artscapeレビュー

梅佳代 展

2013年05月15日号

会期:2013/04/13~2013/06/23

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

梅佳代が東京オペラシティアートギャラリーで個展を開催すると知って、ちょっと心配になった。彼女の、時々画面の右下に日付の表示が入っているようなスナップショットは、雑誌や小型サイズの写真集なら目に快く飛び込んでくるが、あの天井が高く広い会場にはうまくおさまらないのではないかと危惧したのだ。ところが、実際に展示を見て、その不安は見事に吹き飛ばされた。梅佳代の写真から伝わってくる生命力の波動は、写真を大きくプリントしようが、額縁におさめようが、変わりがないどころかさらにパワーアップしているようにすら感じられたのだ。会場全体のアートディレクションを担当したグラフィック・デザイナーの祖父江慎の力量もあるだろうが(カタログも素晴らしい出来栄えだ)、彼女の写真にもともと備わっている「巻き込み力」の強さをあらためて思い知らされた。
展示全体は「シャッターチャンスPart1」「女子中学生」「能登」「じいちゃんさま」「男子」「シャッターチャンスPart2」の6部、約390点で構成されている。2001年にキヤノン写真新世紀で佳作を受賞した「女子中学生」のあっけらかんとした野放図なカメラワークにも度肝を抜かれたが、今後の彼女を占ううえで重要なのは、現在も撮り続けている「能登」シリーズ(新潮社から写真集『のと』も刊行)ではないだろうか。生まれ育った石川県能都町、そこに住む家族と故郷の人々を愛おしさと批評的な距離感を絶妙にブレンドして撮り続けているこの連作は、梅佳代にとってライフワークとなるべきものだろう。だがそれだけではなく、地域社会と写真家との関係のあり方を、志賀理江子などとは別な形で切り拓きつつあるのではないだろうか。写真を目の前にして対話の輪が生まれ、それが周囲を巻き込みながら波紋のように広がっていく、そんな楽しい未来図が予測できそうな写真群だ。

2013/04/21(日)(飯沢耕太郎)

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