artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
カンポ・バエザの建築
会期:2009/06/25~2009/08/29
ギャラリー・間[東京都]
クライン・ダイサム・アーキテクツ展に続いて、カンポ・バエザ展が、ギャラリー間で開かれる。マドリッドを中心に活躍する建築家カンポ・バエザは、《グラナダ銀行》(2001)などいくつかの作品で知っていたが、実際のところその活動の全貌については、特にここ最近知ることがなかった。しかしミニマルでシンプルな空間に、光を効果的に用いる建築家として、ずっと気になる建築家であった。多分、スペインではもう大御所建築家ではないだろうか。日本では初めての彼の展覧会ということで、どのような展示になるか楽しみにしている。
2009/04/30(木)(松田達)
建築家 坂倉準三展─モダニズムを生きる:人間、都市、空間/モダニズムを住む:住宅・家具・デザイン
- 神奈川県立近代美術館 鎌倉[神奈川県]
- 会期:2009年5月30日~9月6日
- パナソニック電工汐留ミュージアム[東京都]
- 会期:2009年7月4日~9月27日
坂倉準三展がはじまる。しかも、同時期に二つの場所で、二部構成という形で。神奈川県立近代美術館では、図面、写真、模型、資料など200点からモダニズムに迫り、パナソニック電工汐留ミュージアムでは、主に住宅と家具に焦点を当てるという。ル・コルビュジエの弟子である坂倉準三を振り返り、今日的意義を探るという企画展。場所の離れた二カ所で開催ということは、かなりの展示物があるということだろう。新たな坂倉像がどう見えてくるのか、期待したい。
2009/04/30(木)(松田達)
ケンチクのウンチクvol.1 建築学生のハローワーク編
アップリンク・ファクトリー[東京都]
渋谷のアップリンク・ファクトリーにて開かれた建築イベントの第1回。『建築学生のハローワーク』(彰国社)の編著者である五十嵐太郎氏、ぽむ企画の平塚桂とたかぎみ江さんが司会。ゼネコン、アトリエ、デベロッパー、非建築家をそれぞれ代表して、コンペキラーで名を馳せ竹中工務店にて活躍する宮下信顕氏、いわば正反対の安藤忠雄事務所とSHoPを経て独立した豊田啓介氏、ゼネコンからデベロッパーに転職した篠原徹也氏、日本のドラッグ・クイーンの第一世代であるヴィヴィアン佐藤氏が、それぞれの就職や転職にまつわる経験をプレゼンテーションした。コンペ必勝法や、お金の流れなど、学生にとっては普段聞けない話がたくさん聞けたはず。かくいう筆者もかなり勉強になった。建築関係の異なる業界の人たちが横断的に語る機会はなかなか珍しく、この種の建築関係のイベントとしてまったく新しいタイプのものであり、面白かった。
アップリンクは建築映像のDVDを多く発売していることでも知られるが、マイクロ・カフェシアターであるアップリンク・ファクトリーでは、映画の上映を初めとしてトークショー、シンポジウムなど、さまざまなイベントも行なっている。毎月第2週・第4週の月曜日・火曜日には、クリエイターのために無料でスペースを貸し出しているのだという。渋谷でこれだけ自由に使える場所があるとはすごい。クリエイティヴィティを感じる場所である。
2009/04/29(水)(松田達)
『レム・コールハース:ア・カインド・オブ・アーキテクト』(DVD)
発行所:アップリンク
発行日:2009年1月9日
レム・コールハースはつねに両義性のなかを生きている。母方の祖父ディルク・ローゼンブルフは建築家、父アントン・コールハースはライター。レム・コールハースは建築家にしてライターである。幼少期をアジアで育ち、物心ついてからヨーロッパに移る。設計事務所であるOMAに加えてシンクタンクであるAMOを組織し、建築を編集的な手法で、建築以外のものを建築的な手法で、作品とする。
