artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
A-cup2009
茨城県波崎のグラウンド[新潟県]
今回で第8回を迎える建築関係者によるサッカー大会。日本でワールドカップが行なわれた2002年、阿部仁史、石田壽一、塚本由晴、磯達雄、馬場正尊の各氏を発起人とし、約100人の参加者が集い、初回のA-cupが開かれた。以降、この大会は次第に拡大し、今回は27チーム650人が参加する非常に大きな大会となった。建築とサッカーを愛するという大きなスローガンのもと、銚子にほど近い茨城県波崎に日本全国からチームが集合し、前日に前夜祭、当日は一日で決勝までを行なった。母体は大学の研究室であったり、設計事務所であったり、建築関係企業であったりとさまざまだ。日本サッカー協会のルールに準じるが、建築関係者の親睦を深めることが本来の目的であり、15分ハーフであること、交代は何度でも自由、ピッチ内に40代以上が必ず一人以上、30代か女性が必ず一人以上、女性か中学生以下が必ず一人以上いること、女性の得点は2点とするなど特別ルールが加えられている。女性に触れるとファウルとなるため、このルールを逆手に取って、去年からほぼ女性だけの「スパイクガールズ」というチームも現われるなど、多様性を増したチーム編成が可能となっている。
さて今年の戦い、結果からいうと、優勝は京都造形芸術大学などを母体とした「京都ケマリ倶楽部」、準優勝は大阪の複数の大学による「ソレッテ大阪?」である。関西勢が強かった。筆者のいる56FCは去年ベスト4まで残ったものの、今年は2回戦で敗退。去年の優勝チーム「レアル・間取り・どう?」や準優勝チーム「フノーゲルス」はベスト4にも現われないなど、浮く沈みが激しくドラマも多い。それにしても本気ともお遊びともつかないこのような建築関係イベントが継続していることは、とてもほほえましいことだと思う。誰にも経済的なメリットがあるわけでもなく、単に建築が好きだから、サッカーが好きだからという理由で、これだけの人数が集まり、交流をして全国に散っていく。建築も好きでないとやっていけない大変な仕事であり、その意味で好きであること、楽しむことの大事さを、それとなく感じさせるこの大会は、ある意味、建築家という職業の本質を示唆してもいるのだ。
2009/07/05(日)(松田達)
高橋堅《弦巻の住宅》
[東京都]
竣工:2009年
旗竿地の奥の不定形な敷地に、十字を崩したような形態の二層のボリュームと、それを包絡する七角形の屋根。十字のあいだの部分は庇のかかったテラスとなっている。運良く高橋氏とお施主さんに内部を案内して頂く機会があった。以前からぜひ見たいと思っていた住宅であり、大変貴重な機会であった。
角度が直交座標から少しずつずれていることで、内部での経験は何とも簡単に言語化できない複雑なものであった。特に全体が見渡せる二階のLDKと子ども室を含んだ空間では、360度見えているにも関わらずプランの全体像が分からないという不思議な体験をした。
高橋はこの住宅に関して「円環するパースペクティブ」という論考を書いている。われわれは空間において焦点を同時に一つの場所にしかあわせることができないのに、その視点や焦点距離を動かし、また被写界深度を変えることで、空間全体を把握しているかのように認識している。それはパースペクティブ(透視図法)という制度に従っているからだという。しかし高橋はそこから「パースペクティブによる空間」に対して疑いをかける。おそらく彼は、パースペクティブという制度に抵抗する空間をつくろうとしているのであろう。弦巻の住宅は、複数のパースペクティブを順に円環させる仕掛けを内包させた住宅であり、彼の論考はそれについて触れたものだと言える。
