artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

ティンバライズ建築展

会期:2010/05/21~2010/05/30

スパイラルガーデン[東京都]

2000年の建築基準法改正により、木造による耐火建築が可能となり、都市の中で大規模木造建築物をつくることが現実的となった。本展覧会は、表参道とその周辺地域に7つの木造建築プロジェクトを計画したものを展示することにより、「都市木造」の可能性を問うたものとなっている。単に法規的な規制緩和との関係だけでなく、木造建築は炭素を固定することから、低炭素社会への布石ともなっている。会場を見て、建築に新しい「種」が現われたかのような驚きを感じた。もしこういった都市木造建築が可能になっていけば、都市部における構造の選択肢が増えるわけであり、さらには木造超高層といった未踏の建築も生まれる可能性もある。さらに大学の研究室や建築家による提案プロジェクトコーナーは、その可能性をさらに展開するものであった。現時点では、4階以上の木造建築で実現しているものは多くはないが、本展覧会は実現可能な未来を展示するものであり、今後の新しい流れが生まれる兆しを感じさせた。

2010/05/21(金)(松田達)

青木茂『建築再生へ』

発行所:建築資料研究社

発行日:2010年3月1日

精力的にリファイン建築をつくる青木茂の新刊である。今回は、田川後藤寺サクラ園やルミナスコート壱番館など、具体的な事例をもとに、行政対応、計画、施工などのポイント、そしてクライアントの声を紹介しており、実践的な手引書をめざしたものだ。むろん、リファン建築は、まさにケース・バイ・ケースであり、一般的なマニュアル化は難しいだろう。が、それゆえ、各プロジェクトからさまざまなドラマも読みとれて興味深い。

2010/04/30(金)(五十嵐太郎)

日刊建設通信新聞社(編)『復刻 建築夜話 日本近代建築の記憶』

発行所:日刊建設通信新聞社

発行日:2010年3月

貴重な本である。これは1960年代から70年に日本短波放送にて放送した建築家、歴史家、構造家らの対談シリーズを収録したものだ。現在、筆者も建築系ラジオという自主的なメディアを展開していることもあって、音声によるオーラルヒストリーの重要性とおもしろさを感じているだけに、本書の試みがいかに重要なのかがよくわかる。丹下健三、アントニン・レーモンド、村野藤吾、内藤多仲、藤島亥治郎らに対し、若い作家や彫刻家らが聞き役となり、建築についての想いが率直に語られる。やはり、ここには書き言葉とは違う、生々しい言葉がある。公式な歴史に記録されないような、ささいなエピソードもおもしろい。もっとも、これは専門家同士の難しい対談でもない。相手が建築の専門でない場合、さらにわかりやすい言葉が選ばれている。欲を言えば、音声データが入ったCDを付けるか、一部だけでもウェブから聴けるようになっていれば、もっと良かったのだが。

2010/04/30(金)(五十嵐太郎)

山本理顕他『地域社会圏モデル』

発行所:INAX出版

発行日:2010年3月30日

「建築のちから」シリーズの第三弾である。今回はずばり社会が主題だ。山本理顕が近代における一家族=一住宅モデルの限界を指摘し、その突破口として「地域社会圏」を提案し、400人の共同生活のモデルを三人の若手建築家に投げかけた。フーリエなど、かつての社会主義ユートピアを想起させるが、住宅や集合住宅のプロジェクトを通じて、これまで山本が考えてきたことの集大成である。長谷川豪はピラミッドのような大きな大きな屋根の集合住宅を都心に構想した。藤村龍至は、郊外に自律性が強い囲み型の「ローマ2.0モデル」を掲げ、コンビニを散りばめた「都市国家」を再召還する。そして中村拓志は、農村に巨大な巣としてのグリッド状の構築物を提示した。これらは批判を恐れず、あえて未来の社会を考える実験的なプロジェクトだろう。本書の後半では、彼らの提案をめぐってさまざまな討議がなされている。そして東浩紀を交えたセッションでは、国家と家族のあいだに位置する地域社会をサポートするシステムとして、現代的なコンビニ、変わらない池上本門寺=宗教施設、フレキシブルな公共空間などが注目された。

2010/04/30(金)(五十嵐太郎)

磯崎新+新保淳乃+阿部真弓『磯崎新の建築・美術をめぐる10の事件簿』

発行所:TOTO出版

発行日:2010年2月25日

これは二人の美術史家、新保淳乃、阿部真弓が、磯崎新にインタビューを行ない、美術と建築を横断しながら語る形式の本である。第一章は15世紀のルネサンスから始まり、一世紀ごとに各章が進み、第六章からは1900~10年代となり、20年ごとに進行し、ラストは1980~90年代を扱う。かつて磯崎は『空間の行間』において福田和也と日本建築史と文学を交差させて討議していたが、今回は建築と美術のクロストークだ。1968年のミラノトリエンナーレの占拠など、いろいろなところで語られるおなじみのエピソードも多いが、美術の文脈から引き出しをあけているために、異なる角度から読む楽しみがある。本書は漫然と歴史を振り返るわけではない。もうひとつのテーマはイタリアである。本書のもとになっているのが、イタリアの建築雑誌『CASABELLA』の日本版を作成するにあたって企画された連載だったからだ。膨大な固有名詞が吐き出され、めくるめく知的な会話が展開する。読者がある程度の西洋建築史や美術史の素養をもっていなければ、知らない言葉の森のなかで途方に暮れるだろう。近年の建築論は身のまわりや現在の問題ばかりに焦点をあてる傾向が強いが、本書は時代と場所のスケール感が圧倒的に大きい。例えば、第三章の17世紀では、パトロンの問題を語っているが、バロックに限定せず、現代の状況についても触れている。もっとも、ここで語られていることくらい、普通に読まれるリテラシーが建築界や学生にも備わっていて欲しいのだが、現状は厳しそうだ。

2010/04/30(金)(五十嵐太郎)