artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

田中加織 展 庭島

会期:2013/01/04~2013/01/16

gallery near[京都府]

蛍光色のピンク、グリーン、オレンジなどで鮮やかに彩色された、浮島と樹木、あるいは霊山。それらはまるで人工着色料や甘味料をたっぷり使ったお菓子のようだ。田中は「人工的自然物から感じられる人の意識」をテーマに作品を制作している。つまり、日本庭園や盆栽などに見られる日本人特有の自然観を、現代的な感覚で表現する画家と言えよう。彼女の作品は過去に何度も見ているが、近年は地元関西での発表が少なかったので、本展は貴重な機会だ。特に大作を見られたのが収穫だった。

2013/01/15(火)(小吹隆文)

吉岡佐知 展

会期:2013/01/15~2013/01/20

ギャラリー恵風[京都府]

芭蕉や果実をモチーフにしたカラフルで様式的なスタイルで知られる吉岡の絵画。ところが本展では、まったく新たな試みが見られた。その試みとは墨絵で、これまでの彼女には見られない、ざっくりした大胆な筆致が特徴である。また、半分に折った紙に描いて半面は滲みだけで図像をつくるという、デカルコマニー的手法も用いられていた。綿密にコントロールされたこれまでの作風の真逆ともいえる新作は何を意味するのか。その答えは次回以降の個展を待たねばならないが、彼女が新たな領域に踏み込んだのは間違いない。

2013/01/15(火)(小吹隆文)

プレビュー:コレクション ウラがもれる

会期:2013/01/12~2013/03/03

伊丹市立美術館[兵庫県]

タイトルは、「日常のモノの裏側にぽっかりと空いた空間から何かが洩れ出てくるような。」という今村源の言葉より着想をえたものとされている。内と外、裏と表、光と影など、目に見える世界と背中合わせに存在し、切っても切れない関係にあるさまざまな“ウラ”をテーマに、コレクションのなかから想像世界へと見る者を誘う作品を紹介する。おもな出展作家は、今村源、土谷武、堀尾貞治、山田光、オノレ・ドーミエ、ニキ・ド・サンファール、ジャン・デュビュッフェ、ロルフ・ユリウスなど。1月19日(土)には今村源によるアーティストトークも開催される。

2013/01/15(火)(酒井千穂)

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カタログ&ブックス│2013年1月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

集落が育てる設計図 アフリカ・インドネシアの住まい

企画:LIXILギャラリー企画委員会
写真・図提供:東京大学生産技術研究所藤井研究室
イラスト:TUBE graphics、川原真由美、ゆりあ・ぺむぺる工房
発行日:2012年12月31日
発行所:LIXIL出版
サイズ:210×210mm 93頁
定価:1,890円(税込)

LIXILギャラリーで行なわれている「集落が育てる設計図–アフリカ・インドネシアの住まい」展のカタログ。本書では、50ヵ国500もの集落を実測記録してきたフィールドワークの中から、住居づくりの原点である「土」からなるアフリカと「木」からなるインドネシアのユニークな住まいを2本柱に、集落ごとの独自性と共通性を、味わいのある線描写の立体図面や平面図また写真を多用し、分かりやすく読み解いていく。調査リーダー・藤井明氏の丁寧な解説付きで、暮らしの原点に通じる英知と空間に潜む考察が繰り広げられる。調査に同行した元研究生らのインタビューも収録。建築家の目で行ってきたフィールドワークの成果を凝縮した一冊。
同展覧会は、2013年2月21日までLIXIL大阪ギャラリー、2013年3月6日〜5月25日にはギャラリー1(東京)にて行なわれる。
LIXIL出版サイトより]


冥府の建築家 ジルベール・クラヴェル伝

著者:田中純
発行日:2012年12月18日
発行所:みすず書房
サイズ:188×127mm 540項
定価:5,250円(税込)

幼少期の結核が元で宿痾をかかえたジルベールは、イタリア未来派の演劇活動として未来派演劇の監督、さらに「自殺協会」と題された幻想小説の作家であり、アヴァンギャルドにして、南イタリアはポジターノの岩礁を爆破し穿孔して建てた洞窟住居の建築家である。本書は、バーゼル、マッジャ、ローマ、ポジターノなど、スイスとイタリアの各地に分散した遺稿や資料を可能なかぎりすべて調査し、この知られざる特異な作家/建築家の生涯と妄執を辿り直した、世界でも初めての評伝である。
[書籍帯等より構成]


マグリット 光と闇に隠された素顔

著者:森耕治
発行日:2013年01月20日
発行所:マール社
サイズ:B5変形判(220×170mm) 160項
定価:2,625円(税込)

日本人初のベルギー王立美術館公認解説者・森耕治氏による、マグリットの作品を新しい解釈で読み解いた作品解説書です。《光の帝国》《大家族》《ピレネーの城》といった日本でも有名な作品はもちろん、マグリットの人生を解き明かすうえでかかせないシュルレアリスム以前の作品や、これまで日本では画集に掲載されたことのない貴重な作品なども収録した、画集としても充実の1冊です。作品のほかに、当時のモノクロフィルムや、現在のマグリットゆかりの地の写真も豊富に掲載! “イメージの魔術師”の異名を持つマグリットが追い求めたもの。それが人類普遍の願いであることに、あなたもきっと驚くはずです。
[マール社サイトより]