このDVDは建築家コールハースを追ったドキュメント映画であるが、副題がそうであるように(一種の建築家)、そこから浮かび上がるのは建築という領域をはるかに越えた思考を展開する、コールハースという巨人である。圧倒的な映像の情報量。そもそも作品数も多いし、一つの作品のために生み出される膨大なダイアグラムやスタディ模型、リサーチの量が膨大なのだけど、そこに例えばミン・テシュによるアニメーションなど、独自の映像も加わっている。またセシル・バルモンド、リチャード・マイヤー、ディルク・ベッカー、オーレ・スケーレンらが、多面的にコールハースを語る映像も貴重だ。
特に、建築をはじめる前のコールハースについて、知らない情報が多かった。祖父が建築家であったこと、14歳ですでに建築家を目指していたこと、ル・コルビュジエにインタビューした時の記事のディテール(唇の動き方まで表現している)、そして1966年のシチュアシオニストのコンスタント・ニーヴェンホイスへのインタビューが、ジャーナリストから建築家に転身するきっかけとなったことなど。はじめてコールハースを知る人にとってもとっつきやすいフィルムであると同時に、はじめて公開されるようなマニアックな情報も詰め込まれており、今後コールハースのレファレンスとして、必携になることは間違いないだろう。
ところで、個人的に最も面白かったのは特典映像の方だった。これだけで一枚のDVDになっていて、絶対に見る価値がある。まず「ディルク・ベッカーとの対話」。ベッカーはニコラス・ルーマンのもとで博士号を取った優秀な社会学者らしいのだが、《ボルドーの家》も知らない、ベルリンについての考察も知らないということだから、かなり甘く見て、あまりコールハースのことを知らずにインタビューにのぞんだようだ。いくつか失礼ではないだろうかという質問もするベッカーに対し、コールハースは終始、謙虚に真摯に答える。さまざまに問いつめるベッカーに対し、コールハースはむしろインタビューする側に回り、相手の考え方を聞いた上で「その考え方を建築に当てはめてみると?」と逆質問するなど、切り返しが絶妙にうまい。コールハースはインタビューをする名手であるけれども、インタビューを受ける名手でもあることが分かる映像。もう一つ、「アスター・プレイス・プロジェクト」の映像も貴重だ。ヘルツォーク&ド・ムーロンと協働した唯一のプロジェクト。OMAのなかでコールハースが次々と指示を出していく映像や、クライアントとの接し方のヘルツォークとの差異など、「現場」のコールハースを見ることが出来るのは興味深い。本編の冒頭にあったように、「コールハースが建てるどの建物よりも、彼自身が面白い」。
2009/04/27(月)(松田達)
『Casabella Japan』775号
発行所:アーキテクツ・スタジオ・ジャパン
発行日:2009年4月25日
たまにカサベラ誌を広げることを楽しみにしている。というのもグローバル化が進むなか、誰もが同じような情報を受け取っていると恐ろしいと感じつつあるのだが、まったく違うコンテクストのなかで、やはり建築が生まれつつあるということを、再確認できるからである。独自の時間軸をもったメディアであるともいえるのだろうか。基本的に南欧とモダニズムをベースにした建築が取り上げられる傾向にあり、最近ネットでよく見かけるような、いわゆるアイコン的建築は少ない。大判の写真のよく似合う、いわばネット化されにくい建築であるといえるかもしれない。本号も、イベリア&イタリアといった特集があり、ミース以降のIITキャンパスについてマイロン・ゴールドスミスが取り上げられるなど、カサベラらしい路線が貫かれている。編集長であるフランチェスコ・ダル・コー自身の方向性が強く現われている雑誌であるのだろう。他の建築メディアと比較してみた時、ある人は「遅れている」と感じるのかもしれない。けれども、ヨーロッパ、特にイタリアにおける独特の時間の流れは、異なるベクトルに沿って進むような時間軸であって、リニアな時間の座標軸だけでは理解が難しいのではないだろうか。そういう可能性を感じさせるカサベラ誌に、部分的に日本語訳したリーフレットがついているのがカサベラ・ジャパンであって、現在日本語で読める建築メディアのなかで、もっともグローバルな動きと距離を置くメディアの一つではないかと思う。とはいえ、グローバルな動きとはいっても、それは相対的なものに過ぎないのだが。
2009/04/25(土)(松田達)