artscapeレビュー
『10+1 No.48 特集:アルゴリズム的思考と建築』
2009年06月15日号
発行所:INAX出版
発行日:2007年9月30日
建築におけるアルゴリズムという概念の火付け役の一つとなった本。その先見性が素晴らしい。編集協力は柄沢祐輔。単にアルゴリズムを新しい建築用語として持ち出そうとしているわけではない。柄沢は、アルゴリズムを「決定ルールの時系列をともなった連なり」として定義し、広義な文脈に結びつける。巻頭には磯崎新、伊東豊雄らへのロング・インタビューもあり、もっともハードコアな建築家の思考のなかに「アルゴリズム的思考」の痕跡を見つけ、現在の流れへと結びつけていく。過去の建築や、建築以外の分野からも「アルゴリズム的思考」を抽出する。おそらく、早すぎた特集だったともいえる。筆者も本書に関わっていたのだが、最近になって読み直してみて、新しく理解できた部分が多かった。
例えば『計算不可能性を設計する──ITアーキテクトの未来への挑戦』の著者である神成淳司へのインタビューは、コンピュータ・サイエンスの話だと思って当初は読み飛ばしていたのだが、四つの計算不可能性をめぐって情報レベルと建築レベルの話が仮構されており、アルゴリズムというより、情報科学の見地から建築を考える思考にまで至っていて興味深かった。計算不可能性を分類して見いだすことで、それを乗り越える新しい可能性を見つけるという思考を、建築にも適用しようとしているのだ。
2009/05/31(日)(松田達)