TOKYO INTELLIGENT TRIP 02 TOKYO研究所紀行

編集:勝山俊光
発行日:2012年9月1日
発行所:玄光社
サイズ:A5判 143頁
定価:1,260円(税込)

最先端科学から宇宙研究、暮らしの最新技術まで実際に訪れて、見学できる研究所を集めました。ほんの少し先の未来を感じられる場所へ、小さな旅に出かけてみませんか。
「TOKYO図書館紀行」に続く、TOKYO INTELLIGENT TRIPシリーズ第2弾!!
好奇心が刺激される最新研究所を紹介します。福岡伸一、枝廣淳子書き下ろしエッセイ、べつやくれい研究所コミック、瀬名秀明、福江翼インタビューなども収録。
最新の研究を知ることができる、これまでになかった研究所ガイドです。
玄光社特設サイトより]


7iP♯03 KOJI KAkiuchi

編集:team 7iP
発行日:2012年11月10日
発行所:ニューハウス出版
サイズ:A5変判 96頁
定価:1,575円(税込)

建築を完成させるまでの行程を丁寧に繙いていきました。
プロジェクトによって変化する建築家の考え方、 作り上げるための構造、設備、施工のアイデア。クライアントをはじめ、携わる人とのコミュニケーション… 1つのプロジェクトだけを特集した本。
1冊で1プロジェクト、シングル盤のような本をつくりました。
この目的のもとすすめられる7inchProjectの第3弾。100年前から建つ京都の町家を、垣内光司と素人である施主(作り手=住み手)が ゼロから作り上げていくプロセスを通して、DIYの社会性とその未来を探る。
7inchiprojectサイトより]


TOKYO BOOK SCENE
読書体験をシェアする。新しい本の楽しみ方ガイド

執筆・アートディレクション:桜井祐(東京ピストル)
編集協力:くわ山ともゆき(東京ピストル)
装丁・デザイン:吉田朋史(東京ピストル)
企画:草彅洋平(東京ピストル)
写真撮影:新藤琢、鈴木渉、坂田貴広
発行日:2012年12月13日
発行所:玄光社
サイズ:A5判 127頁
定価:1,260円(税込)

本書は、“新しい読書体験のビギナー”に向け、東京近郊の「本を介したコミュニケーションの場」を紹介するブックカルチャーガイドです。気になる個性派本屋、おしゃれなブックカフェはもちろん、それぞれ課題図書を読んできて、感想を話し合う読書会、珍しい本との出会いに誘う古本市など…。
これまでは読書と言えば、個人で楽しむものでしたが、最近はSNSなどを通じて“みんなで本を楽しむ”新しい読書スタイルの提案などもしています。
本好きの方はもちろん、新しいブックカルチャーに触れてみたい方、知的な趣味を探している方などにも、ぜひ手にとっていただきたい一冊となっています。
玄光社サイトより]

2013/01/15(火)(artscape編集部)

新津保建秀「\風景+」

会期:2012/12/18~2013/01/14

ヒルサイドフォーラム[東京都]

新津保建秀の「\風景+」は、現代の「風景」のあり方をさまざまな観点から問い直す意欲的な展示である。日本の「風景写真」は美しい自然の景観を愛でる「ネイチャー・フォト」から、1980〜90年代以降の、小林のりお、柴田敏雄、畠山直哉、松江泰治らによる自然と人工物、人間と社会との関係性を検証する批評的なアプローチを経て大きく飛躍した。だが1990年代半ば以降のデジタル化、インターネット環境の成立に即した「風景写真」の方向性は、まだ明確には見えてきていない。新津保の展示は、そのスタートラインを引こうとする試みと言える。
たとえば、風景を撮影した画像をパソコン上で立ち上げるとき、データが重たいとその一部だけが表示され、残りはフラットなグレーな画面になってしまうことがある。時間がたつとグレーの部分が少しずつ小さくなり、画像全体があらわれてくる。あるいは複数の画像を連続的に立ち上げると、端の部分が重なりあって、そこに断層面を思わせる不思議なパターンが見えてくる。パソコンを介してあらわれてくる、そのような視覚的経験も、断片化し、記号化した現代的な「風景」の受容、消費のあり方を示す指標となる。新津保の今回の展示では、パソコン上のデジタル画像を、自然や都市の環境と意図的に混同、併置する、多彩な実験が展開されていた。
もうひとつ興味深いのは、あえて特定の場所にこだわり(たとえば稲城市、あきる野市、代官山)、その土地にまつわりつく情報(たとえば不審者目撃情報)をある種の「マップ」として視覚化しようとする試みだ。こちらはまだ、写真作品としては試作の段階に留まっているように見えるが、さらなる可能性を秘めた領域と言える。いずれにしても、デジタル環境における「風景」を超えた、あるいは「風景」を異化した「\風景+」には、もっと多くの写真家たちが関心を寄せてもよいだろう。なお、角川書店から同名の写真集も刊行されている。

2013/01/14(月)(飯沢耕太郎)

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