artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

村上心『THE GRAND TOUR ライカと巡る世界の建築風景』

発行所:建築ジャーナル

発行日:2009年3月1日

建築を学び始めた人にぜひ手に取ってもらいたい一冊である。写真家であり建築研究者でもある村上心氏にいただいた。平易なテキストで、世界のさまざまな都市への旅の内容とともに描かれるエッセイ。そのなかには建築を学ぶための基本的な用語の解説も含まれている。建築を学ぶのに旅は不可欠であることは多くの建築家が語るところであり、旅に一眼レフのカメラを持っていく人も多いだろう。本書には写真の撮り方に触れられているページもある。建築風景という言葉が新しく感じた。風景として写真に撮られる建築は、街の一部として、建築と都市の熟成した関係を示している。風景と建築をつなげる思考というのも面白そうだと思った。

2009/06/01(月)(松田達)

建築教育国際会議(IAES)

会期:2009/07/17~2009/07/19

東京大学工学部1号館、安田講堂、福武ホール[東京都]

展覧会ではないが、興味深いイベントということで触れておきたい。建築教育国際会議が東京大学にて開かれる。「建築教育と職能の世界標準化をどう考えるか」というタイトルがついており、UIA(国際建築家連合)が形成する建築教育のグローバルな基準と、ローカルな実践現場における教育システムとのギャップが生む軋轢についての議論のプラットフォームと、国際的な建築教育のネットワークをつくることが目的にあるという。ゲストは、阿部仁史、古谷誠章、伊東豊雄、隈研吾、難波和彦、小野田泰明、塚本由晴、山本理顕、ヘルムート・アンハイア、ニールカンス・チャヤ、プレストン・スコット・コーエン、ダナ・カフ、オディル・デックほか。これだけの充実したメンバーで3日間にわたりどのようなことが討議されるのか、非常に注目される。

URL:http://www.iaes.aud.ucla.edu/

2009/05/31(日)(松田達)

ル・コルビュジエと国立西洋美術館

会期:2009/06/04~2009/08/30

国立西洋美術館[東京都]

開催中の展覧会であるが、筆者がまだ見ていないことを理由に紹介が遅れてはいけない。ル・コルビュジエが設計し、3人の弟子である坂倉準三、前川國男、吉阪隆正が、現場管理を担当して完成した国立西洋美術館の本館が、今年で開館50年を迎える。この本館の歴史を写真や資料によって辿る展覧会であり、その構想を検証するという。多くの関連イベントが6月から8月にかけて開かれる。山名善之、妹島和世、松隈洋、林美佐、ヨコミゾマコト各氏らの講演会(いくつかはすでに終了)、また建築ツアー、ワークショップ、コンサートなど、盛りだくさんのようである。
国立西洋美術館は、ル・コルビュジエ設計による世界各国の他の21件の建築物とともに世界文化遺産登録への推薦書が提出されており、登録されれば東京初の世界遺産となる。2009年5月に登録延期勧告を受け、最終審議は6月22日からセビリアで開かれる世界遺産委員会でなされるが、そのタイミングとも連動した展覧会であり、結果が注目される(暫定リストには既に登録されている)。なお暮沢剛巳著『ル・コルビュジエ 近代建築を広報した男』(朝日新聞出版)も6月に出版されるなど、再びル・コルビュジエへの注目が集まりそうだ。

URL:http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/corbusier200906.html#mainClm

2009/05/31(日)(松田達)

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『10+1 No.48 特集:アルゴリズム的思考と建築』

発行所:INAX出版

発行日:2007年9月30日

建築におけるアルゴリズムという概念の火付け役の一つとなった本。その先見性が素晴らしい。編集協力は柄沢祐輔。単にアルゴリズムを新しい建築用語として持ち出そうとしているわけではない。柄沢は、アルゴリズムを「決定ルールの時系列をともなった連なり」として定義し、広義な文脈に結びつける。巻頭には磯崎新、伊東豊雄らへのロング・インタビューもあり、もっともハードコアな建築家の思考のなかに「アルゴリズム的思考」の痕跡を見つけ、現在の流れへと結びつけていく。過去の建築や、建築以外の分野からも「アルゴリズム的思考」を抽出する。おそらく、早すぎた特集だったともいえる。筆者も本書に関わっていたのだが、最近になって読み直してみて、新しく理解できた部分が多かった。
例えば『計算不可能性を設計する──ITアーキテクトの未来への挑戦』の著者である神成淳司へのインタビューは、コンピュータ・サイエンスの話だと思って当初は読み飛ばしていたのだが、四つの計算不可能性をめぐって情報レベルと建築レベルの話が仮構されており、アルゴリズムというより、情報科学の見地から建築を考える思考にまで至っていて興味深かった。計算不可能性を分類して見いだすことで、それを乗り越える新しい可能性を見つけるという思考を、建築にも適用しようとしているのだ。

2009/05/31(日)(松田達)

村上心『THE GRAND TOUR ライカと巡る世界の建築風景』

発行所:建築ジャーナル

発行日:2009年4月

建築再生の研究者が、海外の調査やワークショップのあいだに、撮りためた写真をもとにして、「建てない勇気」や「これからの建築家職能」など、幾つかのテーマを設定し、エッセイを綴る。これをグランドツアーに見立て、パリに始まり、シドニーやソウル、アムステルダムやハワイを経て、再びパリに戻る。いわゆる建築写真ではない。街の風景をとらえた写真である。これらを見ると、旅の気分を感じながら、さまざまな思考をめぐらすことができる。

2009/05/31(日)(五十嵐太郎)