釈を入れるかたちで進行していたことがよくわかる。キーワードに注目すると、「デミウルゴス」「島」「ネットワーク」「分子的」などが挙げられるだろう。やはり、90年代の急激な情報化を引き受けつつも、建築の概念を問うている。Any会議の終了後、言説のシーンは変貌し、ゼロ年代において、アイコン建築やアルゴリズムの問題系が浮上するわけだが、そこへの助走として読むこともできるだろう。

2010/01/31(日)(五十嵐太郎)

磯崎新+浅田彰編『建築と哲学をめぐるセッション 1991-2008』

発行所:鹿島出版会

発行日:2010年1月30日

1990年代に行なわれた建築の国際会議シリーズ、Anyコンファレンスの日本語版のために行なわれた討議を収録したもの。いずれも会議の後で行なわれたものなので、各開催地での裏話や参加者のエピソードなど、磯崎と浅田の尽きることがない、おしゃべりが楽しめる。と同時に、1990年代の建築界において何が起きていたのかを振り返るための定点観測としても読めるだろう。デリダの脱構築からドゥルーズの流体的生成へ。そして獰猛なグローバル資本主義の台頭によって、理論やデザインが無効化し、コールハースだけが残った。本書の最終章「Anyコンファレンスが切り開いた地平」において、浅田が「新しい理論的な枠組みを示すというより、旧来の理論的な枠組みが瓦解していくプロセスを体現している」と総括しているのが、印象的だ。20世紀を看取るイベントだったのかもしない。

2010/01/31(日)(五十嵐太郎)

原克『美女と機械』

発行所:河出書房新社

発行日:2010年1月30日

本書は、20世紀において、いかに女性の理想的な体型を求めてきたか、あるいは体型が求められてきたかを批判的に分析する、身体論である。原克は、雑誌の記事や広告の写真を素材に、健康=美の神話や身体のイメージを追いかけていく。その特徴は、ジェンダー論よりも科学の表象の問題として読み解く点である。なるほど、空気式バスト成形下着、ストレッチ機械、ベルト式振動機、拷問器具のようなストレッチ寝台、電動式乗馬マシン、体重計など、さまざまな器具が身体のまわりに登場した。通販でも人気の商品である。そして健康工場のようなモダンな病院。コルセットから解放された近代以降も、矯正やエクササイズを通じて、女性の身体は機械と接合した。理想の身体の神話によれば、痩せ型が批判され、スリーサイズがつくる曲線が美を生み、すぐれた男性と結婚でき、優秀な子供を産める。本書は、見慣れた身体の形成に機械がすでに介入していたことを教えてくれる。

2010/01/31(日)(五十嵐太郎)

原広司『YET』

発行所:TOTO出版

発行日:2009年12月25日

わずか2,000円で、フルカラー。しかも、全文がバイリンガル。京都と大阪と札幌に都市のランドマークとなる巨大建築を実現し、70歳を過ぎてもなお走り続ける原広司のこれからを堪能できる一冊だ。こうした豪華な本をつくれるのは、TOTO出版ならではの企画だろう。『YET』というタイトルがついたのは、彼が提示した構想でまだ未完のプロジェクトを紹介しているからだ。磯崎のアンビルドは、過去─現在─未来の時間の錯乱であり、現実と虚構も反転させるトリックである。一方、原の『YET』は、1965年の有孔体の世界から2008年のΣ3まで、40の作品を通じて、未来に投げかける強いヴィジョンを打ちだす。それは思惟を重ね、言葉によって構築された固有の概念が、建築に結晶していく意志というべきものだ。90年代以降に定番となった日常の生活の延長としての建築ではない。宇宙のスケールから、原は建築を構想している。京都駅が完成したとき、ニュータイプの空間が実現したと感じたが、まさに来るべき新人類のための建築なのだ。

2010/01/31(日)(五十嵐太郎)