角度や焦点の絶妙なずれが、複数のパースペクティブ間を運動させる原動力となっているようであるが、同時にそれによってつくられる空間体験の効果が、正確なプラン(ここでは平面図に加え、計画を組織する二次元的な図面全般の意味で用いている)を決して想起させないという点についても重要に思われた。プランとは決して現実に見ることのできない視点による図面表記であるのだから、われわれが感じる空間体験を本来プランとして理解することは難しいはずである。同様にプランによって本来的な空間体験を記述しつくり出すことも難しいはずである。平面や断面など二次元的な表現の組み合わせによって到達できないはずの、空間がもつ本来の可能性に彼は挑戦しようとしている。彼はロンシャンの礼拝堂における空間体験が、その後に見た写真イメージによってどんどん他のものに置き換えられていく経験について語っていたことがある。写真イメージは一見三次元的であるが、一つのパースペクティブによって「空間的」に見えるだけのものであり、むしろ二次元の側に近いだろう。だからロンシャンでの豊穣な空間体験をいつの間にか捨象して、二次元的なものに置き換えていったのだ。彼の考え方を敷衍すれば、本来の空間体験は複数のパースペクティブを移動し、またそこから逃れようとする運動によってはじめて得られるようなものである。そのような本来的な空間体験を目指したのが《弦巻の住宅》であり、「円環するパースペクティブ」という論考は理論的にその考え方を説明しようとしている。いわば弦巻の住宅は、計画化されない空間、もしくは写真に置き換えられない空間と言うこともできるだろう。
2009/07/03(金)(松田達)
大地の芸術祭──越後妻有アートトリエンナーレ2009
会期:2009/07/26~2009/09/13
越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)760km2[新潟県]
越後妻有アートトリエンナーレは今年で4回目を迎える。新潟県の南端、越後妻有地区という広大なエリアで開催される芸術祭であり、地域がもつさまざまな価値をアートを媒介にして世界に発信して地域再生につなげる「越後妻有アートネックレス整備事業」の成果の発表の場でもある。里山のもとに広がる美しく多様なランドスケープの中で、美術家や建築関係者をはじめ多くの作家たちがそれぞれのテーマを見つけて作品を展示する。今回は新作約200点を含む約350点の作品が、200の集落をベースに展開される。また廃校を活かす、世代をつなぐ、世界の芸能を紹介する、食と農を演出するなど、多彩なテーマが芸術祭を彩る。広大である分、単に作品と鑑賞者というスタティックな関係ではいられないだろう。必然的にこの越後妻有という地域に入り込み、そこに住む人たちと出会いながら作品を見ることになるはずであり、ぜひ現地に赴きたい。
2009/06/30(火)(松田達)
アイ・ウェイウェイ展──何に因って?
会期:2009/07/25~2009/11/08
森美術館[東京都]
アイ・ウェイウェイが六本木にやってくる。ヘルツォーク&ド・ムーロンとの《鳥の巣》でのコラボレーションで彼の名前を知る人も多いだろう。現代中国のもっとも注目されるアーティストであり、1999年以降は建築系プロジェクトも数多く手がける。また作家であると同時にキュレーターとして「芸術文件倉庫」を主宰するなど、幅広い活動を行なう人物である。この展覧会は、新作6点を含む26点が展示される過去最大級の個展だという。関連企画としてアイ・ウェイウェイ自身と松原弘典氏によるレクチャーがあるほか、特に気になるのは、セッション「8時間日曜対談─アイ・ウェイウェイ×アート×建築」(2009年7月26日)であり、ウリ・シグ、隈研吾、杉本博司ら多彩なゲストと、なんと8時間にわたって対談するという。
2009/06/30(火)(松田達)
夢の中の洞窟
会期:2009/08/01~2010/01/17
東京都現代美術館[東京都]
東京都現代美術館の中庭部分に大西麻貴+百田有希のフォリーが展示される。MOT×Bloombergパブリック・スペース・プロジェクトにおけるもので、2009年8月1日から6ヶ月間展示されるという。二人のブログ(http://oaharchi.exblog.jp/)に現時点(執筆時)には一枚だけ画像がおかれている。床と天井がそれぞれ隆起して、数点で接しているような、まるで鍾乳洞のような空間。形態的には2008年末にダブルクロノス展の一貫で白金台に設置された《都市の中のけもの、屋根、山脈》の延長上にあるようにも見える。実は筆者は直前に大西さんらの事務所にうかがい、進行状況などを聞いた。極めて刺激的なプロジェクトで、オープンが楽しみだ。同時に併設ギャラリーで彼女/彼らの展覧会も開かれるという。
2009/06/30(火)(松田達)